38 魔素共鳴
異世界において、生命というものはやたらと自由奔放である。
地球では、生命は悠久の時をかけて進化し、慎重に繁殖し、何万年もかけて環境に適応してきた。それが生命の基本的な在り方であるはずだ。
だが、この世界は違う。
気がつけば家畜として飼育していた六本足ウサギ(仮)が爆発的に増殖し、囲いの中でぎゅうぎゅう詰めになっている。
「……なんだこれは?」
俺はその異様な光景を前に、思わず眉をひそめた。
昨日までは十数匹だったはずのウサギが、今日は倍以上に増えている。繁殖のスピードが異常だ。いや、もはや繁殖というより、これは「分裂」ではないのか?
「やっぱり……魔素共鳴が関係してるのかもね」
セリアが冷静に分析する。
魔素共鳴──それはこの世界特有の現象であり、魔素が一定量を超えて蓄積すると、生命が「自己増殖」する可能性があるというものだ。
六本足ウサギ(仮)は、すでに家畜として定着しつつあった。草を食み、順調に育ち、安定した食糧源になっている。そこまではよかった。だが、問題は「勝手に増えすぎる」という点だ。
通常の家畜であれば、繁殖には時間がかかる。雄と雌がいて、交尾をして、妊娠し、出産し、ようやく次の世代が生まれる。それが生命の摂理というものだ。
だが、六本足ウサギ(仮)は違う。
「一定の魔素を浴びると、対になる個体が発生する」
俺は、以前ウサギが増殖した時の現象を思い出した。
「つまり、こいつらは……つがいがいなくても、条件さえ揃えば勝手に増えるってことか?」
「……そういうことになるわね」
リュナが腕を組んで考え込む。
「つまり、食料供給が安定するってことだろ?」
「まあ、そうね」
セリアは慎重な口ぶりで頷いた。
これは重大な発見だった。食料が安定することは、村の発展にとって極めて重要だ。狩猟や農耕は労力がかかるが、この「魔素増殖」を利用すれば、ほぼ自動的に家畜を増やすことができる。
しかし、俺はこの現象をただの家畜の問題で終わらせるつもりはなかった。
──もし、知的生命体にもこの現象が適用されたら?
その疑問が頭をよぎった瞬間、俺はある可能性に気づいた。
「……まさかな」
だが、俺の疑念は、すぐに現実のものとなる。
「ちょっと待て。リュナ、お前……」
俺はリュナをまじまじと見つめた。
「ん? 何よ?」
リュナは首をかしげる。
その背後に、もう一人のリュナがいた。
「……」
「……」
俺とセリアは、しばし沈黙した。
「おい、リュナ」
「なによ?」
「……お前、増えてないか?」
「は?」
リュナが怪訝な顔をする。
だが、俺の視線を追った瞬間、彼女もようやく気づいた。
「な……なにこれ!? 私がいるんだけど!?」
「いや、俺もびっくりしてる」
目の前には、もう一人のリュナがいた。本物のリュナとまったく同じ姿、同じ服装、同じ表情。だが、なぜか呆然としている。
「……まさか、お前も魔素共鳴で増殖したのか?」
「そ、そんなわけ……」
リュナ(本物)が動揺していると、もう一人のリュナ(仮)がゆっくりと顔を上げた。
「……ここは?」
その瞬間、俺は鳥肌が立った。
「……しゃべった?」
増殖したリュナ(仮)は、完全に意識を持っているようだった。
「私……? いや、違う……?」
「うわぁぁ! なにこれ!?」
本物のリュナが慌てふためく。
だが、俺はこの現象を冷静に分析しようとしていた。
魔素共鳴によって生まれた「新しい個体」は、単なるコピーではなく、明確な意識を持っている。つまり、これは……
「……知的生命体の人工増殖が可能、ってことか?」
俺は呟きながら、自分の手を見つめた。
これは、とんでもない発見だ。
村の人口増加を制御できるのなら、労働力の確保も容易になる。
「つまり、これを応用すれば……!」
俺は自分の思考の先にある可能性に気づき、思わず震えた。
文明の発展を加速させる禁断の技術が、今まさに俺の目の前で生まれようとしている。




