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ナイトメアロストチャイルド  作者: おのこ
君に大丈夫だって言えるように
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ルール3《ドントゲットコートゥ》

「えっ、つまり君は素手でブギーマンの首をへし折ったって事!?」


「単純に素手ってワケじゃねえよ、まずこう、フェイントを掛けてだな……」


 病院から少し離れたガソリンスタンドに蛍光灯が灯っていた。星もない月だけが光る暗闇から切り離され、前後不覚の状態から復活したアユムとケイはこれまでの経緯と情報の交換をしていた。



 ケイと名乗る青年は、おおよそ1ヶ月ほど前からこの夜に囚われているらしく、それ故にこの場所での裏技や隠しルールのようなものについて、かなり熟知していた。


 ひとつは、今まさに恩恵を預かっているセーフゾーンの存在だ。

 基本的に、この夜において街の灯りは全て消えており、光源といえば夜空の月くらいなものだ。

 だが、電気回路や物理法則まで変わっているわけではなく、燃料と発電機さえあれば明かりはつく。

 そしてブギーマンは光を嫌がり、そういった状態を作ればしばらくは安全にやり過ごすことができる。


「まぁ本当にそんな事できる場所なんて数少ないから、いつでもってわけには行かないけど」


 ケイはそう言って苦笑いをするが、実際にいくつかのセーフゾーンを使い一ヶ月を生き延びているのだから、これはもはや必須と言っていいほどの知識だろう。


 ふたつめは、この夜の始まりと終わりについてだ。

 最初にこの夜に連れてこられる場所は人によってまちまちで、皆、記憶の一部を失って放り出される。

 失われる記憶のルールは何を失ったか自覚ができないため不明、ただし、前の夜の記憶だけ引き継ぐ事ができる。

 そして重要なのは、夜明けを迎えこの夜を終えた場合、次に何処に出るかは不確定ではあるが、前夜に身につけていたものは引き継ぐことができるという点だ。


「僕の場合は、最初に出た家にこれ(日本刀)があったからずっと持ち歩いてる。見栄っ張りの骨董品だと思ってたから実際振るうとは思いもしなかったけどね」



 みっつめは、ブギーマンは日々成長しているということだ。


「最初の夜は本当にゆっくり歩いて掴みかかってくる位だった。けど段々反応も早くなって来て正直言って正面からはもう厳しい……セーフゾーン潰しもある日突然やるようになって泡を食ったし、今日の腹の大口、あれも初めて見た」


