表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ナイトメアロストチャイルド  作者: おのこ
ミツキレポート:CASE2
38/53

ブギーマンの悪夢

 前文としてまず、このレポートを読んでいる人にお伝えしたい事がある。



 この記録は、僕こと高坂(コウサカ) 光来(ミツキ)が、先に起こった世間一般で呼称されるブギーマンの悪夢について、実際に僕が体験し調査した内容と協力者であるアユムや事件の関係者の情報を元に推測と主観を交え今後同様の事件が発生した際の参考にするべく書いた、いわば僕の為の備忘録である。


 その為、実際に報道された事実や、本当に起こった事実とは差異が生じる可能性がある。

 と、言うよりも僕自身が体験できたことが少ない事や、悪夢という【魔法】自体の環境の特殊性、伝聞による情報の不確かさ、因果関係の複雑さから全容を把握することが非常に難しい事から正確さを追求することが難しいのが現状だ。


 何度目になるかもわからないが、文句を言うなと言いたい。それだけだ。


 そういった訳で、毎度の事ながらこのレポートが必要とされ日の目を見ることがないことを切に願いつつ、前文を締めさせて頂く。



 最初に、ブギーマンの悪夢とよばれる【魔法】自体に関してまとめさせて頂く。

 長い説明になるが、ご容赦頂きたい。


 ブギーマンの悪夢は、おそらく篠原 敬(シノハラ ケイ)と呼ばれる青年が、天使の堕落(エンゼルフォール)の服用によって自らの心の内側に産み出した自殺の為の【魔法】である。


 ことの発端としては、彼の複雑な家庭環境の遍歴があり、その詳細については割愛させて頂くが、その過程で、彼の腹違いの弟である、篠原 真(シノハラ マコト)(旧姓:倉本 真(クラモト マコト))の死を誤認[※1]、その死の原因が自身にあると思いつめた事が原因だ。


 ※注記1:犯罪者である悪魔崇拝者達(サタニスト)の情報は報道関係に公開されることが多いが、その被害者の情報は原則非公開だ。何故なら精神的・肉体的に追い詰められた子供は抗う赤子達スクリーミングベイビィとなる可能性が高い上に、悪魔崇拝者達(サタニスト)の内部情報を知っている可能性が高い。そのため彼等を再度狙う悪魔崇拝者達(サタニスト)や犯罪組織が多く、光輪会のような特殊な児童養護施設が必要となり、直接的な家族関係に無い限り生死に関して連絡すら行かないことが多い。



 強い自責の念に駆られた彼は不眠症に陥り、夜の街を徘徊しその過程で故意か事故かは不明だが、天使の堕落(エンゼルフォール)を服用、元々持っていた感情を薬物により拡張され、自らの死による贖罪という手段に逃避した。


 ただ、彼が求めていたのは自殺による思考の開放ではなく、より苦痛を齎す断罪者の存在だった。それが、彼の心の中にブギーマンという架空の処刑人を作り出し、自らの夢の中でその処刑人に殺される事を何よりも望んだ。[※2]

 夢の中で殺されるという【魔法】が発現したのは当時の不眠症の症状と深く結びついたものだろう、【魔法】は精神疾患であり、他の症状と合併することでその性質を大きく変える事についての詳細は各種論文を御覧いただきたい、いちいち書くのがめんどくさいので自分で調べて欲しい。


 ※注記2:魔法使い(メガロマニアックス)の死因に関し、統計的な資料(数年前のものだが)によれば自らの【魔法】による自爆が1位だ、そして2位が自らの【魔法】による自殺、往々にしてそれらの二つは加減を知らず、周囲に甚大な被害を及ぼす事を考えると、彼の【魔法】自体は非常に内向的で慎ましやかなものだったと言えるだろう。


