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4話 追放のち魔物の襲撃




引き続きよろしくお願いします!



マルテシティとナタリアに別れを告げて、数刻。


ハイネ•ウォーレンは、あてもなく街道をひた歩いていた。



すっかり日は落ちきって、夜も深い。


人気ひとけは一切なく、両脇の深い山からは、虫の声が寂しげに鳴り渡る。


中には、獣の獰猛な唸り声も入り混じっていて、ハイネの心胆を寒がらせた。



唯一の頼りは、うっすらと地面を照らす魔導街灯だ。

ただ、その間隔はとても広く、心もとない。


あたりを警戒しておかなければ、いつ魔物に襲われるか。



魔物というのは、危険極まりない、人に害をなす化け物だ。


それらは山などから漏れ出す瘴気を好んで住み着き、人を襲うこともしばしばある。


一応、魔導街灯には、瘴気を避ける効果もあるのだが、


「ガルゥゥッ!!!!」


残念ながら、優秀な代物ではない。


「くそ、どうしてこうなるんだ……」


ハイネはぎりっと歯噛みする。


道に立ち塞がったのは、サンダーコボルトだ。


その身体は強い電磁波を纏っており、その威力は、直接触れれば、身体が焼かれるような痛みに襲われるとか。



こんなところまで、運が悪いとはこれいかに。


自分を呪いたくなるハイネだったが、まずは切り抜ければならない。


ナタリアに持たせてもらっていた護身用の腰刀を抜き、じりじりと後退する。



これまでハイネは祈りを捧げることで、辛うじて生計を立ててきた人間だ。


戦いの術など、ろくに知らない。剣を抜いたのも、まさに今が初めてだ。


けれど背中を向けることがどれだけ危険かは、直感的に理解していた。


一定の間合いができたところで、サンダーコボルトは飛び上がる。

ハイネめがけて、その鋭い爪を振りかざす。



ーーそこで、身体が勝手に反応してくれた。



ギリギリのところで横へ躱す。続け様に、爪を振り翳してくるが、単調だった。



逆にコボルトの隙をついて、下へと屈み、喉元を一刺しにしてしまう。


それで、コボルトは息絶えてくれたらしい。


「……分からないもんだなぁ。

 殴られ続けたおかげで、避けるのがうまくなってるだなんて」


魔物を退治したのも、もちろん初めてのことだった。


興奮して荒くなる呼吸を抑えながら、ハイネは妙な感慨にひたる。


一難を乗り越えたことに、ほっとため息をついているとーーーー


「…………どれだけ神様は僕のことが嫌いなんだよ」


さらなる災難が待ち受けていた。

闇夜に光る不気味な白目が、高みからハイネを見下ろしていたのだ。


グアァァッと叫び声を上げるのは、『一角オーガ』だった。


その咆哮は、大地を揺らし、木々は強くざわめき、その葉を散らす。


冒険者ギルドにおけるランク付けでいうなら、Aランク。

さっきのサンダーコボルトは、せいぜいDランクだから、全く格が違う。



普通は、こんな森に現れるような存在ではない。

もっと瘴気の濃い、危険区域に生息する魔物だと教会では習っていた。


なにかの拍子にオーガが進化してしまい、山の主として君臨していたのかもしれない。


「くそ、どうしろって言うんだよ……!」


ハイネは再び腰刀を構えるが、今度ばかりは絶体絶命だ。

知らず知らず、がたがたと腕が震えてしまう。


間合いだとか、相手の出方を探っているような余裕はとてもじゃないが持てない。



死がすぐそこで、こちらへ手を伸ばしている。



だからって、このままやられてたまるか、とは思った。

ナタリアに、無事に生きていてくれ、と言われたばかりだ。


ハイネは決死の覚悟で、逃げることを決めた。


道から、森の中へと飛びこむ。

ままならない足を駆って、走りに走った。木々や岩肌に身体が擦れるが気にしてはいられない。


だが、その程度でみすみす逃してくれるような甘い魔物ではない。


一角オーガは、ハイネの後ろをつけてきた。


俊敏さも桁が違った。

恐ろしい圧が、全身の毛をそば立たせる。


その大きすぎる図体は、木々などの障害物をモノともせず、迫りきた。


かなりの接近を察知してハイネが後ろを振り返ると、一角オーガは、その拳をちょうど地面に叩きつけるところだった。


「……うわっ!?」


足元がおぼつかず、ハイネはバランスを失う。

そのまま、尻餅をついてしまった。


太く大きなその腕が、木をなぎ倒しながらハイネを狙いくる。


ここも、身体が勝手に反応してくれた。

寸前で体を後ろへ倒し、ぎりぎりで直撃を回避する。


……ほんの少しずれていたら、首をもがれていた。


代わりに犠牲となったのは、『悪魔を封じ込めた』という首輪だ。

鉄屑となって、地面に落ちていた。


息つく間もなく、お次は反対の左腕が振り上げられる。


今度こそ、避ける手立てはない。完全に、一角オーガの攻撃範囲内だ。


ーー終わった、とそう思った。


走馬灯のように駆け巡った記憶は、ほとんどろくなものではなかった。


捨てられ、嫌われ、追放され。

惨めばかりの人生に、最後の最後まで情けない結末がついて終わり。


創造神・ミーネに嫌われた無能力な聖職者には、これがお似合いなのかもしれない。


ハイネが覚悟を決めて目を瞑った、その時だった。



いつまで経っても、痛みは襲ってこなかった。

代わりに思いがけない眩しさが、まぶたの裏まで入り込んでくる。


いったい何が起きているのか。ハイネは、わけもわからず目を開ける。


すると、どうだ。


腕が、足が、胸が、白い光に覆われていた。まるで、天使の羽に包まれたかのように、それは温かくも眩い。


なぜか、身体そのものが輝きを放っていた。













ご贔屓、ありがとうございます。


夜も投稿する予定です!

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