23 農業の進化
俺は、じっと水たまりを睨んでいた。
──流れない。
いや、それどころか、ほんのわずかに「逆流」しているではないか。
おかしい。
俺は水路を掘った。川から畑へと水を引くため、精魂込めて土を掘り、傾斜を計算し、水が自然に流れるようにした。理論上は完璧だった。なのに、流れないどころか、ささやかな水たまりが「ゆらっ」と揺れて、川の方向へと引き戻されていく。
「これは……どういうことだ?」
地面を掘りすぎたせいか? いや、そんな単純な話ではない。水は重力に従うものだ。それが逆行するというのは、何かしら異常な力が働いている証拠だ。
俺は、何度も確かめた。掘った水路の傾斜を見直し、水を撒いて観察し、川と畑の位置関係を再確認する。だが、どう見ても「水は川へと戻ろうとしている」。まるで何かに吸い寄せられるように。
「まさか……」
俺は、ある可能性に思い至った。
──この土地には、目に見えない「流れ」があるのではないか?
水の流れではない。空気の流れでもない。もっと根本的な、何か別の「力」の流れが、この地面の下を巡っているのではないか?
俺はさっそく、実験を始めた。
まず、適当な穴を掘り、そこに水を注いでみる。そして、じっと待つ。
水は、まるで生き物のように揺らぎ、次の瞬間──スッと、ありえない方向へと動いた。
「やっぱり……」
どうやら、この土地には「地脈」のようなものが流れているらしい。まるで川の流れのように、大地の下を何かしらのエネルギーが走っているのだ。そして、俺が掘った水路は、それに逆らう形になっていた。
つまり、今のままでは絶対に水は流れない。
「じゃあ、どうする……?」
俺は考えた。地脈に従って水路を作り直すか? いや、それでは俺が使いたい方向へ水を引けない。地脈の流れを操作する方法を見つけるべきだ。
ならば、地脈を「変える」ことはできないか?
そんなことを考えながら、俺は川辺を歩いていた。すると、足元に妙な石が転がっているのに気がつく。
青白く、わずかに光る鉱石。
俺は何気なく、それを手に取った。すると──
「……ん?」
指先に伝わる、かすかな振動。
ただの石ではない。何かしらの力を帯びている。
試しに、その石を掘った水路に並べてみる。そして、もう一度水を流してみると──
水の動きが、変わった。
「これは……!」
たった数個の鉱石を置いただけで、さっきまで逆流していた水が、今度はスムーズに流れていく。まるで「見えない壁」があったのを押し広げたように。
つまり、この鉱石をうまく配置すれば、地脈の流れを調整し、水の流れを制御できるのではないか?
俺はさっそく、大量の鉱石を集め、水路の周囲に埋め込んだ。そして、再び水を流す──
結果は、完璧だった。
水は、俺が意図した通りの方向へと流れ始め、畑へと届く。もう逆流することはない。
「やった……!」
俺は興奮を抑えながら、もう一度水路を眺めた。水は、まるで導かれるように流れ、畑を潤していく。
「地脈を利用して、水を制御する鉱石か……」
この発見は、単なる水路の完成にとどまらない。もしこの鉱石を応用すれば、他の場所でも「流れ」を操作できるかもしれない。川の流れを変えたり、風を操ったり、あるいは……もっととんでもないことができる可能性すらある。
「異世界、やっぱり奥が深いな……」
俺は畑を潤す水を眺めながら、新たな可能性に思いを馳せた。




