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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

青年軍事教育都市~御陵台島~

青年軍事教育都市~御陵台島~の出来事

作者: にーじゃぐ

飛行機雲が右から左へ、真夏の空を奇麗に横切っている。蝉の鳴き声が響き渡る中、縁側で座布団を枕代わりに、俺はただただ床板の冷たさに身を委ねていた。傍らには薄汚れたオーストリア製のグロック17自動拳銃が転がっている・・・。


俺は内神轍、御陵台中学の2年B組。この島に十人しかいないClass A戦闘員ソルジャーの一人。小学校卒業と同時にこの御陵台島にやってきた。世の中でテロだの暴動だの物騒事件が頻発する中、とうとうこの日本でもアメリカ式の”自分の身は自分で守る”という考えが、武器商人の入れ知恵と共に輸入されてきたって訳で・・・。全国の小学校5年生から武器およびメンテナンスの実習、戦術学が必修になり、戦う人間と補助する人間で能力の高いもの、つまり、上位5%程のClass AからEの評価を受け選抜されたものが(Eより下はランク外、つまり、普通の人ということだ)、国の莫大な資金と援助のもと、この高度に発展した島に集まってきて、能力の発展と世界平和の実現に向けた”軍隊”になる訓練をする、というシステムだ。


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飛行機雲が揺らぎ始め、強力な青い空の中で徐々に歪み、消えそうになる中、玄関から気だるい声が聞こえてきた。

「おーい、轍、巡回の時間だぞ。」

甲高い声と共に、ヒュッと風を斬る音と足の裏への痛みが轍に襲い掛かる。

「いってぇ・・・てめぇ!!!なにしやがんだ、このボケが!」

「足裏気持ちいいでしょ?どう、この新しいゴムの鞭。」

「痛ってぇ・・・」


轍の悶える姿を見て笑いながら、学校唯一のClass B認定の鞭使いである馬木目修司は、鞭を背中に戻して話をつづけた。「さ、頭スッキリしたところで、パトロール出発!」

パトロール(巡回)、戦闘員の面倒な義務の一つ。この島には普通の警察もいるが、いろんな武器が出回ってる上、アブナイ能力を持つものばかりなので、この島は戦闘員が輪番で治安を維持する義務を負っている。24時間3交代。週2日のアルバイトみたいなもんか・・・。

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昼3時、35度のうだるような暑さの中、国道585号線の歩道を馬木目はうちわをバタバタさせながら、唐突に話し始めた。

「そういえば、昨日のニュースみたか?」

「あぁ、華南目町の火事の件か?」

「そう、倉庫がどっかーん。人は誰も死んでないみたいだが・・・」

「ふーん、じゃあよかったじゃん」

「まあ、巡回中に起きなきゃいいけどな。あー、早く帰ってぐーたらビレッジやりてぇ。」

「まだあのおこさまゲーやってんのか…。コンプ率は?」

「38.8%」

「…」

こいつは筋金入りのクソゲーマー(ほのぼの系限定)で、そして致命的にゲーミングセンスがない。もうぐーたらなんちゃらをやり始めて3か月経つが、一向に終わる気配がない・・・そして、クソみたいに時間を浪費している。

「轍、お前みたいなクソガンマンにはわかるまい、このぐーたらビレッジの壮大かつ緩やかな時の流れ、ウルトラかわいい”ぴよっち”とのかけがえのない生活が!」

「はぁ・・・ところで、あの煙なんだっけ?」

「!?」

300メートルぐらい前方に、黒い煙が立ち昇っている。遠くからサイレンの音が、蝉の声と混じりあって鼓膜に不快な音が届いてくる。

「お、俺の”ぐーたら生活”が・・・至福のひとときが・・・。」

「さ、行くぞ。クソゲーよりもやりがいあるかもな。良かったな、馬木目。」

「ぶっ殺してやる!」

蝉+サイレンに、鞭が宙で唸る音が加わって、より不愉快な音を奏でながら、二人は煙の立ち昇る方向へ駆け出した。


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現場は水切町5丁目。既に野次馬が集まって、微かに焼けた匂いが残る倉庫の奥を覗きこもうとしている。馬木目と建物の中に入ると、タブレット片手に実況見分をする美鮫優が、こちらをジッと睨みつけてきた。