 実際の所、彼の二番目の母親である倉本 梨花(クラモト リカ)が離婚した際、あてつけのようにマコトを引き取り、彼の父の会社を退職後、先の夏に起こったシマハラ事件[※3]の首謀者であるシマハラに心酔しマコトを生贄に差し出したという経緯があり、彼のせいではないと思うのだが、責任感がありすぎるのも問題だ。


 ※注記3:該当事件に関しての詳細は、レポート《シマハラ事件》を参照して頂きたい。


 これらの事より、彼の【魔法】である【悪夢】自体は他者にとって害となるものではなかった事が分かる。


 しかしこれを一変させたのが、彼の弟である篠原 真(シノハラ マコト)の【魔法】だ。


 マコトは両親の離婚後母方に引き取られる事になったが、その後の家庭環境は良くなかったようだ。

 彼の母であった倉本 梨花(クラモト リカ)は賢い女性だった、児童相談所等に相談の連絡が行くことこそ無かったが、光輪会での生活や、定期的なメンタル診断では精神的な虐待が行われていた事が分かっており。おそらく、巧妙にそれらの行いを隠していた。


 マコトがケイに対し定期的に送っていた手紙も、マコト自身が母に隠れて出していたものだったと分かっている。便箋や筆記用具等は、彼の住んでいた自宅ではなく当時通っていた小学校の机に隠されていた。


 母親に生贄に差し出されたマコトは、当然悪魔崇拝者達(サタニスト)達から血液の採取の為拷問を受ける事になった。


 どのような拷問が行われていたかは、僕の閲覧出来る情報では無い為、ここに残す事はないが、この時点で既に母に見切りを付けていたマコトは、腹違いの兄であるケイが助けてくれると信じ、その拷問を耐えた。

 このような心理状態自体は珍しくないが、マコトの驚くべき点は、兄を信じ続け、その結果見えた幻覚に心を救われ続けていた点だ。


 マコトの心の中で肥大化する兄への信頼はこの時点で【魔法】へと昇華し、そこに居なくても彼を守ったスーパーヒーローと化している。


 その後マコトは光輪会に引き取られ、一見普通の少年として扱われていたが兄への絶対的な信頼は、その言動や行動からも見て取れた。


 こうしてこの事件には、二つの魔法が揃った。


 兄は、自らを救いがたい罪人だと捉え、悪夢に断罪者を作り上げる【魔法】を産み出した。

 弟は、兄を絶対的なヒーローだと捉え、不可能を可能にし全てを救う正義とする【魔法】を産み出した。


 相反する認識の【魔法】は当然のように齟齬を産み、悪夢という舞台で、自ら断罪を望みながらヒーローのように断罪者と戦うちぐはぐな存在を作り上げた。


 この時点で二人はお互いを認識すらしていない。

 兄は上手く行かない断罪者を日々強くし、弟はどんな敵にすら負けないと思い込む。

 二つの【魔法】の螺旋は徐々に拡大し、その思念は、水面下で広がるブギーマンの噂と、そのブギーマンの断罪を恐れる自責の念を持つ者達を巻き込み始め、その繰り返しが雪だるま式に肥大化し、最終的なブギーマンの悪夢と呼ばれる巨大な【魔法】を産み出した。


 次に、悪夢の中でのアユムの役割についてまとめさせて頂く。


 これに関しては、憶測がかなり多い上に、かなり感情面の問題が大きい為正確性は低いのはご了承頂きたい。


 アユムは光輪会の中でシマハラ事件以降、事件被害者の子供に最も多く接してきた年長者、と言っても過言ではない。

 当の本人も言っていたが『事件を解決したがその過程で産んだ犠牲には向き合う義務がある』などとカッコつけた理由で、なにかと彼等に声を掛け手伝って回るようにしてた。


 これは事件の後日、実際にケイを見たリーベが珍しく言及していた事だが、彼とアユムはかなり似通った所があるらしい[※4]


