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51 獣人たちの訪問

 獣人というのは、やたらと己の筋肉を信奉する生き物である。


 たとえば、俺たち人間が「この荷物は二人がかりで運ぶべきだろう」と考える場面でも、獣人は「筋肉を使えば一人でいける」と判断する。人間が「これは槌で丁寧に打つべき」と考えるところを、獣人は「腕力に任せてぶん殴る」と決める。おそらく、彼らの文化には「丁寧」という概念が存在しないのではないか?


 そんな獣人たちが村を訪れた。


 「村を見せてくれ」


 獣人の鍛冶師が腕を組んで言う。


 俺は村の鍛冶場へと案内した。そこでは、元々この村にいた鍛冶師が、黙々と作業をしていた。口数が少なく、鉄と向き合う時間がすべてという職人気質な男である。


 「お前がこの村の鍛冶師か?」


 「そうだが」


 「お前の技術、見せてもらおう」


 鍛冶師は黙って炉に火を入れた。炭をくべ、鉄を熱し、槌を振るい始める。その動きは無駄がなく、長年の経験に裏打ちされたものだった。俺は「どうだ獣人よ、これが人間の鍛冶技術だ」と内心で誇らしく思っていた。


 しかし、獣人の鍛冶師はそれを見て鼻を鳴らした。


 「随分と悠長なやり方だな」


 「何?」


 「俺たちなら、もっと速く、もっと頑丈なものを作れる」


 「ほう……ならば、見せてみろ」


 鍛冶師はそう言って炉の前から退いた。


 獣人の鍛冶師が懐から黒く光る鉱石を取り出した。


 「これは魔素鉱石といって、熱を増幅する性質を持つ」


 彼がそれを炉に放り込むと、火が一気に燃え上がった。


 「おいおい、大丈夫か?」


 「これで鉄の温度を一気に上げられる。時間短縮になるだろう?」


 俺たちが熱した鉄を槌で叩きながらじわじわと形を作るのに対し、獣人たちは「最初から限界温度まで上げ、一気に仕上げる」という発想なのだ。


 確かにこれは速い。しかし、荒い。


 「強度は?」


 村の鍛冶師が冷静に尋ねると、獣人の鍛冶師は豪快に笑った。


 「問題ない。俺たちの武器は、魔素を帯びることで通常の鉄よりも頑丈になる」


 「ならば、その技術を教えてくれ」


 村の鍛冶師はじっと炉の中を見つめながら言った。


 獣人の鍛冶師も、それを見てにやりと笑う。


 「いいだろう。ただし、お前の技術も学ばせてもらうぞ」


 こうして、獣人の魔素鍛冶と、人間の精密鍛冶が交わる瞬間が訪れた。


 一方、獣人の薬師もまた、村の食材を調べていた。


 「これは?」


 「ウサギ肉だ」


 「食えるのか?」


 「普通に食える」


 獣人の薬師はしげしげとそれを眺めた後、「薬になるかもしれんな」と呟いた。


 「は?」


 「魔素を含んだ動物の肉には、回復効果があることが多い。適切に調理すれば、薬としても使えるかもしれん」


 俺は思わず耳を疑った。


 「つまり、お前たちは肉を薬として使うのか?」


 「当然だ。食事と治療は表裏一体だろう」


 獣人たちにとって、薬とは「生きるための補助」ではなく、「生命力を最大限に引き出すもの」らしい。彼らの薬は、体力を回復させるというより、「戦闘力を引き上げる」という目的で使われることが多いのだという。


 「じゃあ、お前たちの薬って、どうやって作るんだ?」


 「生薬をそのまま噛む」


 「……は?」


 「新鮮なうちに摂取するのが一番効く」


 俺は頭を抱えた。


 こっちは文明的な医療を期待していたのに、彼らの方法は「噛め、飲み込め、そして戦え」である。まったくもって、獣人らしい発想である。


 「でも、保存方法を知らないなら、お前らが遠征するときに困らないか?」


 「確かにな。じゃあ、お前たちの方法を教えろ」


 こうして、獣人たちの「本能的な薬草知識」と、俺たちの「保存技術」が交わることとなった。


 獣人たちの訪問は、ただの交易ではなかった。


 鍛冶の分野では、魔素を使った強化技術と、人間の精密鍛冶が融合し、新たな可能性を生み出した。


 薬の分野では、獣人たちの生薬の知識と、保存技術が交わることで、新しい医療手段が生まれつつある。


 そして何より──


 「よし、ここの生活は気に入った!」


 獣人の鍛冶師はそう言い、勝手に村に住み着くことを決めた。


 「おい、聞いてないぞ」


 「なんだ、お前の村はこんなに技術があるのに、まだ発展途上じゃないか。俺たちがいれば、もっと強くなるぞ!」


 俺は心の中で「俺は強くなりたいわけじゃないんだが」と呟いたが、彼の言うことも一理ある。確かに、鍛冶も薬学も、彼らの知識が加わることで大きく進化していくだろう。


 異種族との共存。


 それは思ったよりも、俺の想像を超えた形で広がりつつあった。


 「ところで……俺たち、交易の話をしに来たんだったよな?」


 獣人のリーダーがふと我に返った。


 「お前たちの村、何か交換できるものはあるか?」


 俺は少し考えた後、あるものを思い出した。


 「……ウサギだな」


 獣人たちは、六本足のウサギたちが槍を構えて佇む姿を見つめた。


 「……なんだこれは?」


 「俺たちの村の……新たな仲間だ」


 獣人たちは無言でウサギたちを見つめた後、じっと俺を見た。


 「……まあ、面白い村だな」


 こうして、俺たちの村はまた新たな異種族とつながり、交易の第一歩を踏み出したのだった。

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