愛の飼い慣らし方
新しい家族を迎えた。
黒い毛並みが美しい、優しそうな顔立ちの男の子。
彼は私にすぐ懐いた。
愛情表現をよくした。キスやハグなどそれはもうたくさん。
私は彼を飼うことにした。
大型用のケージを用意する。
首輪とリードも用意する。
ご飯とお水も用意する。
あとは何が必要なんだ?
私は彼に尋ねた。
「君は何がほしいの?」
彼は嬉しそうに答える。
「君と遊べる時間がほしいな。」
私はそれに嬉しくなり、彼のことをワシャワシャと撫でて抱きしめた。
そうだしつけもしなくては。
トイレの場所を教えた。彼はすぐにトイレを覚えた。
待てを教えた。彼は私がハンドサインを出すと少し首を傾げて私のことを見て待っている。
大きな声を出さないように何度も抱きかかえて教えた。
彼は私が思っているより利口だった。
彼をケージの中に入れて、私は満足だった。
そこにいる。そこにいてくれる。
それだけで嬉しかった。
彼が笑う。私が笑い返す。
それだけで幸せだった。
なのにいつからだろう。
彼のことをもっと知りたくなった。
懐いてくれているのに、こんなにも愛されているのに。
彼の中身を知りたくなった。
私は。
私は、ハサミを手に取った。
彼が怯えて吠える。大丈夫だよ、の声が喜びで震える。
彼が悲鳴を上げる。頬にキスを一つ落とした。
彼が喜び始めた気がして、私は彼を抱きしめた。
彼の中から出てきた真っ白な綿に私は顔を埋める。
あぁ、彼の匂いがする。
私は、ボロボロと涙を溢した。
来世は君のペットがいいななんて言っていたあなたがいなくなってもう何年だろう。
私はあなたに巡り会えなかった。私はあなたを飼う勇気が出なかった。
だからこの子にあなたを詰め込んだ。
中からあなたの遺品が出てくる。
白い綿に包まれたそれは天使の贈り物のようだった。
それを詰めなおしてまた縫い直す。
これでずっと、ずっと一緒。
ケージの中に彼を入れ直す。
彼はありがとうと笑った。
今日も二人でケージ越しに愛を語る。
飼い慣らし方は、もう覚えていない。