 ※注記4:リーベは口数が少なすぎる為、察する事でしか判断が難しいが、表面的な性格というよりも、根本的なメンタリティの事を指していたのだろう。たぶん、おそらく。


 マコトも恐らくそういったメンタリティを世話を焼くアユムから感じ取り、兄と重ねていたのだろう(無論兄の方が上だろうが)、それ故に兄が困っていたらアユムが手伝ってくれたらいいと、アユムに対して感じ、それがアユムを強制的に【悪夢】へと誘った。[※5]


 ※注記5:この事象から分かる通り、マコトの兄への信頼は兄の絶対性のみならず、兄ほどの人が困っているなら絶対に誰かが助けてくれるだろうという、性格面への信頼も含まれている。個人を対象にした【魔法】ではあるが、それ故に非常に強力で何が起こるかわからない。


 その結果、アユムは【悪夢】の中でケイと出会い、相棒として四日間を戦う事になり、悪夢を打ち砕く原動力になった。

 そう結論付けたいのだが、僕の予想では、【悪夢】があそこまで拡大したのはおそらくアユムのせいだ。


 一つ、余り認めたくないのだが、アユムはアホだが狩りに関しては天才だ、発想やたゆまぬ努力、情報収集に余念がなく準備も怠らず、とっさの判断や身体能力も鍛え上げている。むしろそれしかしていないからアホなのだが、そんな人間を自分の無力に絶望し死にたいと思いながら他人を助けている人間の前に出したらどうなるか、想像してみて欲しい。


 結果として、ケイの肥大化した自己嫌悪と無力感は急速に【悪夢】を肥大化させた。

 それこそ、今すぐに自らを消し去りたいと思う程に力を求めた結果、その【魔法】は現実の世界にまで広がっていった。現実に現れたブギーマンに関しては別途後述させて頂く。


 最終的にはリーベの助けを借り、【悪夢】の中で記憶を無理やり取り戻し、僕自身もまた昏睡状態からの覚醒を果たす事で間に合わす事ができたが、本当にギリギリだった。

 正直な所、時間がなかった分、作戦があまりにも行きあたりばったりでよく上手く行ったなというのが感想だ。


 というか目覚めて出てみたら、二人してノーザンライツタワー登ってるし、上みたらデカイ月みたいのがあって、うわアレが結束点かよってなったときはもう何だこれで、どうにでもなれとしか言いようがなかった、本当にケイが斬れてよかったなアレ、撃ってみたけど全然壊せる気しなかったし。


 閑話休題


 結論を言えば、僕等を苦しめた夢の中であるという点が、最終的に不可能を可能にできた要因の一つであると言えよう、【魔法】の事象を阻害する物理法則の観測者数も、外部と断絶された世界とも言える悪夢の虜囚の人数たるや世界人口に比べれば微々たるものだし、あの時点で悪夢の中で正気を保っていたのは、僕とアユムとケイの3人だけ、そもそも夢の中であるという点を考えれば、月が斬れてもおかしくはない。おかしくはないが、本当に斬れて良かった。


 次に、現実に現れたブギーマンについて考察したい。


 空想の怪物が現実のものとなり現れるという事象は、おおよそ2種が確認されている。[※6]

 1つ目は、妖精郷(ティルナノーグ)、空想の怪物が独立した存在として【魔法】の所有者の認識出来る範囲(この場合は五感に限らず良く見知った空間を指す)に現れるもの。

 2つ目は、化身(アバター)と呼ばれるもので、こちらは自らの分身とも取れる存在を自らの五感の認識の範囲で操れるものを指す。


 ※注記6:実際には更に細かく派生するのだが、大枠でこの2つを例に上げさせてもらった。【魔法】は人の数だけあり本当の意味で同一の【魔法】など存在しない、上記の説明も専門家に言わせれば全然違うかもしれないけど僕が今説明できるのはこの程度だ。


