20 土器の製作
俺は今、泥まみれになりながら、異世界の土と対峙している。
いや、別に土に恨みがあるわけではない。むしろ、これまでの異世界生活でこいつにはずいぶんと助けられてきた。野菜を育てるのも、住処を作るのも、地面を掘って冷蔵庫を作るのも、すべてこいつあってのことだ。だが今回は、その土をさらに一段階上の文明レベルに引き上げる必要がある。
俺は「器」を作りたいのだ。
思えば、この異世界に来てからというもの、食事の度に「手づかみ」か「葉っぱ」だった。肉を焼けば木の葉の上に乗せ、スープを作れば木の実の殻に注ぐ。しかし、これではまるで野生動物ではないか。いや、六本足ウサギ(仮)でさえ巣穴の整理くらいするのだから、もはや俺の方が原始的とすら言える。
これは由々しき事態だ。異世界に来たからといって、文化的な生活を諦めるつもりはない。俺は人間だ。スプーンとフォークを使いこなし、丼で飯をかっこみ、湯気の立つ味噌汁を啜る文明人なのだ。
「よし、焼き物を作るぞ」
土をこねて器を作る。これは人類の歴史において避けては通れない技術であり、むしろここまでやらなかった俺の方が怠慢だったと言えるだろう。幸い、粘土質の土は見つかっている。異世界の土とはいえ、見た目と手触りは普通の粘土とそう変わらない。
俺はさっそく、こねた土を円盤状に伸ばし、ぐるぐると巻き上げて壺のようなものを作り始める。なんともいびつな形だが、そこはご愛嬌だ。誰も初めから完璧にはできない。
「さて、あとは焼くだけだな」
火を起こし、適当な石を並べて即席の窯を作る。熱が均等に伝わるように細工し、壺を慎重に置く。そして薪をくべ、火を強くする。しばらくすると、壺の表面がじわじわと乾き、色が変わってきた。いいぞ、順調だ。
──だが。
パキン。
「……あ?」
壺が、割れた。
いや、割れたどころではない。崩壊した。まるで「焼かれること」を拒むように、器の形を保てないまま崩れ去っていったのだ。
「ちくしょう……」
焼き方が悪いのか? いや、それとも土の成分に問題があるのか? どちらにせよ、このままでは実用には耐えない。これは改善が必要だ。
俺は翌日も、同じ土で試した。結果は同じだった。焼けば焼くほど、もろくなる。ならば水分量を調整してみるか? いや、そもそも粘土の質が問題なのか?
そんなことを考えながら、俺はふと、保存庫を掘ったときに出た「黒い砂」を思い出した。あの砂は、異様にサラサラしていて、手に取ると微妙にひんやりとした感触がある。何か特別な性質を持っているのではないかと思っていたが、まだ試してはいなかった。
「ものは試しだな」
俺はその黒い砂を、粘土に混ぜてみた。分量は適当だ。何事も実験あるのみだ。再び壺を成形し、乾燥させ、窯に入れる。そして火を入れること数時間──
結果は、驚くべきものだった。
「硬っ!」
焼き上がった壺は、明らかにこれまでとは違う。指で弾くと、コツンと澄んだ音がする。どころか、普通に石に叩きつけても、びくともしない。これはもはや陶器というより、レンガに近い強度だ。
「なんだこれ……」
俺は試しに、完成した壺に水を注いでみた。するとどうだろう。壺の表面がほんのりと冷たくなり、中の水が明らかに冷却されているではないか。
「冷蔵庫付きの壺……?」
何を言っているのか分からないと思うが、俺にもよく分からない。しかし、事実として、この壺は普通のものとは違う特性を持っている。
「これは使える……!」
俺は大急ぎで、皿や水瓶、鍋のようなものまで作り、次々と焼き上げた。すべてが頑丈で、しかも冷却効果を持っている。特に水を入れる壺は、気温が高い昼間でもずっと冷えたままで、まるで魔法のようだった。
これを使えば、食料の保存効率はさらに上がる。冷たい飲み水を確保することもできるし、夏場(この世界に夏があるかは知らないが)でも快適に過ごせるかもしれない。
「異世界、やっぱり面白いな……」
俺は焼き上がった壺を前にして、しみじみとそう思った。未だに帰る方法は分からないし、文明のない生活は不便だらけだが、それでもこうして新しい発見をするたびに、心が躍る。
この世界には、まだまだ未知の素材があるはずだ。それらを組み合わせれば、さらに便利な道具が作れるかもしれない。
俺はそんなことを考えながら、新たな挑戦に向けて土をこね始めた。




