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21話 結界魔法



剣士と弓士の兄弟を指導しつつ、ハイネらは、水源地を目指していた。


二人の訓練のため、魔物が出そうなところに、ときどき寄り道をしながらである。


「……今日だけで明らかに強くなれてる気がするな、兄者」

「弟よ、それは気のせいではない。きっと、本当に強くなれているんだ」



実際、コボルト程度の魔物相手ならハイネが指示を与えずとも倒せるようになっていたのだから、大進歩だ。



兄のタングと弟のトング。


はじめは、少しややこしかったが、もう呼ぶのにも慣れた。




寄り道の成果は、他にもあった。


山の奥地に、オクラが群生しているのを発見したのだ。

マルテシティでは人気の野菜として、市場に並んでいるのを見かけることもあったが、


「……兄者、知ってるか、この星形の奇妙な実をつける草」

「弟よ、俺にはわからん。寡聞にして知らん」


カミュ村では、ただの野草だと思われているようだった。


とすると、これはいい物を見つけたかもしれない。

もしくは米と並んで、名産品となれるだけの野菜だ。


(……まぁそのためには、まず商人が来ないと始まらないんだけど)



味などを見るため、まずは一部だけを摘み取っておいた。

レティにお願いして、調理に回してもらうつもりだ。




他にも、出るわ出るわだった。

群生したたくさんの山菜類に、野いちごや林檎など果実類のなる木々も発見する。


ここまで奥には踏み入っていなかったらしい。

その分、豊富に実りがあった。



帰りに土産として持って帰ろうかと話しているうち、ハイネらはいよいよ流れの始点へと辿り着く。


「…………ハイネ様、これ」


くたびれきって半目状態だったナナが、ふとその目を大きく開いた。

兄弟二人も、同様に唖然としている。


「どうやら、これが原因みたいだね」


湧水の源にあたる、沢。そこを、かなりの大岩が塞いでいた。


「はえぇ、こんなもんが」


兄・タングが軽率にもそれに触れる。


「……やめて! 離れてくださいっ!」


咎めたのは、ナナだった。厳しい顔をして、続ける。


「……これ、生きてますよ。聞こえます、嫌な拍動が。魔物です、こいつーー」


ナナが言い終わる前、ゴゴゴと山肌が揺れ始める。


岩からむくりと手足が生え、顔が起き上がる。


「「ひぃ~!!!!!」」

「グガァァァッ!!!!!」


タング、トングの兄弟があげた悲鳴と、魔物の叫び声が入り混じっていた。



縦にも横にも、人の体の三倍近い図体だった。体重にすれば、はるか上をいくに違いない。


その大きすぎる全身を目の当たりにして、


「……岩石ゴブリン」


ハイネは、一つの記憶にたどり着いていた。


ゴブリンの進化系の一つである、強力な魔物だ。ランクはA、危険認定もされている厄介な存在だ。


「後ろに下がって!! 草陰にでも隠れていてください!」


ハイネはそう言うが、兄弟二人は従わない。


いや、従えないでいるらしかった。

腰が抜けたのか、その場にしゃがみ込んでいた。


「ハイネ様、わたくしが二人を守っておきましょうか?」

「いいよ、さすがに男の人は重いだろうし。ナナも早く、どこか安全なところへ!」


岩石ゴブリンは、重たい身体を揺すりながら、ハイネらに近づいてくる。


ゴツゴツとして、大きすぎる足だ。

あんなものに踏みつけられたり、蹴られようものなら、それだけで息絶えてしまいかねない。



ハイネのすぐ後ろには、まだ兄弟二人が怯えきってしゃがんでいた。


戦闘をするのに適した環境とは決して言えないが、


「ーーマナ、構築」


これ以上は引き下がれない。もう限界のラインだ。


「……ハイネ様、素敵な目」


ナナの声が聞こえたのは、そこまでだった。ハイネは自らの内部へ、奥深くへ、意識を尖らせる。


ここで倒れられても、あとが面倒臭い。




そもそもの目的は、湧水が滞っていた原因を探り、対処することだ。


この大きな体に、沢からの流れを塞がれては、元も子もない。


