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ナイトメアロストチャイルド  作者: おのこ
SS2:猟犬は獲物を逃さない
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鬼事《エイシンメトリカルゲーム》

 男達は陣形を組みながら暗闇の中を駆ける、相手がこちらを認識し攻撃を仕掛けてきているならば同じ場所に留まり続けるのは悪手。

 仲間が一人が殺された、だが、それは形勢の逆転を意味した訳ではない。


(数でも装備でも勝っている、発見さえすればこちらの勝ちだ)


 防弾ジャケットに突撃銃そして人数差、投げナイフという曲芸にこそしてやられたが、それは逆に言えば真っ当に戦う手段が無い故の苦し紛れだという事だ。

 裏口から侵入した部隊に連絡を付け包囲を急ぐ、当然、こちらの居場所を特定した手段も検討はつく。


(奴らは二手に分かれている、お互いに連絡を取りながら)


 観測手(スポッター)狙撃手(スナイパー)、問題は役割はどちらが担っているか。

 情報によれば一人は新人、戦闘経験を考えれば先程の人間離れしたナイフによる狙撃を行えるとは思えない。

 ならば観測手(スポッター)は新人、狙撃手(スナイパー)ケンゴ(ターゲット)という役割分担だろう。


 無論、新人であるという事が警戒を解く要素にはならない、観測手(スポッター)は警戒する男達に対し、暗視ゴーグルの有無という装備の不利があるにも関わらず、気づかれずに先に男達を発見した。

 少なくとも尋常な隠密(スニーキング)ではない、流石に一本道である入り口に置いた人員を突破できるとは思えないが、今もまだ見られている可能性を考えると足を止めるわけには行かない。


第五課(マル魔)か、気狂い共め)


 男は、懐にしまった切り札(エンゼルフォール)の事を考える。

 持たされてこそいるものの、雇い主達のような中毒患者になるのは御免だった。


(だが、いざとなれば躊躇すべきではない、問題は、それがいつかだ)


 男は警戒していた、だからこそ、その瞬間が訪れた時、一切の油断は存在していなかった。



 男達は幾つもの木製の棚で区切られたレーンを進む、横幅は2m弱、前後では10m程の空間。

 先を行く部下がクリアリングの為、頭を先に覗かせると同時に――背後の暗闇がその首を掴んだ。


「撃て」


 後方のクリアリングを行っていた部下に指示すると同時にその棚の裏の暗闇に潜む何者かに、突撃銃をフルオートで撃ち込む。


 木製の本棚が銃撃の度に砕け、崩壊していく。


 先頭に居た部下はその時には既に暗闇に引きずり込まれており、その射線上に居たが容赦はしない。

 撃つ度に血飛沫が舞い、部下の悲鳴が上がる。


(すまんが、死んでくれ)


 男は徹底していた、相手が姿を見せる前に確実に殺す為に、部下を犠牲にする事すら厭わない冷徹さを持っていた。


 だからこそ、それに対処が出来なかった。


「うわ、ひっでえなあ……」


 背後から気の抜けた声が聞こえると同時にゴキリと音がする。


 男は声も出さずに旋回し突撃銃を背後に差し向ける、が、飛んできた重量物が男を背後に押しやった。


(これは、後ろの!)


 男に絡みつくそれは、後ろで警戒をしていた部下、その全身からは力が失われており事切れている事が分かる。

 なんとか踏みとどまりそれを押しのけ、再度突撃銃を構えた時には、既に影は彼の右手首を掴んでいた。


「部下ごととか、人の心がないんすかアンタ?ちょっと引きますよ」


 暗視ゴーグルに映っていたのは、スーツ姿の没個性な新入社員然した若い優男、それと同時にカシャリと何かが落ちる音がする。


 それは男の手から滑り落ちた突撃銃だった。


 男は困惑した、何故コイツが背後に居たのか。

 何故、今自分は追い詰められ手首を折られて居るのか。

 だが、今は。


「貴様、!」


 残された左腕で腰のナイフを抜くと同時に振り抜く、スーツの優男は「ちょ、待っ」と大げさに仰け反る。

 取れた距離を活かしそのまま背後に下がり手に持ったナイフを投げ牽制、相手は更に下がり、今度は胸のホルスターに収められた拳銃を抜く余裕ができたが、その間に視線の先に居た敵は棚の向こうに消えた。


「ハァ…ハァ…ハァ……」


 荒息を吐き右手の激痛を堪えながら左手で拳銃を油断なく構え周囲を警戒する。

 その際、棚の向こうへ追いやられた部下が見える。その全身には自らが指示し撃ち込んだ無数の銃痕が残されており、防弾ジャケットも無意味な程にグチャグチャになっていた。

 そして、何より目についたのは首に掛かるように転がる黒い傘。


(ハメられた)


 男は歯噛みする。

 相手は男達が仲間ごとでも撃つ事を読み、先行する部下を囮に使った。


 乏しい武装で男達を倒す手段は限られている。

 それは最初に行った首等の数少ない急所への攻撃、もう一つは男達の武装を奪う事。

 影が先行する部下を引きずり込んだ瞬間、男はその両方が行われたと思っていた。

 つまり、首を掴み、へし折り、武装を奪う、だからこそその目的を達成させるわけには行かなかった。


 だが、実際は傘の持ち手で首をひっかけ、転ばせるという単純な方法で位置を誤認させ、銃撃の間に悠々と後ろに回り込み、背後の部下を強襲、今は男を手負いの状況まで追い込んでいる。


 壁に背を押し付けるようにし男は叫んだ。


「出てこいクソ野郎!ぶっ殺してやる!」


 なるべく冷静でないように聞こえるように、男は耳を澄ませながら、周囲を観察する。


(来い、来い、来い、一対一、手負いだが装備の差はまだこちらが優位、まだ、ま……)


 男の暗視ゴーグルにそれは映っていた。

 現在立つ木製の棚で区切られた10m程のレーン、その遥か向こう40m程先、放置されたワゴンを銃座に男達が使っていた筈の突撃銃を構えるスーツ姿の優男の姿が。


「クソが」


 三発のライフル弾が放たれ、そのうち二発が男の防弾装備を貫通した。

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