表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

42/137

42 ウサギ獣人の少女

異世界において、ウサギというものは、もはやウサギであることに飽きてしまったらしい。


 六本足ウサギ(仮)は、長らく「ただの奇妙な家畜」として扱われてきた。しかし、もはやそんな枠には収まらない。彼らは組織化し、リーダーウサギは俺と意思疎通を試み、さらには原始文字のようなものまで書き始めた。おそらく、次にやることは火の使用だ。ウサギが火を扱い始めたら、それはもう新しい時代の幕開けである。


 そんなことを考えながら、俺はリーダーウサギの動きを見つめていた。


 ──そして、そのときである。


 ウサギたちの群れの奥から、異変が起こった。


 ぴしっ、と空気が震える。何かが弾けるような感覚が村を包み込む。まるで世界そのものが、一瞬だけ変化したような違和感があった。


 俺は反射的に振り向いた。


 そこにいたのは──


 一匹のウサギ……だった「何か」だった。


 いや、待て。


 それは、ウサギではない。


 そこには、長い耳を持ち、ふわふわの毛に覆われた少女がいた。


 少女はまるで、何かから孵化するように、立ち上がろうとしていた。彼女の耳はぴょこぴょこと動き、尻尾はふわりと揺れ、戸惑うように自分の手足を眺めている。


 ──まさか、進化したのか?


 いや、進化とは言っても、こんな極端な変化があっていいのか?


 「……お、お前……?」


 俺は恐る恐る声をかけた。


 少女はぴくりと耳を動かし、俺を見上げた。その瞳は、まるで何かを探るようにきらきらと光っていた。


 ──そして、次の瞬間。


 「あなた……!」


 少女は飛びついてきた。


 「わぷっ!」


 俺は咄嗟に受け止める。ふわふわした毛並みが俺の腕に絡みつく。そして、妙に軽い。いや、それよりも──近い。


 「ええと……お前は……?」


 少女はにっこりと笑った。


 「ずっとあなたについていく!」


 ──なんだと?


 俺は完全に固まった。


 つまり、この状況を整理しよう。


 六本足ウサギ(仮)が進化した。

 その中から、一匹が完全に人型化した。

 そいつが俺に飛びついてきて、「ずっとついていく」と言い放った。


 いやいや、そんな都合のいい話が──


 「もふっ……♡」


 少女は俺の胸に顔をうずめ、満足そうにふにゃりとした声を漏らす。


 「……えーと」


 俺は状況の飲み込みが追いつかない。


 ウサギ獣人の少女は、まるで最初からこうすることが決まっていたかのように、俺の服をぎゅっと握って離さない。


 「あなた、いつもわたしたちを守ってくれた。食べ物をくれた。だから、わたしもあなたのそばにいたい!」


 「ええと……お前、本当にウサギだったのか?」


 少女はこくんと頷く。


 「うん! でも、いまは違うよ。あなたのこと、ちゃんと話せるし、触れるし……!」


 いや、それはそうかもしれないが、俺としては納得が追いつかない。


 「ちょ、ちょっと待て。お前、名前は?」


 「名前……?」


 少女は考え込むように、ぴょこんと耳を動かした。そして、俺の顔をじっと見つめた。


 「あなたが、決めてくれる?」


 「えっ」


 「あなたが、名前をくれるなら、それがわたしの名前!」


 そう言って、少女は嬉しそうに尻尾を振った。


 ──俺は、なんという事態に巻き込まれているのだろうか。


 もはやこれは「異世界サバイバル」ではない。「異世界ウサギ進化論」である。


 俺は頭を抱えながら、それでもなんとか気を取り直し、少女をじっと見つめた。


 「……じゃあ、『ルナ』でどうだ?」


 少女──いや、ルナはぱっと顔を輝かせた。


 「ルナ……! ルナ! うん、すごくいい!」


 そして、また俺にぴょんっと飛びついてくる。


 「ねえねえ、ルナのこと、可愛いって思う?」


 「え、いや、まあ……」


 「やったぁ♡ あなた、大好き!」


 俺はもう、ため息をつくしかなかった。


 ──こうして、俺の異世界生活に、またひとつ新たな騒動が加わったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