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ナイトメアロストチャイルド  作者: おのこ
SS2:猟犬は獲物を逃さない
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猟犬は獲物を逃さない《クロスロード・ハウンズ》

 小鳥がさえずり、空は青く穏やかとすら言える日和、朝日の差し込む警察署の署長室。

 そこには二人の人間が居た。

 一人は全身火傷と包帯塗れの眼鏡で七三分けでスーツの男――ケンゴ

 椅子に座り眉間を揉む恰幅の良い男――署長


「では、今回起こった同時多発敵な悪魔崇拝者達(サタニスト)のテロ行為は君が誘引した訳ではなく、偶発的なものだと?」


「はい、いや、一因は担っているかもしれませんが、正直あちらの元々あった計画を早める要因でしかないでしょう。仕掛けるつもりが仕掛けられ酷い目に遭いました。してやられましたね」


 失態ですねこれはと笑うケンゴと、更に眉間の皺を深める署長。

 実際の所今回の襲撃事件は、悪魔崇拝者達(サタニスト)に潜り込んでいたアキナシの計画と、追い詰められた署内の内通者達の利害の一致、それと悪魔崇拝者達(サタニスト)自体がシマハラ事件を解決した手腕からケンゴを相当危険視していたという3つの要素が化学反応を起こした結果、彼等の肥大化した恐怖が過剰なテロ行為に繋がってしまったと予想される為、被害者とはいえケンゴのせいといえばケンゴのせいではある。


(まあ、アキナシが相当ボクの事を吹いて回ってたんだろうけど、そうでなくても署内のボクの評判最悪だしなあ)


 処刑人、鬼、悪魔、殺人鬼、人でなし、陰口に数限りなく、それに実例までセットで提供されるうえ、大体が事実なのでケンゴとしてはそれはどうしようもない。


「まあ、今回は君が被害者なのは認めよう、その傷で仕事は辛かろう、暫く休養を取れ」


「はい、謹んでお断りします」


「何…?」


 ケンゴは署長の提案に深く頭を下げ、即答、署長もまた口を引きつらせる。

 ケンゴが頭を上げると、滔々と理由を説明する。


「正直な所、今回のテロは不幸中の幸いでした。内通者と関わる少数の悪魔崇拝者(サタニスト)を一網打尽にする程度の予定でしたが、悪魔崇拝者(サタニスト)側が出してきた、非常に強力な【魔法使い】(メガロマニアックス)と彼が使用していた特殊な天使の堕落(エンゼルフォール)これは、今この街に迫る脅威に対し、大きな手がかりとなります」


 他にも確保した工作員、一部偽装書類の申請経路、などなどなどなど矢継ぎ早に告げられる言葉に、署長は天を仰ぐ。


「つまり、何が言いたい」


「これから面白くなるので、邪魔しないでください」


 署長は顔を真赤にして机を叩くとケンゴに叫んだ。


「勝手にしろ!!!!!」


「はい、ありがとうございます。署長」


 謝意と共に深々と頭を下げるケンゴに、署長は嫌悪感を隠そうともせず手で追い払うように退出を促す。

 だが、ケンゴはニコリと笑うと「あっそういえば」と署長室の奥へ――観葉植物――と歩みをすすめる。


「おい、何をするつもりだ……私の観葉植物に何をする気……」


「おっ、ありました内通者の盗聴器、これも使う人ももう居ないので取っておきましょう」


「何故!それを!!私に!!!黙っていた!!!!」


 本日一番の怒声が署長室に響いた。


 ――――――――――――――――――――――――――――――


「いやー今日も、署長ブチキレてましたね、どうやったらあんなにキレさせれるんです?」


 一応呼ばれる事も考え、署長室前で待機していたコウイチはケンゴに軽口を叩く。


「署長って仕事もストレスが多いんでしょ、仕方ない仕方ない」


 ケンゴはそれにヘラヘラと返答する。

 周囲の目が酷く怯えているが、コウイチはもう気にすることを止めていた。

 慣れたと言い換えてもいい。


 二人は歩みを進める。

 署内最奥の最も恐れられる部署へ


「そういや、ケンゴさん、署長から休暇もらえるって聞こえたんすけど俺は休んでいいっすよね?」


 その言葉にケンゴはニヤリと笑い、その扉を押し開く。


「はいはい、みんな元気かなぁ、昨日はお疲れ様、じゃあ、次のお仕事の話をしよう」


 ケンゴは両手を広げ事務所を見渡す。


 そこに居たのはあくせくと働いていた同僚達。

 だが、ケンゴの到着と言葉に、一斉に振り向きギラギラと目を光らせる。


 コウイチは、部屋から一歩後ずさった。


 彼等の脂ぎったと評される鈍い目の輝き、それが意味する事をコウイチはここ数日嫌というほど見てきた。


「あの、ちょっとお腹が」


 その肩をケンゴが掴み、前に押し出す。


「今回の件で、コウイチ君も実戦でかなり使えるって理解ったからねえ、みんなも見せてもらうといい、特に運転技術は課内で一番取れるよ」


「あ、あの、ちょっと、ケンゴさん」


 おろおろと狼狽えるコウイチを先輩たちがいつの間にか囲んでいた。


 スキンヘッドの先輩が目をギラつかせたまま笑う。

「ケンゴさんのお墨付きかぁ、そりゃあ期待できるなぁ」


 金髪の先輩もまた目をギラつかせたまま、楽しそうに語る。

「車での追跡は結構ウチの部署じゃネックっしたからねえ、いや夢広がるなあ~~~」


 先輩たちは和気あいあいと、コウイチをどう使い倒すかを話し始めている。


 ケンゴは笑いながらパンパンと手を叩く。


「はいみんな、そういうのも楽しいけどね、今はもっと楽しい話しをしよう」


 コウイチには理解っていた。

 これはまた、同じことが繰り返されるのだと。


 ケンゴは高らかに宣言した。


「今回は大物だ、絶対逃すわけにはいかない、やる気出していこうねえ?」


 ケンゴ(ボス)の言葉に、部下達は呼応する。



 ここは、刑事部捜査第五課――通称、マル魔――彼等は畏怖と嫌悪の感情と共に猟犬に例えられる。




『ナイトメアロストチャイルド 猟犬は獲物を逃さない』 (了)

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