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10話 村人たちに救世主だと賞賛を受ける



引き続きよろしくお願いします。



(あの男が代官……。世も末かもしれないね)


納刀しながら、ハイネは唇を噛む。



代官とは、村など、小さな単位の集落を実質的に管理する者をさす。



領主である貴族家に直接属する者ではなく、その家臣の配下が務める役職だ。


支配者階級の中では末端にあたるが、村へもっとも直接的に影響を与える存在には違いない。


それがあの男というのは、この村にとって災難な話だ。


ハイネが逃げ出した代官らの情けない背中を見送っていると、


「おぉ、救世主さまだ! 素晴らしい!! あの代官を、こんな一瞬で追い払ってしまわれるなんて!!」

「本当だ、よかった、よかった!」


「でも、次が怖いんじゃ……」

「まずは、サリちゃんが無事だったことが大事だろうが! 食糧も無事に返ってきたしよぉ!」


後ろでは村民らから、大歓声が沸き起こっていた。


これまででは、考えられない光景だ。

ハイネがなすことに、賞賛の声がかけられた経験など、これまでは一つもない。


固まるハイネの元に、


「ハイネ様〜!!」


ナナが、パタパタと駆け出てくる。


すごい、すごい、とハイネの肩口に手を置き、跳ねて飛んだ。


その仕草自体は可愛いけれど、羽が出てしまって、もし天使だと露見すれば、大変な騒ぎになる。


が、どうやらハイネの他には誰にも見えていないらしかった。


ホッと息をついていると。


そこへ、先ほど磔にされていた少女と母親らしき女性が、ハイネの前へと出てくる。


「ナナさん。この子、いつのまに元気になったの」

「天使はみんな、ヒールは得意なんです。あとは、なだめてたら泣き止みましたけど……」


ナナが治療に当たってくれたらしい。


さっきまでは立つことすらできていなかったのだから、劇的な回復といえよう。


さすがは天使様である。


「あの……! お二人とも、妹を、サリを助けてくださって、本当にありがとうございます! この感謝はどう表現していいんだか……」


女性が膝をつき両手を結んで、ハイネらを見上げてくる。


どうやら、年の離れた姉妹だったらしい。


ハイネが一人納得していると、神に祈りを捧げるかのように、彼女は両手を握り合わせる。


慌てて、ハイネは手を横に振った。


「えっと、そんな大したことではありませんよ」

「いえ、もう終わりだと思ってたんです。あなた様は救世主です。

 あの代官は、あのように何人も、磔に処してきましたから」

「何人も…………」

「はい。今日は、あたしの家が貧しいせいで、サリは磔に処されてしまいました」


…………あの輩どもめ、とことんどうしようもない。


ハイネが気分を害していると、女性は脳天を床につけるようにして、頭を下げる。


「サリを助けてくれて、あたしの希望をまもってくれて、お二人とも、本当にありがとうございました!」


隣では真似をしてだろう、少女もお辞儀をしていた。

後ろでは、再びの拍手が起きる。


なんとか、うまく一段落がついた。


そう思っていたところ、張り詰めていた神経がふっと和らぐ。



そうして途端に襲いかかってくるは、空腹と眠気の二段攻撃だ。

それでもハイネは堪え、笑顔の仮面を貼り付けていたのだけど……


ナナのお腹は正直にぐぅっと鳴り、彼女はふわぁと欠伸までしてしまう。


「……ナナさん」

「あっはは〜…………、わたくし、もうどっちも限界かもです〜」


まぁ、生理現象であればしょうがない。


ハイネはまだ頭を下げていた女性に顔を上げてもらう。


素朴ではあるが、一つ一つのパーツが整った顔に、尋ねる。


「あの、この村に宿屋ってあります? 仮眠を取れればいいのですが」

「……すいません。あいにく、今は…………宿屋などは軒並み潰れてしまいました」

「そうですか、でしたら他で探しますよ。ちなみに、商人さんはーー」


これも、やはり首を振られた。

そういえば、あの代官も「客人など珍しい」と言っていたっけか。


「……あの、宿はないですが、うちなんかでよければ、どうぞ泊まっていってください」


その申し出に、すかさず反応したのは、ナナだった。


いいんですか?! と目を輝かせる。


一方のハイネは、人からの好意を素直に受け取ることに、まだ難しさを覚えていたが、


「……お兄ちゃんたち、泊まってくれるの? サリ、嬉しい」


幼な子に、こんな風に言われてしまったら、もう断るのも申し訳ない。


「では、すいません、お言葉に甘えさせていただいてもよろしいでしょうか」

「えぇ、もちろんです。あなた方のおかげで、妹が助かったんですから、これくらい!」




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