37 ゴーレム技術の向上
異世界における労働力の確保は、かくも悩ましい問題である。
そもそも俺は、ひっそりとサバイバル生活を営むつもりだったのだ。森で木の実を拾い、獣を狩り、火を焚き、食べて眠る。ある種の孤高の探求者として、静かに異世界の自然を満喫するつもりだった。
それがどうだ。
目の前には、畑を耕すゴーレム。水路を整備するゴーレム。木材を運ぶゴーレム。そして、そんなゴーレムたちを指揮する女たち。
「あなた、もっと効率的にやらないとダメよ」
セリアがそう言って、俺の設計図を横から覗き込んでくる。
「労働者が必要だからゴーレムを作ったんだぞ? 文句を言うなら自分でやってくれ」
「違うわ。ゴーレムの制御が雑なのよ。もっとスムーズに動けるように魔素の流れを調整すれば、無駄な動きが減るでしょう?」
なるほど、確かに俺のゴーレムはまだ動きがぎこちない。だが、それはゴーレムが労働者としての心得を持ち合わせていないからであって、別に俺の設計のせいではない。そもそもゴーレムは「従順な働き手」としての役割を果たせばそれでよく、細かい改善点を探すのは管理職の仕事だ。
「ふむ……」
そうして黙考していると、背後から別の声が飛んできた。
「このままでは村の建設が間に合わないわね」
振り返ると、エリスが腕を組んで俺を見下ろしている。
「また文句か?」
「文句ではなく、合理的な提案よ。私は精霊の力を借りられる。ゴーレムの制御に精霊の干渉を加えれば、もう少し効率的に動かせるはずよ」
「精霊ねえ……」
俺はエリスを観察しながら、ひそかに思う。このエルフの少女は、実に世の男性を惑わせる要素に満ちている。見た目は美しく、物腰は優雅で、それでいて常に自信満々。しかし、その実態は「やたらと要求の多い管理職」である。
エルフの文化は長命ゆえに計画的なのか、それとも単に口うるさいのか。俺には判断しかねる。
だが、ここまでゴーレム開発を進めてきた以上、さらなる改良が必要なのは確かだった。
「……よし、やってみるか」
俺はゴーレムの改良作業に取りかかった。
第一に、魔素の流れを最適化すること。セリアの助言を受けて、魔素導管の配置を見直し、よりスムーズに動作するように調整する。
第二に、精霊の干渉を導入すること。エリスの精霊交信能力を利用し、ゴーレムの動作に「環境に応じた柔軟性」を加える。
「たとえば?」
「たとえば、このゴーレムが土の状態を判断し、水やりの必要性を察知するようにするの」
……それは、もう単なる労働者ではないではないか。
「考えるゴーレム」というものを作り始めたら、それはもう人間と変わらない。むしろ、こちらの命令を無視して「この作業は非効率だからやめよう」とか言い出す可能性すらある。
だが、やるしかない。
俺はゴーレムの改良を進め、ついに新型の「半自律型ゴーレム」を完成させた。
試しに、畑で作業させてみる。
「ゴーレムA、水を撒け」
──ゴポゴポッ。
ゴーレムは指示に従い、バケツを手に取り、水を撒き始めた。だが、ここで驚くべきことが起こった。
ゴーレムは「必要な量だけ」水を撒いている。
「……こいつ、本当に考えてるのか?」
俺は自分で作っておきながら、戦慄した。
ゴーレムAは、セリアの魔素制御とエリスの精霊の力によって、単なる命令通りの作業をする存在から、「環境を判断して最適な動作をする存在」へと進化したのだ。
「すごいじゃない!」
セリアが感嘆の声を上げる。
「……ああ、確かにな」
俺は、畑で黙々と働くゴーレムたちを眺めながら、少しだけ複雑な気分になった。
これは、文明の大きな一歩である。労働力が飛躍的に増え、村の発展速度は格段に上がるだろう。
しかし、俺は思うのだ。
ゴーレムが労働を肩代わりするということは、つまり俺の働く機会が減るということである。俺がやるべき仕事が減るということは、つまり──
「また、お前たちにいろいろ口出しされる機会が増えるのではないか?」
俺がボソッと呟くと、セリアとエリスは顔を見合わせ、にっこりと微笑んだ。
「当然でしょ?」
「私たち、あなたの村をもっと良くしたいもの」
……くそっ。
俺の異世界開拓生活は、なぜこうも「女たちによる管理体制」に移行しつつあるのか。
畑を耕すゴーレム。家畜を世話するゴーレム。建築資材を運ぶゴーレム。そして、それを眺めながら議論を繰り広げる女たち。
俺は思わず天を仰ぎ、深いため息をついた。
──異世界における文明の発展とは、かくも試練に満ちているのである。