「あら、馬木目に内神さん。今日は巡回日なんですね。」

「よお、鮫。そうさ、最悪のタイミング。俺の至福の時間を奪ったやつをぶっ殺しに来たんだよ。」

「そうですか・・・。でも、犯人はここにはいませんよ。」

「なんか手がかりは?」

「さぁ、見ての通り、完全に灰になっちゃってますからね・・・。」


美鮫優。馬木目の幼馴染で、サポーター側のClass C調査員(investigator)として御陵台島にやってきた。こいつは戦争やテロとか有事の際の情報分析係であり、またそこから得られた情報を蓄積して、戦闘員が次にとるべき行動を提案する、まあ、鑑識+αのインテリ担当って感じか。


「ただ・・・」

「なんだ、鮫。」

「燃やされ方が美しいというか・・・。今回も、倉庫の中の北東のエリアのところは完全に灰になってるのに、それ以外のエリアはほとんどダメージがない。前回の華南目町のときも、見事に倉庫の中心部だけ奇麗に焼かれていた。」

轍は灰になったエリアに足を踏み入れ、少しかがんで鼻から息を吸い込んでみる。

「うーん・・・、なんか匂うんだよな、嗅いだことあるような、なんだろうな・・・」

「あ、内神さんも気づきましたか。私も気になっているのですが、わからないので、この空間の空気を持ち帰って精密検査にかけるつもりです。」

「そっか。結局今回も何かが燃えただけで、人は誰もいなかったと。」

「ええ。誰も死なない、とっても小さな事件・・・ですね。」

釈然としない表情をした美鮫に別れを告げ、馬目木と現場を後にし、休憩がてら夕食を食べにフードコートに向かうことにした。馬目木は早速ゲーム機を取り出して、なにやらガチャガチャしている。こんな奴がパトロールしているから、事件が無くならないんだろうな・・・。


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夕食を終えぶらぶら川沿いを散歩していると、馬目木はおもむろにゲームの画面をみて呟いた。

「なあ、轍。おまえ、なんか今日の事件、匂いがどうのこうの言ってなかったか?」

「ああ、なんだろう、微かに匂ったんだ。」

「そうか・・・。匂い以外にも、ちょっと妙な感じがしてな。」

「なんだ?」

「まず、普通こんな火災が起きたら、人が死んでなくてもどこそこの会社の倉庫が炎上!みたいな感じになるだろ。ところが、だ。今回起きた件も、前の華南目町の件も、実はその倉庫の所有者は既に土地も建物も最近放棄、つまり形だけでも国庫に返還されていて、存在していない。」

「まあ、こんな島でもお国の軍事訓練施設があるしそれなりに土地建物の固定資産税は高いからな、税金対策で返却したんだろうな。」

「そして何者かが、だれもいない、使っていないのを見計らって、勝手に何かを置いてたってことになるな。」

「で、その何者かが勝手においてたものを、他の誰かが燃やしたと?」

「そういうことになる。だから、ニュースでも新聞でも、火事があったことは書いてあるが、何が燃えたか、誰が被害者かが分からないから書かれていない。」

「へぇ~。気持ち悪いな。少なくともここに住んでる人間にとっては、誰も困らない事件ってことか。」

まだ気温は30度を超えている。そろそろ帰って風呂でも入ろうかと思ったそのとき、馬目木のスマホが間抜けなメッセージ着信を奏でた。暑苦しいほのぼのゲームのテーマソング。

「お、鮫からか。うーんと、”匂いの正体は檜の木”だってよ。」

「檜・・・そうか、あそこで嗅いだ気がしたのは、風呂で使ってる入浴剤の匂いだったのか。にしても、この島にそもそも檜なんて生えてないんじゃ・・・。あいつにちょっと手伝ってもらうか・・・。」

おもむろに携帯を取り出し、浜城にメッセージを送り始める。

”おい、浜。ちょっと調べてほしいんだけど。”

”おー、うっちー。元気~。あのさ、あずきこんもりみぞれかき氷が食べたいんだけどさ。”

”調べてほしいのは・・・”

