表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

44/137

44 元大工の男

 異世界において、「家」とは単なる雨風をしのぐための箱ではない。そこには暮らしがあり、文化があり、誇りがある。たとえば、人はなぜ屋根を作るのか? それは、ただ単に雨に濡れたくないからではない。天井の下にこもる温もり、壁に囲まれた安心感、そして「ここが俺の城である」という確固たる実感こそが、人間を人間たらしめるのである。


 ──さて。


 そんな哲学的な思索にふけっている暇もなく、俺たちの村は今、明らかに限界を迎えつつあった。


 人口は増え、村は賑わい、食糧も十分に確保できるようになった。だが、俺たちの住環境はというと、相変わらず木材と土壁を組み合わせた「仮住まい」の域を出ていない。簡単に言えば、家がボロいのである。風が吹けばミシミシと軋み、雨が降れば屋根の隙間からしずくが落ちてくる。もはや「この異世界で生き抜いてやるぜ!」と意気込む段階は終わった。次に目指すべきは、より快適な「文明的な暮らし」である。


 そんな折、またしても俺たちは漂流者を拾った。


 ──今度の男は、やけにがっしりした体つきをしていた。


 広い肩幅、筋張った腕、無駄のない肉付き。砂浜に倒れ伏していた男は、俺たちが声をかけると、ゆっくりと顔を上げた。


 「……ここは……?」


 「ようこそ、異世界へ」


 男はしばらく俺をじっと見つめたあと、ぐっと拳を握りしめた。


 「異世界、か……ふむ」


 なぜか納得したようだった。


 俺はセリアとリュナに視線を向けた。彼女たちも「今度の漂流者は妙に落ち着いているな」と思っているようだった。


 「お前、何者だ?」


 俺の問いに、男はぐっと胸を張る。


 「俺は大工だ。名をゴロツキのゴロウという」


 「ゴロツキ……?」


 「いや、昔のあだ名だ。真面目に大工をやっていたのだが、ちょっとしたトラブルで職を追われてな……」


 「……なるほど」


 異世界に漂流してくる人間というのは、なぜこうも個性的なのだろうか。だが、大工というのは悪くない。むしろ、俺たちが今最も求めていた職業ではないか。


 「お前、家を建てられるのか?」


 「当然だ。だが、どうやら材料と道具が足りないようだな」


 ゴロウは周囲を見渡し、何やら考え込むような表情を見せた。そして、おもむろに俺を見据える。


 「……お前、ゴーレムを作れるんだってな?」


 俺は驚いた。


 「なぜそれを?」


 「村のあちこちで動き回っているのを見れば分かるさ。あれを使えば、大掛かりな建築も可能ではないか?」


 俺は思わず手を打った。


 ──なるほど、それだ。


 ゴーレムはこれまで農業や水汲み、荷運びに活用してきたが、よく考えれば「建築」という分野にも応用できるはずだ。重い石材を運び、土台を固め、柱を組み上げる。人間がやれば時間のかかる作業も、ゴーレムの力を借りれば一気に進むだろう。


 「ゴロウ、お前、村に残る気はあるか?」


 「ふむ……家さえあればな」


 「家を作るために、お前の力が必要なんだが」


 ゴロウは少し考え、やがて豪快に笑った。


 「なるほど、それも一興! ならば、まずは一軒、俺の手で立派な家を建ててやろう!」


 こうして、大工・ゴロウを中心に「本格的な建築計画」が始動した。


 ──まず、素材の確保である。


 これまでは木材が中心だったが、今回は「石造りの建物」に挑戦することになった。ゴーレムを使って岩を運び、村の周囲に石材加工場を設ける。石を組み上げるには専門的な技術が必要だが、ゴロウの指示のもと、俺たちは試行錯誤しながら新しい工法を学んでいった。


 「おい、ゴーレムの手が雑すぎるぞ! もうちょい角を整えろ!」


 「いや、ゴーレムに繊細な作業を求めるのは難しいんだよ……」


 「だったら、型枠を作れ! そこに石をはめて、強固な壁にするんだ!」


 なるほど、型枠か。ゴロウの指示に従い、俺たちは木枠を作り、そこに石材をはめ込んでいく。これにより、より精度の高い建築が可能になった。


 ──次に、家畜エリアの拡張である。


 六本足ウサギ(仮)はもはや単なる家畜ではなく、村の重要な労働力となっている。彼らのために、より快適な住処を作る必要があった。加えて、最近は飼育する家畜の種類も増え、羊や鳥類の導入も検討されている。


 「ここには柵を作って、ウサギたちが自由に動けるスペースを確保しよう」


 「それなら、水場も必要だな。飲み水の供給設備を作らないと」


 俺たちは話し合いながら、家畜エリアを次々と整備していった。


 ──そして、貯蔵庫の建設である。


 食糧供給が安定したことで、今後の課題は「長期保存」になった。これまでは穴を掘って保存する程度だったが、今回は本格的な石造りの倉庫を作ることにした。


 「ここに氷室を作れば、肉や魚の保存もできるんじゃないか?」


 「氷室だと? そんなものがこの村に……」


 「温泉があるだろ? つまり、熱源があるなら、逆に冷却もできるはずだ」


 俺たちは新たな実験に挑みながら、より発展した村づくりを進めていった。


 ──こうして、村はまた一歩、文明の階段を上ったのである。


 そして次なる計画は、「海辺の開拓」。


 俺たちは、本格的に漁業を始めることになる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