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11 新たな住居

 魚を手に入れたことで食生活はぐっと豊かになった。肉ばかりの生活に終止符が打たれ、バランスの取れた食事が可能となったのである。これは革命的な進歩だった。しかし、そんな俺の前に新たな問題が立ちはだかった。


 「……寝床が、貧弱すぎる」


 今までの俺は、木の枝を組み合わせて簡単なシェルターを作り、その下で寝泊まりしていた。風はしのげるし、雨さえ降らなければそれなりに快適だった。しかし、ここは異世界である。最近、夜になると森の奥から不穏な音が聞こえるし、光る目をした何者かがこちらを監視している気配もある。


 これはいけない。


 俺はより頑丈な小屋を建てることを決意した。


 問題は材料である。普通の木を使うのでは、時間が経つと劣化し、虫が湧き、最悪の場合、崩れる可能性がある。それに、あまりに重たい木材を使うと、運搬するのが大変だ。


 そこで俺は、例の「ちょっと不思議なものがたまに転がっている森」へと向かった。


 その森には、俺の常識では説明のつかないものがある。浮遊する岩、動く大樹、発光する果実──この世界のことわりを無視したような存在が、まるで普通の顔をしてそこにあるのだ。そして、俺はその森で「奇妙な木」を見つけた。


 木の幹は薄い銀色に輝き、枝を持ち上げてみると驚くほど軽い。試しにナイフで削ってみると、木目がやたらと滑らかで、まるで金属のように密度が詰まっている。


 「これ……使えそうだな」


 さらに興味深いのは、この木には「重さを変えられる」という特性があることだった。


 試しに木を切り倒し、手で持ち上げてみると、驚くほど軽い。まるで発泡スチロールのような感覚だ。これなら運搬は楽勝である。だが、木材を地面に置いて数分待つと──なんと、じわじわと重くなっていくのだ。最終的には岩のような重量感を持ち、持ち上げることすら難しくなった。


 「なんだこれ……?」


 俺は試しにもう一本の木を持ち帰り、同じように観察してみたが、やはり一定時間が経過すると、木は「本来の重さ」に戻るらしい。つまり、切り出した直後は軽く、時間が経つと重くなる。これは利用しない手はない。


 こうして俺は、この「自在に重さを変える木材」を使い、小屋を建てることにした。


 軽いうちに柱や壁を組み立て、設置したらしばらく放置。すると、木材は勝手に重くなり、どっしりとした安定感を持つ建物へと変わる。力仕事を最小限に抑えつつ、頑丈な小屋を作ることができた。


 これは、俺の異世界サバイバルにおける大きな進歩だった。


 そしてついに、俺の小屋が完成した。


 「……やった!」


 簡易シェルターとは比べ物にならないほどの安心感。壁があり、屋根があり、風も雨も完全に防ぐことができる。これでようやく「拠点」と呼べる場所を手に入れたのだ。


 だが、異変はその夜に起こった。


 ──トクン。


 寝床につこうとした俺は、ふと違和感を覚えた。


 ──トクン、トクン。


 まるで生き物の鼓動のような、かすかな脈動を感じるのだ。


 「……?」


 音のする方を見ると、壁の木材がわずかに発光していた。


 銀色の木の表面が、心臓の鼓動のように微かに光を放ち、リズミカルに明滅している。


 「おいおい、何なんだこれは……?」


 俺は小屋の壁にそっと手を当てた。


 すると、ほんのわずかに温かみを感じた。


 「まさか、生きているのか?」


 異世界の木材だからといって、ここまで奇妙な性質を持っているとは思わなかった。


 この木には何か秘密があるのかもしれない。


 俺の異世界生活は、まだまだ謎に満ちているのだった。

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