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17 簡易的な道具作り

 俺は考えた。考えた末に、考えることをやめ、木を削り、組み合わせ、鍬とシャベルを作った。これで農作業の効率がぐっと上がる。文明は道具の発展と共にあるのだ。木製のシャベルがどれほどの耐久性を持つかは未知数だが、とにかく今は掘ることが先決である。


 そして俺は掘った。黙々と掘った。いや、実際には黙々とはいかず、「おお、いい感じじゃないか」「思ったよりスムーズに土がすくえるな」などと、一人でぶつぶつと感想を述べながら掘った。そしてひとしきり掘り進めたところで、シャベルの先にカツン、と異質な感触が伝わってきた。


 「ん?」


 俺はしゃがみ込み、慎重に土を払った。すると、そこには何やら不思議な石盤が埋まっていた。大きさはおおよそ俺の胴ほど。表面には古めかしい刻印がびっしりと刻まれている。


 「これは……文字か?」


 じっと目を凝らしてみるが、まるで解読不能な古代文字のようだ。いや、そもそもこれは本当に文字なのか? ひょっとすると、単なる装飾かもしれないし、あるいは罠かもしれない。俺は慎重に、さらに慎重に、その石盤を掘り起こした。


 すると、石盤の下にはさらに石盤があった。


 「え、ちょっと待て、これ、層になってる?」


 俺はしばらくの間、無心で掘った。次々と現れる石盤。これほどの量の石盤を埋めたとなると、この土地にはかつて何らかの文明が存在していた可能性が高い。


 異世界の土を耕そうとしていた俺は、思いがけず考古学者になってしまったようだ。


 「ふむ……」


 俺は土まみれの手を拭いながら、青白く光る苔の塗り込まれた革ジャケットの裾を引っ張った。


 「まあ、ここは地道にいくか」


 俺は石盤の表面を丁寧に拭った。すると、刻印の一部がほんのりと光った気がした。気のせいか? いや、確かに光った。俺は息をのんで、もう一度そっと手でなぞる。


 ──ザワ……ザワ……


 あの苔と同じような囁きが、どこからともなく聞こえてくる。


 「まさか……」


 苔が光るように、この石盤もまた、何らかの特殊な性質を持っているのではないか? だとすれば、これはただの遺物ではない。おそらく、古代の何者かが意図して残したものだ。


 俺は試しに、苔の液をほんの少し石盤に垂らしてみた。


 すると──


 ──ゴゴゴゴゴゴ……


 地面が微かに震えた。


 「え、うそだろ」


 俺は慌てて後ずさる。石盤の表面が、わずかに変化し始めた。刻印が流れるように動き、組み変わり、新たな模様を作り出す。そして、一つの形を成したその瞬間──


 ──ピシッ


 石盤が中央から、二つに割れた。


 俺は呆然と立ち尽くす。


 その割れ目の中から、ゆっくりと、一筋の光が漏れ出していた。


 「おいおい、マジかよ……」


 異世界の土を耕していたはずが、いつの間にか異世界の遺跡を発掘していた。しかも、どうやらこれはただの遺跡ではない。「何か」が眠っているのは間違いなさそうだ。


 俺は慎重に、さらに慎重に、割れ目の中を覗き込んだ。


 そこには、石盤の内側にさらにびっしりと刻印が刻まれており、その中心には──


 ──青白い光を宿した、小さな球体が埋め込まれていた。


 「これは……」


 俺はそっと手を伸ばし、その球体に触れた。


 瞬間、


 ──ブワッ


 俺の脳内に、膨大な情報が流れ込んできた。


 古の言葉、かつてこの地に住んでいた者たちの記憶、彼らが築いた文明、そして──


 この世界の「秘密」。


 「っ……!」


 あまりの情報量に、俺は思わず後ろに倒れ込んだ。


 「な、なんだよこれ……」


 息を荒げながら、俺は頭を抱える。


 今の一瞬で、俺はこの土地の一端を知ってしまった。かつてここには、俺たちの世界に匹敵するほどの文明が存在していた。彼らは高度な技術を持ち、自然と共存しながらも、それを超越する術を手に入れようとしていた。だが、何らかの理由で、それは滅びた。そして今、俺はその残滓に触れてしまった。


 ──サワ……サワ……


 背後で、苔が静かに囁いている。


 俺はその音を聞きながら、ゆっくりと息を整えた。


 「……面白くなってきたじゃねぇか」


 異世界サバイバルだと思っていたが、どうやらこれはただの生存競争では終わらないらしい。俺は立ち上がり、もう一度、石盤の割れ目を覗き込んだ。


 新たな謎が、俺の目の前に広がっている。


 この世界の歴史に、俺は知らず知らずのうちに踏み込んでしまったのかもしれない。


 だが、それならそれで構わない。


 俺は再び、土を払い、光る球体を慎重に取り出した。そして心の中でこう呟く。


 「……俺の異世界生活、ますます面白くなってきたな」

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