”おーい、こっちのメッセージ見てる~?あと、この前、爆弾唐揚げ弁当のCMやってたからさ、ゆず醤油オプションでチャレンジしたいんだよね~”

”じゃあまた明日。ちょっとは痩せろよ。”

”殺”

心地よい風が吹きつけてきた。風さえあれば、この熱帯夜でも今日はクーラーなしでも寝れそうだ。満点の星空のもと、二人は町外れにある下宿先へ歩みをすすめる。蚊取り線香の匂いがどこからともなく流れてきて、縁側で早く寝転びたい気持ちになってきた。

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3日後の夜8時半、内神と馬目木は水切港にやってきた。ここには、外部からこの島で必要な物資が貨物船で運ばれてくる。食料、生活用品から弾薬や武器などなど、この島での生活と、この島で行われる”訓練”に必要な物資は、すべてここに運ばれてくる。


「馬目木、ナンバープレート水5-1331だ。」

「お、あの大型トラックか。見た感じ普通だな。お、なんか今積み込んでるな。うーん、あれは・・・建材か?」

「積み込みが終わったようだ、行くぞ」

二人は電動スクーターで、無灯火の状態で背後に回り込む。トラックは悠然と水切町の西にむけ進路を取り、田舎道を進み始めた。15分ほど走ったところで、川沿いにある倉庫に停車した。周辺は薄暗い工業地帯で、人影は殆どない。ただ、目の前にある倉庫だけは、明かりがついていて、フォークリフトが1台、電球の光を反射してきらきら輝いている。内神と馬目木の二人は50メートルぐらい離れた草陰から倉庫を監視することにした。


20分ぐらい経ってトラックの荷台が開き、間髪入れずに運転席から2人組の男が降りてきた。一人の男は紙をみながらもう一人の男に指示し、フォークリフトで所定の位置に積み荷を降ろしているようだ。ものの10分で、トラックに積まれていたものは全て倉庫の中に置かれ、男二人はそのままトラックに乗って去っていった。

「うーん、なんかちょっと柄の悪そうなおっさんだったな。」

「さあ、行くぞ」

倉庫には鍵もかかっていない。二人はそっと扉から入ると、真っ暗な中に、積み重ねられた古い鉄骨の束、そして不自然にきれいに長さが整えられた木の板が積まれていた。

「なあ、轍、なんでこのトラックを追ってきたんだ?」

「ああ、浜城に初めの華南目町の爆発の件の数日前から、島中にある監視カメラを探ってトラックの行動履歴を探らせた。すると、1台だけ、事件の日の夜に港と華南目町、水切町を走っているトラックを見つけた。そもそも、この島のトラックは大体が学校所有のものだから、一般所有のトラックなんて全部でもたかが知れてるしな。」

「ふーん、全部筒抜けって訳か・・・。」

「あと、檜の匂い。この島にはそもそも檜なんて生えてないし、外からやってきたんだったら港からしか来ないだろうなって思って、あわせて浜に港の輸入物品情報を調べさせた。すると、東南アジアのF国からの輸入木材として檜があったから、次の輸入日の情報を調べたら・・・今日だったって訳。」


浜城逸理、通称浜。いつも食い物のことばっかり考えてるちょいぽちゃの女だが、こいつはこの島で、いや世界でも数本の指に入るハッカーであり、電子工作員のClass Aだ。この島の、というか、この世界のあらゆる電子通信機器は、こいつの手にかかればすぐに手の上で転がすおもちゃになってしまう。先月の人工衛星が謎の誤作動を起こし、地球に墜落させたのもこいつがおふざけでやったんじゃないか、と言われている。まあ、あくまで噂ではあるが・・・。

「なあ、轍。なんかただの板切れっぽく見えるんだけど・・・」

「・・・ちょっと待て、よいしょっと・・・」

一枚の板を持ち上げ、近くにある鉄骨に思いっきりぶつけてみる。ガーンという音が倉庫内をこだまするとともに、板はバキッと音を立てて割れた。

「おい、これ・・・。」

馬目木は、板の中心部分に浸み込んでいた、真っ白で艶のある塊を手に取って見せた。

「・・・薬物・・・か・・・」


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「はーい、そこの君、こんな夜遅くに、人気のない倉庫なんかに来ちゃダメなんだぞっ。」

