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33 働き手増殖計画

 鉄を手に入れた。文明の扉を開く鍵は、すでに俺の手の中にある。


 だが、それだけでは足りない。


 農耕を拡大し、家畜を育て、鍛冶技術を発展させ、より効率的に労働力を確保しなければならない。人手が足りないのなら増やせばいい。生命が進化するのなら、制御すればいい。知能が生まれるのなら、導けばいい。


 そう、俺は異世界に来て、ようやく理解したのだ。この世界は、人が適応するのを待つのではなく、積極的に関与すれば応えてくれる。進化する生命、増殖する魔素、人工的に形作られる知性。ならば、俺がするべきことは決まっている。


 ──生命を飼い馴らすのだ。


 最初に手をつけるべきは、六本足ウサギだった。


 この世界の動物は、環境に適応しやすく、何かしらの魔素的作用を受けると「進化」する可能性がある。六本足ウサギも例外ではない。すでに捕獲した個体を囲いの中で飼いならしてみたが、どうやら彼らは普通のエサでは成長しない。ならば、と俺は温泉の近くで発見した「生命の種」を試してみることにした。


 「ほら、お前ら、これを食ってみろ」


 囲いの中に、淡い光を放つ種を投げ込む。ウサギたちは警戒しながらも、一匹が匂いを嗅ぎ、やがて興味を示してかじり始めた。


 その瞬間だった。


 ウサギの体が、微かに発光したのだ。


 俺は息をのむ。まさか……。


 すると、発光したウサギの近くにいた別の個体が、突然ぴたりと動きを止めた。そして次の瞬間、二匹の間に、淡く揺らめく光の粒子が漂い始める。


 「……おい、なんだこれ」


 リュナが目を見開き、俺の袖を引く。セリアは魔素を感じ取ろうと目を閉じた。


 「魔素共鳴……? いや、もっと原始的な何かかもしれない……」


 「つまり?」


 「この世界の生命体は、一定の条件下で"対"を作ることで、繁殖ではなく"増殖"する可能性があるのかも……」


 俺はその言葉に思わず鳥肌が立った。まさか、生命がつがいで個体を増やすのではなく、エネルギー的な共鳴によって「もう一匹」を生み出す……?


 実際、六本足ウサギたちはしばらく光を交わした後、囲いの中に"新しい個体"を生み出していた。


 「……俺たち、今とんでもない発見をしたんじゃないか?」


 「うん。正直、ちょっと怖いくらいね……」


 リュナが神妙な顔でつぶやいた。


 ウサギが自己増殖するのなら、これは「安定した食料確保」の手段になる。しかし、その応用範囲はさらに広がる。


 俺は視線をセリアに向けた。


 彼女は察したように、腕を組んで口を開いた。


 「……私の分裂のこと、考えてるんでしょ?」


 「まあな」


 魔素を一定量以上蓄積すると、知的生命体ですら増殖する可能性がある。それを制御できれば、「人為的に知的生命を増やすこと」もできるかもしれない。


 問題は、これが生命倫理的にどうなのか、という話だが──この異世界にそんな概念はない。俺がやるべきは、「可能かどうか」を確かめることだけだ。


 セリアは腕輪に仕込んだ魔素吸収装置を見つめ、ゆっくりと頷いた。


 「やってみる価値はあるわね……。でも、もし失敗して、"意識のない私"が生まれたら?」


 「その時は、その存在がどういうものなのか、観察するしかないな」


 実験は慎重に進めることにした。まずは、セリアに魔素を限界近くまで蓄積させ、それを意識的に放出する訓練を行う。さらに、特定の魔素吸収鉱石を使い、魔素の流れを人工的に制御する装置を組み込んだ。


 結果──


 分裂は起こらなかった。


 「……これは、どういうこと?」


 「たぶん、お前の魔素をそのまま使うだけじゃ、分裂の条件を満たさないんだろうな」


 実際、六本足ウサギが増殖した時も、「対」になる個体が必要だった。つまり、ただ魔素を溜めるだけではなく、「何か別の要素」が絡まないと増殖は起こらないのだ。


 「……なら、その"別の要素"を探せばいいってことね?」


 セリアはにやりと笑った。


 俺はその顔を見て、思わず笑ってしまう。そうだ、これはまだ始まったばかりだ。


 そして、俺たちはさらなる実験に踏み込むことになる。


 「人工生命は作れるのか?」


 俺は以前、魔素を動力源にしたゴーレムの試作に成功した。ならば、知的生命のような存在を"意図的に作り出す"ことは可能なのか?


 試作は、ゴーレムに魔素を注ぎ込むことから始まった。素材には魔素吸収鉱石と、粘土質の土、発光する苔を使用。最初は単純な動きしかできなかったが、魔素の流れを調整すると、驚くべきことが起こった。


 ──ゴーレムが、自分の意思で動いたのだ。


 俺は息をのんだ。


 「……これは、やばいな」


 ゴーレムは、ゆっくりと頭を持ち上げると、まるで俺の言葉を理解したかのように、カクンと頷いた。


 「……こいつ、本当に"考えて"いるのか?」


 セリアが驚きの声をあげる。俺はゴーレムの表面をそっと撫で、考え込んだ。もし、本当にこいつが知性を持っているのなら、それは「人工知能」の誕生と同じだ。


 この異世界で、俺は「生命の創造」という領域に足を踏み入れようとしている。


 未知の扉が、今まさに開かれようとしていた。

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