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19 保存庫の建設

 俺は考えた。いや、考えるより先に、肉の腐った臭いが鼻をついた。


 「……そろそろ限界か」


 ここ数日、食料の確保は安定しつつあった。狩猟のコツをつかみ、農作物の芽も少しずつ出始めている。しかし、どれだけ食材を手に入れても、保存できなければ意味がない。肉は時間が経てば腐るし、果実もすぐに虫がたかる。


 「保存庫を作るしかないな」


 このままでは、せっかくの食料が無駄になってしまう。ならば、湿気や害獣から守れるよう、地中に保存庫を作るのが最善策だろう。


 俺は木製の鍬を手に取り、掘り始めた。


 土は思ったよりも柔らかく、作業は順調に進む。保存庫としては、地面を深めに掘り、床と壁に石を敷き詰めるのが理想だろう。温度が安定し、虫や湿気の侵入も防げる。


 そう思っていたのだが──。


 「ん?」


 鍬の先に、妙な感触が伝わる。石でもなく、木の根でもない。何か違和感がある。


 俺は慎重に土を払い、手を伸ばして触れてみた。


 ──ひんやり。


 「……え?」


 気のせいではない。地面の下の土が、異様なほど冷たい。いや、冷たいどころではない。手を当てた部分が、じんわりと冷えていく。


 俺は恐る恐る、さらに掘り進める。すると、そこにはまるで氷のように冷えた土壌が広がっていた。


 「な、なんだこれ……?」


 この気温で、地中が凍っている? そんなことがあるのか? 季節の影響とも思えないし、冷たい空気が流れ込むような穴も見当たらない。


 「待てよ……これ、使えるんじゃないか?」


 もしこの土をうまく活用できれば、天然の冷蔵庫を作れるのでは?


 食料保存の最大の敵は、温度と湿度だ。冷えた環境を作ることで、腐敗の進行を大幅に遅らせることができる。ここに食材を置けば、長期保存が可能になるかもしれない。


 俺はさっそく、小さな実験を始めることにした。


 まず、六本足ウサギ(仮)の肉を、普通の土の上と、この冷たい土の上にそれぞれ置いてみる。そして数時間後に確認してみると──


 「おお……全然違う」


 普通の土に置いた肉は、すでに変色し始めていた。虫も寄ってきている。しかし、冷たい土の上に置いた肉は、まるで冷蔵庫に入れていたかのように、色も変わらず、虫も寄り付いていない。


 「これはいける……!」


 俺は急いで、保存庫の設計を変更した。冷えた土壌を最大限に活かせるよう、穴をさらに掘り広げ、壁の内側にもこの土を詰め込む。床にも敷き詰め、温度を保ちやすいようにする。


 何度か試行錯誤を繰り返し、ようやく納得のいく形になった。天然の冷却庫付き保存庫が完成したのだ。


 さっそく、肉や果実を運び込み、一晩放置してみる。


 翌朝、恐る恐る扉を開けると──


 「おお……!」


 保存庫の中は、ほんのりと冷たい空気に包まれていた。肉も新鮮なままで、果実もみずみずしさを失っていない。腐敗の進行を確実に遅らせることができる。


 これは大成功だ。


 「これで食料の問題は、ひとまず解決か……」


 俺は満足げに頷きながら、冷たい土をもう一度触れる。やはり、どう考えてもおかしい。この土だけが、常温で凍っているのだ。


 「この土地、やっぱり普通じゃないよな……」

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