表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

20/137

20 土器の製作

 俺は今、泥まみれになりながら、異世界の土と対峙している。


 いや、別に土に恨みがあるわけではない。むしろ、これまでの異世界生活でこいつにはずいぶんと助けられてきた。野菜を育てるのも、住処を作るのも、地面を掘って冷蔵庫を作るのも、すべてこいつあってのことだ。だが今回は、その土をさらに一段階上の文明レベルに引き上げる必要がある。


 俺は「器」を作りたいのだ。


 思えば、この異世界に来てからというもの、食事の度に「手づかみ」か「葉っぱ」だった。肉を焼けば木の葉の上に乗せ、スープを作れば木の実の殻に注ぐ。しかし、これではまるで野生動物ではないか。いや、六本足ウサギ(仮)でさえ巣穴の整理くらいするのだから、もはや俺の方が原始的とすら言える。


 これは由々しき事態だ。異世界に来たからといって、文化的な生活を諦めるつもりはない。俺は人間だ。スプーンとフォークを使いこなし、丼で飯をかっこみ、湯気の立つ味噌汁を啜る文明人なのだ。


 「よし、焼き物を作るぞ」


 土をこねて器を作る。これは人類の歴史において避けては通れない技術であり、むしろここまでやらなかった俺の方が怠慢だったと言えるだろう。幸い、粘土質の土は見つかっている。異世界の土とはいえ、見た目と手触りは普通の粘土とそう変わらない。


 俺はさっそく、こねた土を円盤状に伸ばし、ぐるぐると巻き上げて壺のようなものを作り始める。なんともいびつな形だが、そこはご愛嬌だ。誰も初めから完璧にはできない。


 「さて、あとは焼くだけだな」


 火を起こし、適当な石を並べて即席の窯を作る。熱が均等に伝わるように細工し、壺を慎重に置く。そして薪をくべ、火を強くする。しばらくすると、壺の表面がじわじわと乾き、色が変わってきた。いいぞ、順調だ。


 ──だが。


 パキン。


 「……あ?」


 壺が、割れた。


 いや、割れたどころではない。崩壊した。まるで「焼かれること」を拒むように、器の形を保てないまま崩れ去っていったのだ。


 「ちくしょう……」


 焼き方が悪いのか? いや、それとも土の成分に問題があるのか? どちらにせよ、このままでは実用には耐えない。これは改善が必要だ。


 俺は翌日も、同じ土で試した。結果は同じだった。焼けば焼くほど、もろくなる。ならば水分量を調整してみるか? いや、そもそも粘土の質が問題なのか?


 そんなことを考えながら、俺はふと、保存庫を掘ったときに出た「黒い砂」を思い出した。あの砂は、異様にサラサラしていて、手に取ると微妙にひんやりとした感触がある。何か特別な性質を持っているのではないかと思っていたが、まだ試してはいなかった。


 「ものは試しだな」


 俺はその黒い砂を、粘土に混ぜてみた。分量は適当だ。何事も実験あるのみだ。再び壺を成形し、乾燥させ、窯に入れる。そして火を入れること数時間──


 結果は、驚くべきものだった。


 「硬っ!」


 焼き上がった壺は、明らかにこれまでとは違う。指で弾くと、コツンと澄んだ音がする。どころか、普通に石に叩きつけても、びくともしない。これはもはや陶器というより、レンガに近い強度だ。


 「なんだこれ……」


 俺は試しに、完成した壺に水を注いでみた。するとどうだろう。壺の表面がほんのりと冷たくなり、中の水が明らかに冷却されているではないか。


 「冷蔵庫付きの壺……?」


 何を言っているのか分からないと思うが、俺にもよく分からない。しかし、事実として、この壺は普通のものとは違う特性を持っている。


 「これは使える……!」


 俺は大急ぎで、皿や水瓶、鍋のようなものまで作り、次々と焼き上げた。すべてが頑丈で、しかも冷却効果を持っている。特に水を入れる壺は、気温が高い昼間でもずっと冷えたままで、まるで魔法のようだった。


 これを使えば、食料の保存効率はさらに上がる。冷たい飲み水を確保することもできるし、夏場(この世界に夏があるかは知らないが)でも快適に過ごせるかもしれない。


 「異世界、やっぱり面白いな……」


 俺は焼き上がった壺を前にして、しみじみとそう思った。未だに帰る方法は分からないし、文明のない生活は不便だらけだが、それでもこうして新しい発見をするたびに、心が躍る。


 この世界には、まだまだ未知の素材があるはずだ。それらを組み合わせれば、さらに便利な道具が作れるかもしれない。


 俺はそんなことを考えながら、新たな挑戦に向けて土をこね始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