2 アルカディアの島
無人島かと思ったらふたりも人がいた。
元々現地にいる子供達かと思うほど、ふたりはその場の景色に溶け込んでいる。
「リアと間違っちゃった。ごめんな」
少年はカズヤに謝罪した。
「いやいや、気にしていないよ」
「俺、慌ててさ。そそっかしいんだ」
てへ。と、舌を出して照れている様子は、なかなか愛嬌があって茶目っ気がある。
「__________俺はユマで、こっちがリア」
少年が自己紹介した。
オレンジ色の馬の尻尾のような後ろ髪。
白いノースリーブ、ベージュのカーゴパンツがユマで、長い黒髪に白いサマードレスの女の子の方がリアか。
「俺はカズヤ・ハギワラ」
「こっちはヒロセ。ヒロセ・タカナシ」
同じようにカズヤも自己紹介した。彼らも外見の特徴と名前を記憶しているはず。
銀髪で白い詰襟の制服を着ているのが俺、カズヤ・ハギワラ。
そして、茶色の髪で同じ服装の上背が高い方が友人のヒロセ・タカナシ。
何の因果か縁なのか、ここに集った四人だ。
とりあえずは「よろしく」とユマにカズヤとヒロセは握手を交わす。
「___________そうだ、君たちも政府からここに派遣されたんだろ?」
傍らにいるヒロセの問いに少年、ユマは頷く。
「半年間ここで暮らせって云われただけで、他は何も聞いていない」
「へぇ、業務内容が違うのかな?」
カズヤは云いながらヒロセと顔を見合わせる。
ユマとリア。ふたりとも幼さが残る顔立ちをしていて、自分たちよりは明らかに年下。
どう見ても十代、未成年だ。ヒロセに耳打ちする。
「あの女の子って、いくつぐらいだろう」
「さぁ、十五歳くらいじゃないのか?背も高いし、手足も長い。あのくらいの年齢の子は成長期で、同じくらいの男子よりも発育が早いって云うし」
「じゃあ、あの男の子より年上?」
「そんなことないだろう。年下だろうな。なんとなくだけど」
「あのふたり、付きあっているのかな?」
「そうなんだろうな、多分」
こそこそと、そんな会話を交わしているうちに、また新たにジェット機が到着した。
「なんだろう?特に連絡事項も聞かされていなかったから、その補足をしにきたのかもしれない」
「さっき、云えばよかったのにな」
さっと軽い身のこなしで、自ら操縦してきた機体を降り、現れたのは電柱のように背の高い男。
ヒロセも背が高い方だが、それよりももっと高い、すらりとした体躯の人物。
「政府の役人か」
突然の闖入者に、何者かと茫然とした表情で一同がこの人物を注視していた。
カズヤとヒロセが着ているものよりも華美な白い詰襟の制服姿。
腰まで届く長くくすんだベージュ色の髪を一纏めにしている。
政府の人間。彼は一瞬、ヒロセの方を一瞥した。
そして、一拍置いて、親しい者達に対して呼びかけるように片手を挙げた。
「ここに集う諸君__________。私がこの区域を監査することになったハヤト・イシガミだ。以後、お見知りおきを」
胸の前で手を折って優雅な仕草で礼を執った挨拶。
なんて場違いな奴だと、一同を唖然とさせた。
と、そこで、やにわにユマが叫ぶ。
「だっせ__________。こんなモン着て恥ずかしくねーのか」
「……っ、なんだと___________________________」
ぶしつけな物言いに、政府のお役人が、彼は聞き捨てならないとばかりに声を荒げた。
彼が着用していたものは、白い制服。
襟元の刺繍の縫い取りが金糸であること以外、自分たちに支給された制服と同じデザインのもののはずだ。
「いい年齢した大人がそんなだっせー格好して恥ずかしくねぇのかよ。あんなだっさいモン、よく着てられるよ。あんなモン着て働くぐらいなら俺だったら仕事やめるわ!」
「ださいって、云うな_________________________!!」
子供相手に感情が抑えきれず、とうとうブチ切れた。
「俺だって、好き好んでこんな格好してんじゃねぇよ!だからヤなんだよ、餓鬼なんて、舐めた態度取るから!」
ハヤトの大人げない態度に、ヒロセは人知れず項垂れ、顔を覆った。
「その髪は?」と、ユマがハヤトの髪を指す。「チャラついてんな」
「これは切るのが面倒だから伸ばしているだけだ。長髪の奴はみんなスカしてる奴だと思うなよ。……って、お前も後ろ髪なげーじゃねーかよ」
「俺も面倒で伸ばしてるんだ。………やだな、なんか奇遇だな」
「ため口かよ。年長の人間と話すときは、口の利き方をわきまえろよ________常識だろーが!」
「えっらそーに。ただの監視役だろ。たかが下っ端の仕事じゃねーか。大したことねーなー」
「仕事は仕事だ。コレだって、ちゃんとした業務なんだよっっ」
「よく云うよ。どうせコネ入社のくせに」
「俺はコネ入社でもないし、実力でこの仕事に就いてんだ。政府の役職はそもそも試験をパスしないとこの職にも就けないし、上にも行けないし、仕事も与えられないんだ!」
ガキに構っていられないと云わんばかりに、ハヤトは苛々としながら長い髪を掻き上げた。
「ふんっ、やっぱし大したことないな。たかだかそんな試験ぐらいで。こんな奴でも就いてるくらいだしな」
「てっめ__________、国家試験をナメんな!!」
魂からの叫びだったのだろう。ここ一番、大声を張り上げた。
「必死こいてコネや媚を売ったとしても、その程度の末路じゃあ、浮かばれねーな。どうせたいした仕事でもないだろう」
「侮辱は大概にしろっ!お前が出来んのかっ?なら、やってみろっっ。ええっ」
やんのかコラと、身を乗り出すように詰め寄り、大人気なくこんな子供と張り合っている。
低次元の言い争いは聞くに堪えれない。
このまま止めないと延々と長引きそうだ。
見兼ねてヒロセは挙手して質問をすることにする。
「……あの、ちょっといいか?」
「なんだ?」
間に割り込んだことで、ぴたりと云い合いが止んで、ハヤトがこちらを振り返る。
「この島で、ふたりペアになって仕事をするんだって聞かされていたけど、この子達も一緒なのか?」
「…………は、どういう意味だ、ソレ?」
ハヤトが怪訝そうにして問い返したので、補足する。
「ほら。俺とカズヤのふたりは島で就業するって決まっていたけれど、こっちのユマとリアの二人が加わることは、あらかじめ聞かされていなかったから。どういう事情があるのかなって思って」
「え、あっ、そうか、わかった!」
きょとんとした顔をして、云われた意味を理解してから「待て、今確認してみる」
手に持っていた通信機のボタンを押してコールして、すぐさま確認を取ると
「____え、ちょっと待て、聞いてないぞ!」
端末機を片手にハヤトは慌てる。
「現地の子供たちかって、そんな訳あるか!?ここは無人島だぞ!?二人だけだと聞いている。何か事情があるのか!?」
通話しながら、ふざけるなとか、まずいだろとか口走り、だいぶモメている。
「うわぁああ、こちらの手違いだ!すまない!」
こちらに謝罪する一方で、端末の向こうの相手には怒鳴り散らす。
「ふざけたこと云ってんじゃねぇよ。なにぃ、受け入れ先がないから預かってくれだと?うるせぇ、ここは託児所じゃねーんだよ!そっちの事情なんか知ったことか!」