 ブギーマンは前者のものが該当するのだが、この際の【魔法】の所有者というものが厄介な部分だった。


 今回の【悪夢】の特記すべき特徴として、取り込まれる【悪夢】の該当者にケイの持つ本体の【悪夢】のデッドコピーと呼べるものを転写していたという点がある。

 各個人が持つ共通のブギーマンという認識と、罪の意識をベースに魔法使い(メガロマニアックス)を量産、世界認識にかかる脳の負荷を各個人に分散する【魔法】のクラウドシステムという事だ。

 個々人の【魔法】は一人で【悪夢】を産み出す程ではなくとも、夢の中で他者と接続することでケイ本人の持つオリジナルの【悪夢】に匹敵する事象を可能としていた、と僕は見ている。

 またブギーマンに喰われ、昏睡状態となった者は、自身の意志を喪失しその脳のリソースを悪夢の世界の維持に費やすこととなり、大量の昏睡者というリソースを獲得した【悪夢】は接続された起きている人間が認識する世界にすら滲み出すようになった。というのが、僕の推論だ。


 最終的にケイの思考を離れ暴走した【悪夢】は完全に、妖精郷(ティルナノーグ)の認識領域を現実に確立し、抵抗する夢の中の意識体を越え眠りについている本体を喰らおうとしており、物理法則の崩壊まで本当にあと一歩の所だった。[※7]


 ※注記7:あの時点でブギーマンの悪夢全体の運営という点で言えば、ケイの重要性はほぼ皆無であり、彼が死んでいたとしても悪夢の拡大は続いていただろう。彼が最後の夜まで生存しオリジナルの【悪夢】の所有者として強い権限をもちブギーマンの悪夢を終わらせるキーマンとなれた事は幸運だった。



 最後に今後の、マコトとケイについて書こうと思う。


 マコトに関しては、未だ【魔法】を持ち続けており、それはケイに力を与え続けている。

 間違いなく危なっかしいが、あくまで社会を知らない子供の願望だ、彼の父はしっかりしているし、ケイ自体も善人であるからにして、今後社会常識を知る過程で【魔法】は常識的な範疇の信頼へ変わっていくだろう。


 問題はケイだ、彼は既に前述した【悪夢】を持ち続ける根源となる思想を失い、既に魔法使い(メガロマニアックス)ではない、と僕は認識していたが、別の情報源から奇妙な噂を耳にした。

 なんと、ブギーマンを名乗り、夜な夜な悪人を狩る者が現れているという噂だ。

 その上、その犠牲者は、自分の過去の行いが只管自分を苛む精神疾患に陥るらしい。


 知らない内に彼は別の魔法使い(メガロマニアックス)となり、その上、僕等の真似をしているようだ。


 これに関しては事実しか書けず推察もしようがないが、彼にも思う所があり行動しているのだろう、僕等に止める権利はないし、聞く限りそう悪い噂ではない、機会があれば彼の方から真相は話してくれるだろう、多分。


 長々と書いてきたが、特殊な環境で特殊な【魔法】が絡み合った奇っ怪な事件だったことは間違いない、だが、その根本はあくまで家庭環境の不和と彼等の関係性がきっかけでしかなく、何者かの悪意が介在した結果ではないという点は記しておきたい。


 結局の所、彼等が今後、幸福な家庭を築けるかどうかが全てだ。

 彼等の未来に幸あらん事を願いつつ、レポートを終わりたいと思う。


 PS:

 先日確認を取った所、僕の情報源として利用していたバーが潰されていた。

 情報によるとブギーマンにやられたらしい。


 ちまちま貰った天使の堕落(エンゼルフォール)を捌く程度の店の割りに人が集まる場所だったので泳がせていたのだが、なんかこう、複雑な気持ちだ。

 別段、悪人には違いないので酷い目に遭ったならせいせいするが、彼から見れば許せないものを僕は放置していたわけで、若干の罪悪感を感じなくもない。


 まあ、それよりも今は新しい情報源を探すのが直近の課題だ、テストも近いのに忙しい事この上ない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