31話 リリアの過去
その夜私は夢を見た。昔の夢だ。
「やめて!きゃあー」
母は泣き叫び父は怒り狂う。日々母は父に殴られ痣は増えていくばかり。そんな光景が毎日のように続いていた。
「何見てんだゴラァ!!」
父と目が合う。目が合うといつもキレられる。
「ひっ」
怖い。痛いのは嫌だ。殴られたくない!
「やめて!リリアは関係ないでしょ!殴るのは私だけにして」
そんな私を母だけはいつもかばってくれた。そのせいで痣はもっと増えるのだが。私は何もできなかった。ただ見ているだけ。
「やめて・・・。やめてよぉ。ぐすっ、ひぐっ、」
只々泣くだけしかできなかった。母は髪を掴まれ腹を殴られ蹴り飛ばされる。気が済んだのか父は寝室へと戻った。
「お母さん!」
急いで駆け寄る。瞼は晴れお腹には大きい痣が出来ておりおそらく肋骨が折れている。
「り、りあ。大丈夫?」
力細い声で言う。
「私は大丈夫だから。お母さんこそ大丈夫なの?」
「かはっ」
母が血を吐く。
「お母さん!」
「リリア?私がもし死んだらこれを使って逃げて」
カードを渡された。クレジットカードだ。
「こんなのいらない!私はお母さんだけいればそれでいい」
「ありがとね。そう言ってもらえると嬉しい」
お母さんは優しく笑う。何で笑うの?そんな笑いより私はただ「大丈夫だよ」という言葉が聞きたかっ
た。
その一週間後母は死んだ。葬式の日涙は流れなかった。人は本当に悲しい時は涙は出ないものなのだ。
父は暴行罪で捕まった。それについてはよかった。何なら死んでくれたらいいのに。
「リリアちゃん。お母さんだけでなくお父さんまで・・・。可哀そうにねぇ」
家に帰る途中そんな会話が聞こえてきた。あなたたちに何がわかるの?何も知らないくせに憐れむな。
家に帰ったらひたすら散らかった家をかたずけた。特に意味はない。ただなぜか体が動いたのだ。片づけ終わった。
部屋は虚しいほどに綺麗になった。小学3年生まではごく普通の家庭だった。
「いつからこんなになっちゃったのかな・・・」
涙が流れ頬を伝う。
「なんでお母さん死んじゃうの?」
「私はただお母さん達と・・・」
そのあとは只々ないた。ひたすら泣いた。心に空いた穴を涙で埋めるかのように泣いた。
「え~中継です。先ほど暴行罪で捕まった佐藤幸之助が刑務所から脱走しました。近所の皆さんはくれぐれもお気を付けを」
ピッ
テレビをきった。
「お腹減った」
冷蔵庫を開ける。何もない。ただ酒があるだけ。
「コンビニに行こ」
そうしてコンビニに出かけた。コンビニでパンを買い家に帰る。
「あっ、水・・・」
この家は親がどちらも無職だったので電気もガスも止められているのだ。冷蔵庫は父が隣の家の人を脅し無理やりに電気を使っているため使えた。
「お酒飲めばいっか」
未成年だからのんじゃだめだけどとやかく言う人もいない。
冷蔵庫から酒をとる。そして机に座り酒の缶をあける。
プシュッ
炭酸が弾ける音がした。酒を飲む。
「苦い・・・」
こんなものを毎日何本も飲んでいた父の気が知れない。そうして酒の缶日本とパン3袋を食べた。
「頭痛い・・・」
それにふらふらするのでもう寝ることにした。そうして時間は無慈悲に流れていった。
ある日家に誰かが訪れた。ドアを開けると叔母さんがいた。母の妹だ。
「リリアちゃん。洋子が死んで今一人なのでしょう?よかったら私のところに来ない?」
叔母さんのところに行くか・・・。別にほかに居場所もないしいいのかもしれない。
「いいんですか?」
「えぇ、リリアちゃんが嫌じゃないなら受け入れようと思うわ」
「じゃあ、お願いします」
そうして叔母に引き取ってもらった。叔母との生活は今までの生活とはかけ離れるほどに平和だった。叫び声なんてせず電気やガスもちゃんとある。
そうして日々が流れるうちに少しずつ立ち直れてきた。叔母さんが相談に乗ってくれ夫と一緒にいろいろしてくれたのが大きいだろう。
学校にも通わせてくれた。そして私は近くの高校に入学できた。
「リリアちゃん。似合ってるわ」
「ありがとうございます。叔母さんのおかげで入学出来ました」
「いいのよ。それに入学するのに私たちはお金を払っただけよ。それ以外はリリアちゃんのちからで入学できたのよ」
そうして高校生活が始まった。友達も何人かできた。私は今までの自分ではいけないと思い上辺の「自分」を作った。世間一般的にぶりっ子とかギャルといわれる感じのキャラだ。
