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2 追い出されて

 許せない。許せない。

 絶対に、許さない。


 オーメン様を、私は決して許さない。


 あんなにも毎日努力を重ね、彼だけのために生きてきたのに、裏切られたのです。それもありもしない罪まで着せられて。


 これがどうして認められるでしょう。

 オーメン様のことをお慕いしておりました。しかし彼は私ではなくキャセルを選んだ。ならこれ以上彼を好きでいる必要は何もないのです。


「私が悪魔なのだというのなら……あなたのことを呪い殺してやりたい。私を弄び、ゴミのように捨てたあなたのことを」


 けれども私は本物の悪魔ではないのです。ですから何をすることもできないのでした。

 悔しさと悲しさと怒りと。色々な感情がないまぜになった感情を抱きながら、私は夜会からの帰りの馬車に乗り込みました。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 この世界では悪魔というものが存在するとされています。

 悪魔は人間をたぶらかし、騙すのです。そしてそのうち数匹は過去の英雄によって打ち倒されたものの、その子孫や仲間が今もこの世に残っているとか。

 その姿はここ数百年に渡って見知られておらず、悪魔を信じているのは今の時代は教会くらいなもの。

 しかしこの教会というものを侮っていたと後で後悔することになりました。


 婚約破棄されてひとまずは自宅謹慎となった私。

 キャセルを虐げたとの噂は瞬く間に広がり、誰もが私を悪魔と呼び、倦厭するようになりました。


 父は私に厳しく、そして何よりも権力に固執している人間です。娘を守るために王家に逆らうなどという危険なことはせず、娘を『反省』させるという形で屋敷に閉じ込めました。

 これが不当な扱いであると私が何度訴えようと、聞いてはいただけません。それどころかあれ以来、食事も一緒に食べさせてはいただけなくなりました。


 父は私を愛してなどいないのでしょう。

 いいえ、この世界できっと私を愛してくださる方なんて、きっとどこにもいない。そのよう証拠に私に味方は誰一人としておりませんでした。


 そうしているうちに、教会がビルデー公爵家を訪れるようになりました。

 悪魔の存在を信じている教会は、「悪魔に裁きを」と私を連行したいというのです。


 さすがにそれには父は応じませんでした。公爵家から悪魔が生まれたとなれば名誉に傷がつくからです。

 しかし私は公爵家に災いをもたらす悪魔のようだと言って、追い出すことを決めてしまいました。この屋敷では父の意見が絶対で、逆らうことなどできません。母はとっくの昔に亡くなってしまっていますから、私はなすすべなく放り出されることになりました。


 ――ああ、どうしてこんな思いをしなければならないのですか。


 神様に愚痴を言いたいような気分になりながら、私はオーメン様の姿を思い出してはその体を八つ裂きにして気を紛らわせていました。

 私がどれだけ呪ったところで、本当のところは無意味の極みです。何の力も持たぬ娘がどれだけ恨みを募らせたとしても何が起こるわけでもないのですから。


 私に何か強い力があれば良かった。ですが願ってもそんなものは得られるはずもありません。

 廃墟へ連れて来られた私は、転がすように荷馬車を下ろされ、置き去りにされてしまいました。こんな仕打ちあんまりだと叫んだって誰も来てくれやしません。


 キャセル――巷では聖女などと呼ばれているそうです――を貶めた悪魔は滅びなければならない。私はその筋書き通りに動かされ、死ぬしかないのでしょうか。

 ああ、あの子に少しでも優しくした私が馬鹿だった。あの子の本性に気付けていたら私は躊躇いなく彼女を処分したでしょうに。


 オーメン王子からの贈り物は確かに壊されていました。……でもそれをやったのはキャセルです。

 確かに私と彼女の功績は取り替えられていました。……しかしそれは全くの逆で、私の業績を盗んだのがキャセルなのです。

 王子と彼女の『真実の愛』とやらを邪魔したのも私ではありません。そもそも横から泥棒猫のように盗る行為のどこが『真実の愛』と呼べましょうか?


 ああ、もう何もかもが嫌になってしまいました。

 死んで本当の悪魔にでもなった方がいいかも知れません。もうこれ以上生きていても何の希望もありはしませんから…………。


 そう思いながら、死に場所を求めるために私が廃墟からよろよろと歩き出そうとした、その時でした。



「――やっと見つけた。お嬢さん、ボクと一緒に来てくれないかい」



 突然、何の前触れもなく目の前に出現した人影に声をかけられたのは。

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