47 人魚族との交渉
異世界において、交渉というものは概ねややこしいものだが、それが相手に魚の尾がついている場合、そのややこしさは三割増しになる。
なぜなら、彼女たちは水の中で暮らす生き物であり、俺たちは陸の上で暮らす生き物だからだ。住む場所が違えば、考え方も違う。陸に生きる者にとって、家とは石や木で作るものであり、暖をとるために火が必要だが、海の民にはそんなものは不要である。彼女たちは水流の中で眠り、潮の流れを読んで移動し、火の代わりに魔素の輝きで灯りを取るらしい。
──そんな奴らと、どうやってまともな交渉をしろというのか。
「つまり、私たちが欲しいのは、陸の鉱石や建築の技術、そして火を扱う力です」
海の王女・レイヴィアはそう言った。
「ふむ……で、お前たちは何を提供できるんだ?」
「私たちの持つ海洋鉱石や魔法貝は、陸の者にとっても有用なはずです。特に、魔法貝は魔素を蓄える性質があり、魔法道具の触媒にもなるでしょう」
俺は腕を組み、後ろで話を聞いていたセリアをちらりと見た。
「……悪くないわね」
魔素暴走系魔法使いセリアがにんまりと微笑む。
「魔法貝があれば、魔道具の研究が進むかもしれないわ。それに、海洋鉱石……もし魔素を安定させる特性があるなら、村の魔力供給にも応用できるかもしれない」
俺は顎に手を当てた。
「つまり、お互いに得がある取引ってことか?」
「ええ、その通りです」
──交渉成立、である。
こうして、陸と海との交易が始まることになった。
さて、人魚というものは、どうにも陸に対して過剰な好奇心を抱く生き物らしい。
「陸では、皆、歩いて移動するのですね?」
「ああ、そうだ」
「そして、空気の中で眠るのですか?」
「そりゃそうだろう」
「食事は、どうやって摂るのです?」
「火を使って料理をする」
「火……!」
レイヴィアは興味深げに目を輝かせた。
それにしても、彼女の質問は尽きることがない。まるで好奇心旺盛な子供のように、陸のことを知りたがるのだ。
「そんなに陸が気になるのか?」
「ええ、とても!」
レイヴィアはぱっと笑顔を見せた。
「私、陸を歩いてみたいんです!」
俺はぎょっとした。
「お前、足がないだろう」
「だからこそ、試してみたいのです!」
──どうやら、人魚というものは考えなしに突っ走る傾向があるらしい。
セリアが呆れたように溜息をつく。
「それなら、魔素変換の技術を使えば、可能かもしれないわね」
「魔素変換?」
「魔素の流れを一時的に変えれば、人魚の尾も人間の足に変わるかもしれないわ。でも、持続時間には限りがあるでしょうね」
レイヴィアの目が輝いた。
「それなら、ぜひ試してみたいです!」
俺は頭を抱えた。
「お前、本当にやるのか……?」
「ええ! 陸の暮らしを体験してみたいんです!」
──こうして、レイヴィアは「人間になる方法」を探し始めることになった。




