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26 温泉の発見

 地面を掘っていたら、温泉が出た。


 これは偉業である。文明の礎である。かつて誰もが夢見た、秘湯の発見である。


 発見の瞬間、俺は土まみれのシャベルを放り出し、湧き出る湯の前に正座した。そして、感謝の意を込めて手を合わせた。思えばこの異世界に来て以来、俺はずっと泥と汗にまみれて生きてきた。川の水で洗うことはあっても、温かい湯に浸かるという贅沢など考えたこともなかった。それが今、俺の目の前で、静かに湯気を立てているのである。


 「……勝った」


 思わずそう呟いていた。


 だが、ここで浮かれるのはまだ早い。未知の温泉だ。下手をすれば毒の湯かもしれないし、変な作用があるかもしれない。俺は慎重に湯を掬い、手のひらで温度を確かめた。熱すぎず、ぬるすぎず、理想的な湯加減。


 次に、匂いを嗅ぐ。ほのかに硫黄の香りがするが、刺激臭ではない。むしろ心地よい。


 次に、実験用に用意した六本足のウサギ(仮)の毛の切れ端を浸けてみる。変色や異常なし。さらに、畑で採れた野菜を湯に漬ける。しばらく置いてから取り出し、慎重に観察すると、色が微妙に鮮やかになっているような気がした。


 「……これは、いけるんじゃないか?」


 俺はついに、意を決して手を浸けた。じんわりと、温もりが広がる。


 「はぁ……」


 まるで魂が昇華するかのような心地よさ。じっとしていると、手のひらにあった細かい傷が、わずかに薄くなっている気がした。気のせいかもしれない。だが、この湯には何か特別な成分が含まれているのは間違いない。


 そして、俺はこの温泉の活用方法について考えた。


 第一に、風呂だ。これはもはや説明不要の最優先事項である。俺はこの異世界での過酷な日々に耐えてきた。その報酬として、毎日の温泉入浴という贅沢を享受する権利がある。


 第二に、農業だ。この湯には、作物の色を変えるほどの何かが含まれている。もしこれが成長促進の効果を持つのなら、畑に使えば収穫量を増やせるかもしれない。


 第三に……俺はふと、温泉の周囲に目を向けた。


 そこには、奇妙な植物が群生していた。


 葉は深緑で、表面に細かな金色の筋が走っている。まるで生命のエネルギーが流れているかのような見た目だ。そして、驚くべきことに、それは俺が温泉を掘り当てた直後に、突然生え始めたのだ。まるでこの湯の存在に呼応するように。


 俺は恐る恐る、その植物の一枚の葉に触れてみた。


 ──ゾワッ。


 指先から、妙な感覚が伝わってきた。体の奥底に、じんわりとした熱が広がる。


 「……なんだこれ?」


 試しに、摘み取った葉をウサギ(仮)の餌場に置いてみる。すると、一匹のウサギ(仮)が興味を示し、ぺろりと舐めた。


 ──次の瞬間、ウサギ(仮)の体毛が、うっすらと輝いた。


 「おいおいおい……!?」


 しばらく観察していると、そのウサギ(仮)は他の個体よりも機敏に動き始めた。そして、信じられないことに、短時間で体がひと回り成長していた。


 「これは……成長促進?」


 俺は慌てて温泉の水を手に取り、先ほどの植物の根元に注いだ。すると、目に見えて葉がわずかに大きくなり、金色の筋が濃くなった。


 つまり、この植物は温泉の成分を吸収し、成長を加速させる性質を持っている。そして、それを摂取した生物もまた、成長を促進される。


 これは……とんでもない発見だぞ?


 俺は思わず震えた。この植物を農業に応用できれば、作物の収穫量を飛躍的に向上させることができるかもしれない。さらに、動物の飼育にも使えそうだ。もし、これをうまく管理すれば、家畜を短期間で育て、効率よく食料を確保することも可能かもしれない。


 いや、それだけじゃない。もし、俺自身がこの植物を摂取したら……?


 「……うん、やめておこう」


 なんとなく、嫌な予感がした。異世界に来て以来、俺は本能的な危機察知能力を鍛えられてきた。この植物は間違いなく強力な効果を持っている。しかし、その影響がどこまで及ぶのかは未知数だ。うかつに口にして、突然変異でもしたらシャレにならない。


 「慎重にいこう」


 まずは、もう少しこの植物の研究を進めるべきだ。そして、温泉の成分も詳しく調べなければならない。この世界の法則を理解し、利用することで、俺の異世界生活はさらに安定し、発展するはずだ。


 だが、ひとまずは──


 「風呂だな」


 俺は意気揚々と、温泉の整備に取り掛かった。

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