15 水の運搬と貯蔵
狩猟、漁、農業、料理。少しずつこの異世界での生活が安定してきた。食事のたびに妙な能力を発現することには若干の戸惑いを覚えつつも、それをうまく活用することで、日々の活動が格段に楽になっていくのを実感している。
だが、ここで新たな問題が発生した。
「……水の運搬が、面倒すぎる」
畑の作物には定期的な水やりが必要だし、料理や飲み水の確保のためにも水を運ぶ作業は避けて通れない。これまでは川まで行って手ですくうか、適当な葉っぱに包んで持ち帰るという非効率極まりない方法を取っていたが、さすがにこのままではやっていけない。
「……桶がいるな」
幸い、森には豊富な木がある。ならば、適当な丸太をくり抜いて水を貯める桶を作ればいい。そう考えた俺は、さっそく木を探しに森へ向かった。
ちょうどよさそうな太い幹の木を見つけ、ナイフを取り出して削ろうとする。
──カンッ。
「……ん?」
もう一度、ナイフを突き立てる。
──カンッ!
「お、おかしいな?」
削れるどころか、ナイフの刃先がわずかに欠けている。
俺は怪訝に思いながら、別の木にも試してみた。結果は同じ。ナイフが弾かれるように跳ね返され、まるで石にでも刃を立てているかのようにびくともしない。
「……こっちの世界の木材、硬すぎない?」
どうやら、普通の木のように簡単に加工できるものではないらしい。何か特殊な道具がなければ、まともな桶など作れそうにない。
俺はしばし悩んだが、ふとあるものの存在を思い出した。
「……そうだ、あのツタがあった!」
以前ナイフの柄に巻いた「黒い蔓」──異様なまでに丈夫で、刃を立てることすら困難だったアレ。だが、もうひとつ、思い当たるツタがある。
あの、「自己再生するツタ」だ。
俺はさっそく、そのツタを採取しに森へと向かった。
以前見つけた場所へ行くと、ツタは相変わらず木々に絡みつきながら、しっとりとした光沢を放っていた。試しにナイフで切ると、数秒後には切り口がじわじわと再生を始める。
「……相変わらず、意味がわからんな」
だが、この特性を逆に利用できるのではないか? 例えば、このツタを編み込んで袋状にし、水を貯める容器を作ればどうだろうか?
俺はさっそく、ツタを丁寧に編み込みながら、袋の形に整えていった。ツタは驚くほど柔らかく、手で編み込むだけでしっかりとした網目を作ることができた。
そして、完成したツタの袋に、水を入れてみる。
──ジュワッ。
「……おおっ?」
水はツタの隙間から漏れ出すことなく、まるで袋そのものが水を吸収するようにして内部に留まっていた。
さらに驚くべきことに、水を入れた状態でしばらく放置しても、水がまったく腐らないどころか、ほんのりと冷たいまま保持されていたのだ。
「これは……想像以上の性能だぞ?」
どうやら、このツタは単なる水袋ではなく、長時間水の鮮度を保つ効果まで持っているらしい。おそらく、自己再生の際に何らかの浄化作用が働いているのだろう。
「これさえあれば、川まで水を汲みに行く回数も減らせるな」
こうして、異世界生活における水の運搬問題がついに解決したのだった。