告白されたりされたりもした。そこではじめて自分はモテるんだと知った。けど男子からの視線はいつも性的な思いが込められていた気がする。
友達からも気を付けなよと注意されたこともある。
そしてある日の買い物の帰り道。ことは起こった。全身にフードを被った男は近づいてくる。
身の危険を感じ私は走った。だが男もついてくる。小石につまずいて転んでしまった。
立ち上がろうとしているうちに男に追いつかれた。
「やっと見つけた。リリア」
え?なんで私の名前を・・・
ブスッ
急に私のお腹にナイフが突きつけられた。次の瞬間強烈な痛みが私を襲う。
「あ゛ぁ゛ーー」
痛い。痛い。痛い。あまりの痛みに転げまわる。
なんで、なんで私がこんな目に合わないといけないの?フードの男が顔を見せる。
「!?」
父だった。前テレビで放送していた脱走犯というのは父のことだったのだ。
「お前のせいで捕まったんだ。お前が俺をかばっていれば俺は捕まらなかったんだ。だからお前が俺に殺されるのは当たり前だ」
そう吐き捨てるとそのままどこかに行ってしまった。ふざけるな。お母さんを殺しておいてよくそんなことを言えたものだ。
今動けたら絶対に殺していただろう。
「ごふっ」
血が出る。腹部大動脈を刺されたからもう助からないだろう。
「もうちょっと、生きたかったなぁ」
そして私の意識は薄れていった。
・・・
次に目を開けると私は椅子に座っていた。あたりを見渡すと花壇に綺麗な花が植えられていたり噴水があった。
「ここは?」
「あの世との間の空間といいますかね」
「!?」
先ほどまで誰もいなかったのに目の前に女の人が座っていた。目はなにか布で隠しており全体的に露出度のたかい服を着ている。
「誰、ですか?」
「私は女神です」
「は、はぁ」
急に何言ってるんだろうこの人。
「あなたは死にました」
「でしょうね」
さっきまで痛みに喘いでいた記憶が蘇る。
「そんなあなたに選択肢を与えます」
「選択肢?」
「はい。簡単に言えばこのまま天国に行くかそれとも第二の人生を歩むか。どちらかを選んでいただきます」
天国に行くか第二の人生か・・・。
「ちなみに第二の人生を選んだ場合別の世界に行ってもらいます」
「別の世界?」
「はい。そちらの言葉で言えば異世界というやつです」
「異世界・・・」
第二の人生といっても同じ世界じゃないのか。少し気になる。私の人生15年しか生きてない。しかもその3分の1は地獄のような時間だった。どうせ死んだんだ。
他の世界で第二の人生を歩むのも悪くはないかもしれない。
「じゃあ第二の人生を歩むで」
「それでいいのですね?異世界なので大変なこともありますよ?普通に怪我しますし最悪死にます。それでもいいのですね?」
「はい」
「そうですか。わかりました。そんなあなたにプレゼントを差し上げましょう」
「プレゼント?」
「えぇ、これを」
二つの短剣を渡された。剣を抜いてみると片方は青、もう片方は赤という感じだった。
「これは?」
「私が作った剣です。その名も魔術師殺しの剣」
「魔術師殺しの剣。でもなんでこんなものを?」
「まぁ転移ボーナスというやつです」
「転移?」
「はい。あなたの体はそのままですから」
そのままか。少し安心したかも。
「その剣はその名の通り魔術師を殺すのに長けています。魔術回路を断ち切る付呪がついています」
「魔術回路を断ち切る付呪・・・」
「そうです。魔術というのは魔力で魔術回路を構成しそれを詠唱やイメージで具現化するものです。なので魔術回路さえ断ち切れば魔術なんて怖くないのです」
「はぁ」
一応覚えておこう。
「あともう一つあなたに能力を与えましょう」
「能力?」
「それは…全魔力を消費し消費した二倍の能力値の私を召喚できるというものです」
「それって強いんですか?」
「当り前でしょう。女神を召喚できるんでですよ?」
まぁ、強いのかもしれない。
「じゃあこれで説明は終わりです。では行ってらっしゃい」
「え?もう終わり?」
そして視界が真っ白になった。
「最後に助言です。あなたのぶりっ子キャラは続けてください。もし信頼できる人が見つかれば素の自分を見せるのもいいかも?」
なぜ「?」がついたのか気になったが気にしないことにした。
そうして今度こそ意識が飛んだ。
・・・
「お~いリリア?リリア?」




