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34 農業の発展

 異世界に降り立った当初、俺はこの世界を「少しばかり奇妙な無人島」と認識していた。地形は安定し、食料は自給可能、魔素というエネルギーの源はあれど、それがどこまで世界の理を支配しているのかは未知数だった。ならばまずは生き延びること。住処を作り、火を起こし、食料を確保し、水を運び、鉄を精錬し、文明を築く。シンプルにして壮大なプロジェクトを遂行するべく、俺は日々の発見を積み重ねてきたのだ。


 だが、ふと気がつけば、この世界はとっくに「無人島」などではなくなっていた。獣人少女リュナ、魔素暴走系魔法使いセリア、つがいで増える六本足ウサギ(仮)、そして最近は何かとこちらを見つめてくる人工生命ゴーレム。俺の拠点はすでに「集落」と呼ぶべき規模にまで膨らみつつあった。


 そんな状況の中で、俺は重大な問題に直面していた。


 ──人手が足りない。


 開墾は進み、畑の規模は拡大した。だが、収穫には手間がかかる。水路を整備し、六本足ウサギ(仮)を育て、木材を加工し、鍛冶技術を確立しなければならない。だというのに、人手が決定的に足りない。


 「……俺たち、ひょっとして労働力を増やさなければならないんじゃないか?」


 俺はリュナとセリアを前にしてそう宣言した。


 「増やすって、まさかあの"知的生命を人工的に作る"実験の話じゃないでしょうね?」


 セリアがうっすらと眉をひそめる。無理もない。あの実験はまだ結論が出ていない。安易に知的生命を作ろうとすれば、とんでもない事態を招く可能性がある。


 「いや、そこまでの領域には踏み込まない」


 「じゃあ、何をするの?」


 俺はにやりと笑って答えた。


 「ゴーレムだ」


 「ゴーレム?」


 「そう、農業用のゴーレムを作る。自律型で、畑を耕し、収穫を補助し、水を運ぶことができる魔素駆動式ゴーレム。それがあれば、俺たちの負担は劇的に軽減される」


 セリアは目を丸くし、リュナは「ふむ」と腕を組んだ。


 「やってみようじゃないか」


 こうして俺たちは、ゴーレム農夫を作るという前代未聞のプロジェクトに着手することになった。


 最初に考えるべきは、構造だ。俺は以前、魔素を流し込むことで簡単な動きをするゴーレムを作ったことがある。ならば、応用すれば「もっと複雑な動きをするゴーレム」も作れるはず。


 土台となる素材は、魔素吸収鉱石を含む粘土質の土と、発光する苔。これに、簡易的な関節機構を組み込み、魔素の流れによって「自律的に動く仕組み」を作る。


 「まあ、言葉で言うのは簡単なんだけどな……」


 実際にやってみると、これが想像以上に難航した。


 まず、魔素を流し込むだけでは、ただの粘土の塊がふるふると震えるだけで終わる。自律的に動かすには、「魔素の流れを制御する機構」が必要だった。


 俺は試行錯誤の末、「魔素伝導石」を使ってゴーレムの内部に魔素の回路を組み込むことにした。この石は、一定の方向に魔素を流す性質を持っている。これを利用すれば、あらかじめ設定したルートに沿って魔素が流れ、ゴーレムの各部位を適切に動かすことができるはずだ。


 セリアの協力のもと、慎重に回路を設計し、粘土ゴーレムの内部に組み込む。そして、試しに魔素を注ぎ込んでみた。


 ──カタッ。


 「おっ」


 ゴーレムの指がピクリと動いた。


 ──カクッ、カクカクッ。


 「おおっ!」


 ゴーレムが、ぎこちないながらも膝を折り、立ち上がったのだ。


 「成功、か……?」


 俺が見守る中、ゴーレムはゆっくりと動き出し、やがて畑へ向かって歩き出した。そして、俺が用意した簡易的な鍬を手に取ると、ぎこちない動きで畑を耕し始めたのだ。


 「……すごいじゃないか!」


 リュナが目を輝かせる。セリアは「まさか本当に動くとは」と唸る。


 俺たちはついに、「農作業を補助する自律型ゴーレム」の開発に成功したのだ。


 とはいえ、まだ改良の余地はある。動作はぎこちなく、制御も不安定だ。もっとスムーズに動かせるようにするには、魔素の流れを最適化する必要があるだろう。


 それでも、これは大きな前進だ。


 俺は、ゴーレムが黙々と畑を耕す姿を見つめながら、改めて確信する。


 ──俺たちは、今まさに異世界に「文明」を築こうとしているのだ。

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