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7話 『超越』魔法を使えばドロップアイテムも超豪華!




引き続きよろしくお願いします。



「ナナさん、この回数っていうのは?」

「そのまま、魔法を使える回数ですね」


「結構な制限があるんだね?」

「でも、一度寝て仕舞えば、リセットされますよ。あんまり使うと身体への負荷も高いので、セーフガードのようなものです」


回数制限こそあれ、寝るだけで回復するのなら大きく困ることもない。


あまりに規格外な、この『超越』魔法。


その、未知なる概念に思いを馳せながらもハイネは、山肌に投げ出された魔物の側に屈んだ。


「お、ドロップ収集ですか?」

「うん。アイテムは持っているに越したことはないからね」

「ふむふむ、ハイネ様がそう言うならきっとそうなんですね」


力を得たからと言って、追放されたという事実は揺らがない。

今のところ、行く宛すらないのだ。


ハイネの一日先は、まだ真っ暗で、手探りのままである。

少なくとも本人は、そう認識していた。


金になりそうなものならば、極力いただいておきたいところである。


とくに、一角オーガはかなりランクの高い魔物であるから、一ヶ月分の生活費くらいには換えられるかもしれない。


問題があるとすれば、


「……どこをどうやれば、アイテムが取れるんだっけか」


ハイネには全くの実践経験がないことだった。


魔物から部位を剥ぎ取るだなんて行為は、教会では習わない。


学んだことといえば、せいぜい使用しなくなった家具類の解体方法くらいだ。

別のものへ再利用するためには必須の技術で、腕のいい自負もあったが……


それとは、あまりに勝手が違いすぎる。


と、ナナがハイネの隣に同じように屈んだ。


「こんな時こそ、マナが便利ですよ。ちょちょいのちょいです」

「……えっと?」

「とりあえず闇雲でもいいので、剥ぎ取りをやってみてください。もちろん、マナを使うイメージをしながらです」


それで、どうにかなる気が全くしないのだけれど。

だからといって、アドバイスを無視するようなハイネではない。


「ーーマナ、構築」


刀を変化させた時と同じ言葉だが、イメージするのは、魔物たちを倒した時とは全く違うものだ。


魔物の中身を透視するようにして、必要な部位だけを刈り取る。


肉片類は腐ってしまうと面倒臭い。匂いなどの残らないよう、できればそういった処理まで済ませたい。


そんなふうに思い浮かべながら、ハイネが腰刀を一角オーガに差し入れると、


「お、さすがハイネ様。うまくいったぽいですね」


にこっと口角を緩めるナナ。


その横で、ハイネは自らの魔法に目を見張っていた。



一角オーガの身体の中で、高値で取引される場所だけが煌々と闇夜に光る。


かと思えば、その光が切り取り線と化して、必要部位だけが切り取られたではないか。


「これ、一角オーガからもほとんど獲れないっていう、『混沌の結晶』……! しかも、『オーガの角』まで完璧に獲れた……」


教会にはたくさんの蔵書があり、それらを用いて日々勉強をしていたハイネは知っていた。


『混沌の結晶』は、武器の補助素材として、『オーガの角』は家などに飾ることで、防御魔法の効果を成す。



マナを使うことで、さらりと取れてしまったこれらのアイテムは、とんでもない価値で取引されているものばかりだ。


一ヶ月なんて目じゃない。売れば、軽く数ヶ月は生活できよう。


基本的に感情を抑えて生きてきたハイネだったが、珍しく興奮してしまった。


「普通、こんなに綺麗に取れないんだ。一流の冒険者パーティにいる解体士でも、取り損ねたり傷つけてしまうから、高価なアイテムなのに……」

「へぇ…………。だとしたら、やっぱり、ハイネ様はまずマナを使うのがうまいですね」


「僕が……? どういうことだい?」

「アテナイ様が過去に力を与えてきた人間たちは、そこまで上手く使いこなせていませんでしたから」


比較対象が、他の世界線の人たちであるから、ハイネに実感は湧いてこない。


ただ、結果としてーー


__________

 獲得済魔法


・武器変幻(武器の形をイメージしたものへ変形させることができる)【回数 1/5】

・自動獲得(ドロップアイテムを的確に獲得することができる)【新規 回数1/5】


__________



獲得済の魔法に加わっていたのだから、一応うまく使うことができていたらしい。




こうして得た魔法でハイネは、制限いっぱいまで、周りにいた魔物たちから次々とドロップアイテムを剥ぎ取っていった。


それとともに、これまで見えていなかった目先の目標が決まる。


「とりあえず、僕はこれを売りに行こうと思うんだけど…………。

 えっと、ナナさんはどうする?」

「えっ、もちろんついていきますよ……。って、もしかしてダメですか!? わたくし、追放ですか!?」


いや、誰が天使様を自ら追放するというのか。

それでなくとも、自分に誰かを除け者にする権利などない。


ナナが本気で焦っているのに驚きつつも、ハイネは否定する。


「そうじゃなくて、元の世界に戻ったり、どこか行きたい場所があるなら、僕に縛り付けているのも申し訳ないと思ってね。

 君も、ずっと僕の中に封じ込められていたんだろう? なにかしたいこととかあるだろうな、と思ってね」

「あー、なんだ、そういうことですか」


ナナは、ほっと息をついて、「紛らわしいですよー」などと人差し指でハイネの肩をつつく。


「ハイネ様がよろしければ、このまま一緒にいさせてください。わたくしは、女神様の命を受けていますし」

「……命令されてるってことかい?」

「それだけじゃありませんよ。

 わたくしは、アテナイ様と一緒に、ずっとハイネ様を側で見てきましたから。

 これからも、あなたが行く先を見させていただきたいと思います。…………ダメ、ですか?」


ナナは、ボブの髪を、内側に丸めて、眉を落とす。

そうしながら、ハイネの顔色を伺うように上目遣いをした。


さすがは天使様である。人の心を掴むすべを心得ているらしく、実に綺麗な笑みだった。


けれど、ハイネは目を細めて笑い返すことしかできない。

どう反応するのが正解なのだろうか、こういう時。


「いえ、では、これからよろしくお願いします」

「……全然効いてない!?」

「えっと、ナナさん? なんのこと?」

「いえ、なんでもありません。やっと愛しのハイネ様に会えたので、ちょーっと天使の色香で誘惑して、いい雰囲気になろうと思っただけで……………。

 まぁそれは追々ですね。悔しいですけど」


ナナは顔を背け、手で口元を覆っていた。


独り言のようにつらつら呟いてから、彼女はハイネの方へ向き直る。


「私の方こそ、よろしくお願い申し上げます、ハイネ様!」

「はい、ナナさん」


魔物の蠢く深い森の中ーー。


底辺聖職者だった男の、規格外な道が始まろうとしていた。








夜も投げます。

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