16 布の確保
水の運搬問題も解決し、俺の異世界サバイバルはさらに快適になっていった。狩猟、漁、農業をバランスよく行い、水を確保し、調理によって食事に不思議な効果を持たせることもできるようになった。だが、ここで新たな問題が発生する。
「……寒い」
異世界の気候は予測が難しい。日中は陽が照りつけ、汗をかくほど暑いのに、夜になると驚くほど冷え込む。シェルターを小屋にアップグレードしたとはいえ、隙間風が容赦なく入り込んでくる。これはいよいよ衣服を作る必要がある。
「よし、動物の皮をなめして服を作ろう」
幸い、六本足ウサギ(仮)や、森で仕留めた獣の皮がいくつかある。まずはナイフで余分な肉を削ぎ落とし、天日干しにする。これである程度の硬さが出るはずだ。
だが、ここで問題が発生した。
「……硬すぎる」
完全にカチカチなのだ。いや、硬いというより「石に近い」。手で曲げることなど到底不可能で、試しにナイフで削ろうとしても刃が立たない。
「これ、服っていうか盾では?」
異世界の動物の皮は、通常の革とは違う特性を持っているらしい。つまり、このままでは着られない。
「なんとか柔らかくする方法はないか……」
俺は再び森へと向かい、何か使えそうなものを探すことにした。
そして、そこで奇妙なものを発見する。
それは、岩陰に生えていた青白く光る苔だった。
夜になると、ほんのりと発光し、まるで微細な星屑が地面に広がったかのような美しい輝きを放っている。試しに触れてみると、ひんやりとしており、手に吸い付くような独特の質感があった。
「……これ、使えそうだな」
俺はナイフで少し削り取り、試しに硬化した皮に擦り付けてみる。すると──
──スッ。
「……ん?」
皮の表面が、じわりと柔らかくなった。
「まさか……?」
試しに苔を水に溶かし、その液体に皮を浸してみる。数時間後、取り出してみると──
「……おお、これは!」
石のように硬かった皮が、驚くほどしなやかになっている。まるで長年使い込まれた革製品のような、しっとりとした手触りだ。どうやら、この苔には硬質化したものを軟化させる作用があるらしい。
「これで服が作れる!」
俺はさっそく、この柔らかくなった革を縫い合わせ、簡単な防寒着を作ることにした。異世界の夜の寒さにも耐えられる、厚手の革製ジャケットが完成した。
だが、この苔にはもう一つ、奇妙な性質があった。
夜になると、微かに「囁く」のである。
「……ん?」
最初は風の音かと思った。だが、耳を澄ますと、確かに何かがささやくような、かすかな音が聞こえる。
──サワ……サワ……
まるで風が木の葉を撫でる音にも似ているが、どこか不自然だった。
「……まさか、この苔、生きてるのか?」
発光し、皮を柔らかくし、夜になると囁く苔。
「この世界の自然、やっぱりおかしいな……」
だが、ともかく防寒具は完成した。こうして俺の異世界生活はまた一歩、快適な方向へと進んだのだった。