大きい身体は、分割しなければなるまい。

しかし岩の体を、砕けるかどうか。


ハイネはもう一度、岩石ゴブリンの全身を確認する。


「トングさん、矢を撃ってください!」

「や、矢を?」


「えぇ、めった撃ちで結構ですから、頭を狙って!! そこが急所です。頭を壊せば、岩は石に分解されますから」

「わ、わ、わ、わかりました!!」


へろへろの矢が、乱雑に放たれる。


しかしそのうち何本かは運良く、岩石ゴブリンの顔面を覆う石の、その隙間に挟まってくれた。


「は、ハイネ様、もう矢がありません」

「あれだけで十分ですよ。ありがとうございます」


となれば、今度は彼らを守ってやる番だ。


ハイネは神経を尖らせるため、瞳を閉じる。

強く、深く、体内のマナに意識を集中させていった。


イメージするのは、マナによる強固な防護壁だ。


ハイネは目を見開く。


と、地面に、正方形の光線が走った。

またたくまに白く輝く壁が構築され、最終的に直方体の箱が作り出されていく。


最後に、透明になった。


うまくいったようだ、防御の結界。



が、ほっとしている暇はないらしい。

岩石ゴブリンは、いよいよハイネらの目の前までやってくる。


大きな腕が目一杯開かれた。


ーー来る。


そう思った次の瞬間、岩石ゴブリンは結界を壊さんと挟み込んでいた。


「「あわわわわ、大丈夫なんですか、これ!?」」


兄弟が、シンクロして騒ぎ立てるのを、


「安心しなさいな。ハイネ様の魔法は、超越してますから♪」


ナナが静める。


実際、とんでもない力だった。


あんな衝撃を加えられれば、どんな大岩でも粉々になるに違いない。


だが、マナ結界の強度はその力を大きく上回っていた。


岩石ゴブリンは、むきになったのか力を込めるが、びくともしていない。



ハイネは、小さな結界を階段をなすように作り上げる。


大きくないものであれば、簡単に作ることができた。


そこを軽快に飛び渡っていって、『武器変幻』。


一閃。

岩石ゴブリンの頭に、大きく振りかぶった巨大なハンマーを打ち付けてやった。


「グ、グ、ガァ…‥‥‥」


矢が楔となり、顔面の大岩を砕く。


それにより、大岩でできた身体全身が、ぱらぱらと砂になり降り落ちてきた。



結界で作った箱の上で、ハイネは剣をしまう。

ステータスを確認すると、



__________

 獲得済魔法


・武器変幻(武器の形をイメージしたものへ変形させることができる)【回数2/5】

・自動獲得(ドロップアイテムを的確に獲得することができる)

・組上げ生成(材料などを、用途に合わせて自在に加工できる)

・結界組成(マナ製の結界を作り出すことができる)【回数20/100】


__________



新たな魔法が加わっていた。



前には、不完全なものしか作れないだろうということで、野営を諦めさせられたが……。


今日は、無事に扱うことができた。ほとんど思い通りの大きさ、そして強度だった。



「さっすがハイネ様! また、一段と使いこなせるようになってきてますね」


ナナが、ハイネの造った結界を登りながら言う。


「うん、ありがとう。これは、かなり便利な魔法だね」

「おっ、早速他の利用方法が思いつきましたか?」


「うん。掃除とか、高いところの物を取るのが楽になりそうだ。さっそく家に帰ったら、レティさんに言って、屋根の掃除でもしようかな」

「ハイネ様、小さい! その使い方は、小さすぎますよ!? 『超越』魔法で家事をするだなんてっ」



そうは言われても、ハイネにしてみれば、これほど実用的なことはない。


無限の可能性に思いを馳せて、ハイネは一人、ほんのりと微笑む。



「……すげぇ、すごすぎる。兄者、神がいるぞ、天に」

「ハイネ様は、空を歩けるのか…‥。弟よ、あの人は本当に神かもしらん。現人神だ、きっと」



タングとトングの兄弟が、それを崇めるように見上げているとも知らず。




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