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14話 村に残ってください?




今日は厚めに投稿します!

それからというもの、サンタナ爺はすっかり、ハイネの作成した柵の虜になってしまった。


没頭させてやるため、ハイネはハイネで、任されていた柵づくりへと戻る。


残りの4回分、全てを使い切った。


さらには、庭先の掃除から、虫の駆除、雑草の処理。


ハイネは、幅広く買って出た。


なんの苦労も感じず、むしろ自分から求めにいったほどだ。なにをやっても、聖職者だった頃よりは、楽でかつ、やりがいもあった。


昼をいただいて以降も、それは続いた。

さまざまな仕事をこなし、あれよのうちに日暮れを迎える。


箒をもらって、屋根上をはたいていると、


「……ハイネ様、どれだけ好きなんですか、お仕事!!」


ここまで付き合ってきたナナは、限界がきたらしい。へなんと、塀に腰掛け、大股を開き呆れたような声で言う。


女の子がとるべきではない姿だ。とくに、まだ小さなサリの前である。



だが、まぁたしかに興が乗ってしまっている気もしていた。うずうずと、心が騒がしいのだ。

自覚はあったので、一旦手を止める。


「もう休んでてもいい、ってレティさん言ってたじゃないですかぁ」


言われた、たしかに言ってもらったし、一度は言葉に甘えて居間で茶も飲んだ。


だが、落ち着かなかったのだ。

職業病のようなものかもしれない。なにもしない、が逆に難しいのだ。


「うん。お兄ちゃん、まじめすぎ」


肩車して乗せてやっていたサリがハイネの頬を触りながら、ナナに同調する。


「まぁ、そのカッコといい、子どもには好かれる感じ、ハイネ様らしいですけど」

「……好かれるっていうか、舐められてるんじゃないかな」

「マルテシティの子たちはそうかもですけど、サリちゃんは違うと思いますよー」


そうであってほしいとは思うけど。


思いながら、決してサリを落とさぬよう抱え直して、また掃除に戻る。


そこへ、短く切れた息が聞こえてきた。

西日を背に走ってきたのは、昼間に会ったサンタナ爺だった。


「ハイネ殿、よかった、まだ村を出てなかったか!」

「……えっと、まぁまだ仕事が終わっていなかったので」

「それはよかった。朝にもらった柵、やはりかなりの代物だった。技術的に大革新じゃよ、もはや! つい血が騒いで、再現してしもうた。……あくまで、一部じゃが」


曲がった腰の後ろから、彼が取り出したのは、柵の角部分だ。


「ハイネ殿、これはどのようにして作ったのじゃ?」

「少し、魔法を使用しただけですよ」


『超越』魔法だとか、余計なことは言わない。


「僕も、どうしてあの形になったのかまでは、分かりません」

「……分からなくてもよい。こうして分解すれば、どのような技術が凝らされているか分かるんじゃから」


そこで、サンタナ爺は大きな音を立てて手を合わせる。

力を込めて念じるように、ハイネを見上げた。


「頼む、ハイネ殿。もう数日、ここにいてはくれぬか? 他のものも、作ってほしいんじゃ。むろん、礼はするゆえ!」

「で、でも、あまり長居するのはご迷惑なのでは……」

「そんな滅相もない! レティの家がダメなら、ワシの家でも構わん。どうか!」


薄い頭皮を、ハイネの肩上にいたサリに弄られても、サンタナ爺の意志は揺らがない。


別に、予定が決まっているわけじゃない。

せいぜい、魔物からドロップさせたアイテムを売ろうかと考えていたくらいだ。


それも、目先の金を手に入れるためでしかなく、明確な目的があるわけじゃなかった。


(けど、これ以上、お世話になるのはどうなんだろう……)


ハイネはそのあまりの謙虚さで、実際にそう考えていた。


「ハイネさん、あたしからもお願いします。もちろん、お二人がよろしければですが、うちに引き続き泊まってくださいな」


そこへ、干していた洗濯物を抱えてやってきたのは、レティだ。


「でも、御迷惑じゃないですか?」

「そんな、滅相もない。むしろ、こんなに仕事してくれるなんて、びっくりしたくらいです。

 男手が欲しくて困ってたので、とっても助かっちゃいました」


まだ若いのに女手一つで子育てというのは、確かに大変なのだろう。

今日も、ハイネと変わらぬくらいに動き回っていた。


「とかいって、ハイネ殿を気に入ったんじゃろ、レティ」

「……な、な!? 変なこと言わないでくださいな、お爺さん。あたしは、もう25ですし、それにほらハイネさんにはナナちゃんがいますし」

「ほっほ、誰も恋愛対象として、などとは言っておらんぞ?」


レティは洗濯物をひっくり返しそうになる程なぜか動揺していた。


働きやすいようにだろう、束ねた三つ編みの髪を振り乱して、真っ赤に熟れた顔を振り続ける。


ハイネたちを置いてけぼりに言い合いをした末、


「と、と、とにかく! あたしたちは歓迎します。もしよければもう少し、ここにいてはくれませんか?」

「うむ。ワシからも頼めないだろうか」


最後には協調して、二人が口を揃える。


ハイネの意志はといえば、もうほとんど決まったようなものだった。


ここにきて、自分がこの先どうしたいのか、ハイネはやっと気づいた。

自分ごときでいいのなら、求められる場所にいきたい。


誰かに、必要とされていたかった。



それに、この村のこともある。

またいつ、あの悪徳代官たちがやってくるか分からない。


結果論だが、焚き付けてしまったのは、ハイネだ。だったら、退けるところまでやるべきだろう。


「……ナナさん、いいかな」

「ハイネ様が決めることに従いますよー。それに、わたくしもここはいい人たちで溢れてて、好きですし」

「ありがとうね、ナナさん」

「礼に及びませんよ。充実した顔のハイネ様を見られているだけで、わたくしは十分です♪ むしろ、それこそが幸福?」


ナナは、天使の笑みで承認してくれる。


それを受けたハイネは首を傾げ微笑んで、


「では、よろしくお願い申し上げます」


改めて、挨拶の言葉を述べた。


「ハイネさん、固すぎですよ。ほら、もうそろそろ日が暮れるからもう休んでくださいな」

「痛み入ります」

「それが固いって言ってるのに」


レティに背中を叩かれ、家の中へと押し込まれる。



追放されてから約二日。


ーーかくして、ハイネらはカミュ村に残ることとなったのだった。



これが伝説の始まりだとは、今は誰も知る由もない。

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