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ナイトメアロストチャイルド  作者: おのこ
SS2:猟犬は獲物を逃さない
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檻《リコネザンス・イン・フォース》

 巨大なガラス扉を漆黒の鋼の獣が砕き、月明かりの下から真の暗闇へと突き進む。

 それはたった一つで自らよりも遥かに巨躯である三つの敵を倒し、更に迫りくる四つの猛攻を紙一重で躱しながらここまで走り続けてきた。

 正に勇者と言っても過言でない働き、しかし既にその後ろ足を砕かれ、傷だらけの体は今正に力尽きようとしている。


「あー、ケンゴさん、ダメっす、もう動かないっす」


「いい車だったのになあ、もったいない」


 ケンゴとコウイチを乗せた漆黒の(セダン)はその言葉と同時に完全に静止し、その心臓(エンジン)を止めた。


「お疲れ様、でも、役目を果たしてくれた。コウイチ君も流石だねえ」


「あそこまで無茶させると愛着湧いちゃって、なんかスゲー悲しいっすね……」


 二人は車を降り、ケンゴは閉じていた片目を開くと周囲を見渡し、コウイチは悲哀に溢れた顔で傷だらけのセダンを眺めている。


 場所は、郊外の廃店舗、元はチェーンの電気店であり、フロアは1階部分のみだがそれなりの広さがある。

 流石に商品は撤収済みだが棚は残されており、隠れながらの行動は可能、ただし逃げ切れるかというと、厳しいだろう。


「窓の一つも無い暗闇での戦闘か、コウイチ君ちゃんと見える?」


「いや、見えねえっすよ吸血鬼でもないんすから」


「あっはっは、そこも、勉強だねえ、運転してたから仕方ないと思うけど」


 ここまで逃げてこれたのはコウイチの卓越した運転の技量と反応速度故だ、ケンゴがドライバーでは捕まるか殺さるかのどちらかだっただろう。


(市民の被害を考えれば、だけどさ、実際大したもんだ)


 ケンゴは内心でコウイチの事を褒めながら、耳を澄ませる。

 外に数台の車がやって来きて停止する、二人のように突っ込んでは来ないようだ。

 相手は追い詰めたと思っただろう、恐らく裏口も固めに動き、それから戦闘部隊が突入してくる。

 僅かだが、こちらの時間を作る事ができた。


 ケンゴは車両に残された全ての武装を引っ張り出し、未だ目の慣れないコウイチに手渡しいつもの笑顔で告げる。


「んじゃあ、コウイチ君、ハードモードの新人研修、始めて行こうか」


 暗闇の中でコウイチの口がへの字に曲がった。


――――――――――――――――――――――――――――――


 狩猟者達は暗闇の中を突き進んでいく。

 正面と裏口、それぞれの入口に各2名、突入は各4名2チームで挟み込むように動く。

 総勢12名の檻が徐々にその包囲を狭めていく

 装備は突撃銃、作業着に偽装した防弾ジャケット、暗視ゴーグル、そして切り札となるよう即効性を持たせた天使の堕落(エンゼルフォール)


 獲物(ターゲット)は新人1名を引き連れこの暗闇の中に閉じ込められている。

 別働隊が起こした市街地での事故により、主要経路は寸断、救援は1時間は足止め出来る見込み。


「時間はある、左右警戒、確実に仕留めるぞ」


 部下達が音もなく頷く。

 最初、男が依頼されたとき、馬鹿げた話だと思っていた。


 たった一人を殺す為の市街地へ工作の数々、湯水のように投入されている人員、そして彼等のような金で暗殺や施設の破壊を請け負う非合法のテロ屋の投入、装備もまた十二分と言っていい程提供された。

 彼等に知らされて居ない仕掛けもまだまだあるだろう。


 過剰、いや過剰過ぎると言っていい。

 最初計画を聞いた時は国の要人の暗殺かと思っていたが、実際はある街のただの刑事ひとり、経歴こそ非凡であれどそこまでやる相手かと笑い、提示額で更に笑った。

 当然、濡れ手に粟だと飛びついた。


(だが、蓋を開けてみればこれだ)


 出番すらないと、高をくくっていた所、罠を突破し郊外へ抜けたと追撃要請。

 手柄を上げればさらに毟る事ができると、喜び、最も近いチームを差し向けた。

 そして、男が部下達と合流を果たそうとした時には、車両三台の人員9名の損失。


 そして今、獲物(ターゲット)は生きてこの場に逃げ込む事に成功した。


「相手は二人、情報では我々の防弾を抜ける突撃銃は持ってないが、手榴弾があるそれに警戒し……」


 奇妙な不安からか男は部下に細かく指示を出していた。

 その中、背後からうめき声とドサリと倒れる音がする。

 咄嗟に振り向いた先に、首を押さえ動きを止めた部下が一人、そこに輝く鈍い刃。


「な、に……!?」


 男が次のそれに気づけたのは偶然だった。

 棚の遥か上を放物線を描いて三つの輝きが迫っている、男は叫んだ。


「全員散開しろ!」


 とっさに飛び退く彼等の中央に明確な殺意を持った死神の刃が突き立っていく。


――――――――――――――――――――――――――――――


「一人ヒット、残り三人はリーダーっぽいヤツが気づいて避けました。今はさっきより少しだけ散開しつつ前進、俺も少し移動します。というか何で当たるんすか?妖怪っすか?」


 コウイチは咽喉型インカムに喉を鳴らす程度の声で呟きながら、影のように音もなく暗闇を移動する。


『なるほどそういう手合ね、あとそりゃ、練習だよ練習、コウイチ君の運転と同じさ』


 コウイチはそんな訳ないだろと思いながらも「そっすか」と呟くに留めた。

 やっていること自体は単純だ、コウイチが隠れながら集団(ターゲット)を目視し、ざっくりと位置を連絡、位置が分かればケンゴがそちらへ耳を澄まし()()()()()()()()調()()し棚を避けるようナイフを山なりに投擲し、急所に当て暗殺する。


 言うは易しの典型だ、コウイチには足音で正確な位置の把握など当然出来ないし、目視できない場所へナイフを投げ針の穴を通すような精度で命中させるなどもってのほかだ。


(冗談じゃなくケンゴさんはマジで妖怪かもしれないな)


 そう考えるコウイチの、音も無い歩みもまた、一般人から見れば妖怪としか思えない技だとは本人は考えもしていない。


 なんにせよ、最低限の第一目標は果たした。

 作戦は次のフェーズに移ろうとしていた。

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