倉庫の中で、突然甘ったるい声がこだまする。

「よい子はおうちに帰って、ねんねんねむねむ、しちゃおうね!」

「やっぱお前か、数麻湯利。てめえ、こんなところで何やってる?」

「アルバイトだよっ。アイドル活動にもお金はいーっぱい必要なんだぞっ。お仕事の邪魔しちゃう子には、お仕置きしちゃうぞっ」

数麻湯利、水切女子中学で学園アイドルとして活動しているが、一方で火器を自在に操るイカれたClass Aの爆弾魔。キラキラしたピンクのリュックを背負いながら、常に着替えと危険物を持ち歩いる。


声の残響が倉庫に響く中、カラン、コロン。何かが転がってくる音がする。

「馬目木、左!」

「!」

咄嗟に二人は右に飛び、手榴弾の爆風から辛うじて身をよける。

「さあみんな、ステージがは~じま~るよ~」

次々と手榴弾が転がってくる。内神は銃で転がってくる手榴弾を打ち抜き、馬目木は鞭ではじき返すが、じりじりと壁際の方に押されていく。

「なあ、数麻。お前この木材が何か分かってるのか?」

「悪ーい、白い粉が浸み込んだものなんだぞっ。愛するファンと島の平和のために、ファイヤー!できれいにしちゃうんだぞっ。」

ざっとなにか雨が降ったような音がし、鼻に突く科学的な匂いがした瞬間、木材のエリアは一気に炎に包まれた。まるで巨大なキャンプファイヤーだ。

「さあ、内神くん!君の持ってる白い欠片も、ぱーっと火の中にいれちゃいましょう!でないと、君にも火をつけちゃうぞっ。」

燃え上がる炎の向こうには、笑顔の数麻がこちらを見て、ファンへの挨拶よろしく手を振っている。

「ちっ・・・」

火の勢いは徐々に大きくなり、徐々に二人のいる壁際に迫っている。

「どうすっかな~」

馬目木の間抜けな声が響いた瞬間、入口の扉がドーンと音を立てて吹っとんだ。


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銃と防弾チョッキで重武装した20人ぐらいが倉庫に入ってくる。リーダー格と思われる男が声を上げた。

「おい、出てこい小僧共。」

「誰だお前ら。」内神は迫る炎で吹き出る額の汗をぬぐい、叫び返した。

「お前が知る必要はない、ここで死ぬんだからな。」

一斉に20人が銃を放ちはじめる。内神と馬目木は鉄骨の陰を転がるように移動しながら、反対側からやってきた数麻と合流した。

「もぉ~っ、今日はお邪魔虫さんがおおいなぁ~。」

「腐れアイドル、閃光弾と手榴弾を真上へ投げろ。馬目木、一つをコントロールできるか?」

「敵にぶち込めってことね、了解!」

「いっけ~。」数麻が真上に閃光弾と手榴弾を放り投げる。頂点に着いた瞬間、閃光弾を内神が拳銃で打ち抜き、一瞬倉庫内が明るくなった。瞬間、

「おりゃぁぁ」

馬目木が鞭をしならせ、空中の手榴弾を敵の中に叩きこんだ。轟音と共に、7~8人程が爆風で吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる。他の連中が混乱し動揺する中、内神は銃で敵の手足を打ち抜いていき、馬目木は鞭で相手の銃を奪いつつ、返す鞭で敵の顎を的確に射抜いて気絶させていった。

「くそったれ、退却しろ。」リーダー格の男と数名は、倉庫から出て車で走り去っていった。


相変わらず木材はバチバチと音を立てて燃え上がっている。数麻はとりあえずバイト(任務)は完了したんだろうか、笑顔でキャンプファイヤーの周りをくるくると踊っている。

「なあ、腐れアイドル。このバイトはあの掲示板のやつか?」

「そうそう、”正義の掲示板”の依頼。今回のは”燃やす”っていうわたし向きのキュートな内容だったし、報酬がよかったんだよね~。しかも3回もあったし、超ラッキー。」


”正義の掲示板”。誰が運営しているかはわからないが、日本政府(防衛省)も絡んでいるといういわくつきの3行広告だ。依頼内容と連絡先、報酬が書かれており、実行すれば報酬が得られる。内容はいわゆる工作活動で、政府にとって敵対する組織・活動を調査したり、殲滅するというなかなか過激な内容だ。