 それらの話をアユムは感心してへーだとかほーだとか間抜けな返答をしていたが、そこで兼ねてからの疑問を投げかけた。


「んな危ねえならなんで俺を助けに出て来たんだよ、完全じゃなくてもセーフゾーン渡り歩いてりゃ大体大丈夫なんだろ?」


 その言葉にケイはソッポを向いて頭をかく。


「笑わないでくれるかい?」


 アユムはなんだコイツと思いながらも、ああと頷いた。


「僕には()()()()()があって、そこに助けを求めている人がいたから……だからその、助けれる人を助けて回ってるんだ」


 ケイの言葉に最初アユムはキョトンとして、次第に意味を理解し、大笑いした。


「ギャハハハ!なんだそりゃ!自分で危ねえとか厳しいとか言いながらなんでそうなるんだよ!」


「笑わないでくれって言ったじゃないか!」


 真っ赤になって抗議するケイに対しアユムは笑い続ける、だがそれは嘲笑ではなく、アユムの中の琴線に触れたが故だった。

 覚えてこそいないがこんな馬鹿を自分はよく知ってる、そう思うと止められなかった。


 再びソッポを向いて耳まで真っ赤にしている羞恥に震えているケイにアユムは半笑いのまま頭を何度も下げる。


「悪い、悪かったって、でもまあ分かった、決めたぜ、俺も手伝ってやるよ」


 ケイは一瞬の間の後、アユムに向き直り、えっと間抜けな声を上げた。


「俺も人助け手伝ってやるってんだよ、助けて貰っといて危なっかしいテメーをほっとくほど薄情じゃねえっての」


 アユムは右手を差し出す。


「頼むぜ相棒」


 ケイはそんなアユムに対しにおずおずと手を伸ばし、それをアユムは焦ったいとばかりに力強く掴み無理矢理握手をした。


「うっし、それなら相互の能力の申告と作戦会議、あと装備の調達だな」


 いきなり仕切り出したアユムにケイは若干引き気味ではあったが、次第に二人の会議は白熱していく事になった。


――――――――――――――――――――――――――――――


「キャア――――――――!!」

 夜の闇に、少女の金切り声が響く。

 場所は住宅街、とある一軒家、二階の道路側の部屋。


『ザ、ザザーこちらケイ、急がなきゃ!』

 アユムの持つトランシーバに通信が入り、それに対しアユムは小声で返す。


「おう、こっちも準備できた5秒後玄関から突入しろ、場所は判ってんな20秒持たせる」

 アユムは、窓の下縁に指をかけ片手でぶら下がった姿勢で無線を切ると、一気に壁面を蹴り上がり今度は窓の上縁に指を掛ける。

 窓からは、足首を掴まれた少女と、今まさにベッドの下から這い出そうとしたブギーマンの姿が見えた。


「今度こそぶっ殺してやらァ!」


 そう叫ぶと同時に、窓を蹴破りブギーマンの顔面に飛び蹴りをかました。

 少女が再び悲鳴を上げ、姿勢を崩したブギーマンに引きずられるようにベッドから落ちそうになるがアユムが肩を掴みその場に押し止める。


「もうちょい我慢してな、今ヒーローが来るからよ」


 少女に言葉を掛けながらもアユムは腰から安全装置を外したネイルガンを引き抜き、未だ腰から下がベッドの下から脱していないブギーマンに対して、ひたすらに連射する。

 命中精度は散々だが、当たれば刺さり、貫通すれば、地面に縫い付ける。

 怪力と怪物特有の理不尽な挙動を持ってすれば、容易く対処ができる程度ではあるが――ドアが開け放たれ刀を持ったケイが突入して来る―――相棒の到着までを持たせるには十分だった。


「ごめん遅くなった!」


 謝罪をしながら迅速に抜刀、少女を掴む腕を切断し、ついでに未だ倒れているブギーマンの首を切る。


「遅くねえって間に合ってんだろ、おう、逃げるぞ、説明は後だ!」


 アユムは少女をケイに任せると殿を受け持ち分断された部位に対し、ひたすらにネイルガンを連射しながら今まさに開け放たれた扉へ駆け出してく。

 ブギーマンはどこからでも現れる、だが、少なくとも致命傷から動くのに再生は必要な怪物だというのは行動から判っている。

 そこからアユムはケイによってバラバラにされたブギーマンをひたすら壁や床に縫い付ける事を考案した。


 実際にその光景を見たケイは若干引いていたが、結果として一軒家の二階から玄関までの逃走を間に合わせる程度の効果を見せたのは確かだ。



 街路を走りながら最寄りのセーフゾーンに向け三人は駆け出す。


 アユムは隣を走る相棒にニッと笑いかけながら、軽口を叩く。

「あそこでごめんさえなけりゃ始めてにしちゃ良い連携じゃねえか?」


 ケイは少女の手を引きながら苦笑いで返す。

「癖になってるのかなぁ、でも、すごいやこんなスムーズに救出できたのは始めてだ」


 アユムはそうだろそうだろ、とバンバンとケイの背中を叩く。

 その思わぬ力強さにケイは顔をしかめながら、少女に声を掛ける。


「もう大丈夫、僕らが来たら絶対に助かるから」


 その笑顔は本当に漫画やアニメのヒーローみたいだと、アユムはケイをからかった。

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