「じゃあね、お二人さん。今度のライブ、絶対見に来てね!今度は君のハートに火をつけちゃうぞ、バイバイ!」

数麻は電動キックボードに飛び乗ると、そのまま闇に消えていった。入れ替わるようにして、警察のサイレンが近づいてくる。二人も厄介ごとに巻き込まれる前に、現場から立ち去ることにした。


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「結局、現場でのびてたやつはなーんも知らなかったな、轍。」

「そうだな、金で雇われたただのチンピラだったな。だが、少なくともあの白い物質が薬物だったってことは、この税関のない島を経由して、一儲けしようとしているどっかのマフィアの仕業なんじゃないか。しかも、木材の中心にしみこませて隠すって、なかなか面白いやり方だな。」

「でも、少なくとも木材に隠されてるのを”正義の掲示板”の投稿者が分かってたから、あの爆弾アイドルに依頼したんだよな。だったら、船着き場で押収したらよかったのにな。」

「まあな、でも、押収よりも派手に燃やした方が、”見せしめ”にはなるんじゃないか。」

「まあな、あのリーダー格っぽいやつは、目の前で仕事を完全に潰されて哀れな感じだな。」


華南目町のファミレスで、二人はポテトをつまみながらのんびりしていた。ふと外を見ると、華南目ビジョン(でっかい大型ビジョン)に、数麻湯利の新曲CDのCMが流れている。

「あんなにかわいい子なのにな・・・。轍、どうよ、あの子?」

「ねえよ。怖すぎるだろ。気に食わないことがあれば、焼身自殺に見せかけて焼き殺されちまうよ・・・。」


「お客様、ケーキをお持ちしました。」

「は?頼んでないんですけど。」

「え、7番テーブルのお客様からこちらに知り合いの方がいるので、お持ちくださいと言われまして・・・。あと、こちらも・・・。」


手渡されたのは手紙だった。

”うちうちとうまうま。この前は助けてくれてありがとー!バイト代も無事入ったし、ケーキをごちそうし・て・あ・げ・る。今度絶対ライブ来てね~。もちろん、チケットは自分で買ってね~。それじゃ、バイバーイ。チュッ!君のアイドル、ゆりちゃんより”


馬目木がフォークでケーキを一口撮ろうとした瞬間、テレビのネタのようにケーキが爆発。全身クリームまみれになりながら、二人は深いため息をついた。


---------------------------------------------------------------------

あの夜、燃え上がる倉庫から抜け出した男2人は、国道586号を車で北上していた。運転席の男が助手席の男に話しかける。

「リーダー、どうします?このままいくと本国から・・・」

「うるせぇ!あいつらを絶対に潰す。このままだと示しがつかねぇ!」

携帯の着信音、リーダー格の男は乱暴に掴み画面を見る。そこに映っているのはボスからの着信。

「はい、ボス、申し訳ございません・・・」

「あ、えーと、こんにちは、リーダーさん。」

ボコーダーで機械のような声が流れてくる。

「てめぇ誰だ!」

「ああ、ちょっとこの番号使わせてもらってます。ところで、この、”ボス”って、本名なんっていうんでしたっけ?」

「てめぇ誰だ、名乗れ!」

「こちらの問いに答えて頂けませんかねぇ・・・」

次の瞬間、運転席の男の首が打ち抜かれ、急ブレーキがかかり道沿いの崖に突っ込み停止した。リーダー格の男が車から這い出たところで、また目の前に転がっている、ガラスが割れた携帯の音が鳴る。

「本名、教えて頂けませんか?」

「だ、誰なんだ、お前は!答えろ!」

「そうですか、無理ですか。」

シュッ。空気を斬る音があたりを走り、リーダー格の男はこめかみから血を流して動かなくなった。


1800メートル南西の小高い丘では、電話を切り、男が空を見上げていた。傍らには、M110SASS狙撃銃が月の光を浴びて黒く輝きを放っていた。男は、そのまま携帯でメッセージを送った。

”長官、仕事完了。”


おわり






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