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ナイトメアロストチャイルド  作者: おのこ
君に大丈夫だって言えるように
35/53

門出《ホームカミング》

「では、お手数をおかけしました」


「いいえ~、こちらこそ、手のかからない子でしたので、おほほほ」


 よく晴れた空の下、光輪会の玄関で、園長(ゴリラ)とビジネスマンらしいスーツの壮年男性が頭を下げあっている。

 その傍らに一人の青年が立ち、更にその手をつなぎニコニコ笑っているのは、マコト。


「アユムくん、またねー!」


「おう、いつでも遊びに来ていいからな!」


 今日はマコトが一般の家庭に養子として引き取られる日だ、光輪会はその集められた子供達の性質もあり引き取り手の審査が厳しくこういった光景は珍しい、尤も、今回はそんな心配は一切なかったが。


「アユム君」


 マコトと手を繋ぐ青年が、アユムに親しげに笑いかける。

 見慣れたムカつく程に好青年な笑みにアユムは悪い笑顔を浮かべる。


「んだ、ケイ、呼び捨てでいいんだぜ?最後はそうだったじゃねえか、んで今更"君"付けだ?」


 それを、受けケイは少し、狼狽え、顔を赤くしながら答える。


「あ、アユム、いや、ちょっとこういうの慣れて無くて……いや違くてさ」


 背後でリュウコが小声で「あざといな」と呟く、アユムも内心同意した。


「色々助けられたから、なんか困ったことがあったら言って欲しい、どんな時でも駆けつけるからさ」


 その言葉に、アユムは、ハァとため息を付き、ズカズカと近づき、肘で小突いた。


「バーカ、友達なら当然だろそんなん、テメーも溜め込むタイプみてえだからな、すぐ言えよ」


 友達という言葉にケイはパッと明るくなった。

 社交的に見えたが、そうでもないのかもしれないとアユムは思った。


「じゃ、じゃあ……連絡先とか」


「アユムくんね、でんわもってないんだー」


 ウキウキしながらスマホを取り出していたケイは、傍らのマコトのインターセプトに硬直する。


「んなもん無くても、光輪会遊びに来いよ、マコト一人じゃ危ねえんだからテメーも必要だろ」


 その言葉に、萎みかけていたケイは、そっか、そうだね!と気を取り直す。


(なんかコイツ、夢の中よりずっと浮き沈み激しいっていうか面白いじられタイプだな)


 というより、夢の中ではずっと気を張っていたのだろう、恐らくこれが本来の姿。


 話している間に園長とケイの父のやり取りが終わった。

 これで晴れて、二人は、篠原 敬(シノハラ ケイ)篠原 真(シノハラ マコト)だ。

 血の繋がりというだけではない、戸籍上も彼等は正式に家族になる。


 事実だけ言えば、書類なりデータなりが役所に登録される程度で人間が変わるわけでない。

 だが彼等にとって今までのそれは呪いのように、人生を狂わせてきた。

 それが幸福の下に受け入れられ、社会に対し正式に認められるという事は祝福すべき事だ。


 家族の正しい関係とは何か、そこに正解は無いだろうが、少なくとも共に幸福に生きようとする者達が共にあること、それだけは間違い無いだろう。

 ケイの父が二人に声をかけ、マコトを彼の持ち物であろう高級そうなセダンに案内しはじめた。


 アユムはその背に声をかける。


「じゃあ、ケイ、マコト、またな!」


 二人は振り返り異口同音に言った。


「「またね」」


 三人は、声を上げて笑った。


――――――――――――――――――――――――――――――


 マコトを見送った後、アユムが部屋に帰ると、ミツキがパソコンの前でキーボードを叩いていた。


「またぞろ、なんか纏めてんのか、マメだな」


「いや、今回殆ど夢の中の出来事理解ってないから、アユムも手伝ってよ、マジで」


 ミツキは不機嫌そうにそう言うのでアユムは嫌味を返す。


「マコトの見送りにも来ねえで根暗な野郎だなぁ」


 それに対し、ミツキは無言で、デスクチェアを回してアユムの方を向いた。


「一応言っておくけどね、マコトの【魔法】はまだ残ってるし、ケイさんの方も【悪夢】は消えたみたいだけどなんか怪しいんだよ」


 それに対し、アユムは腕を組んで考えた。


 確かに、マコトの【魔法】である、お兄ちゃん超すごい(フィジカルブースト)は今の所消える要素がない、マコトが成長し兄と社会の現実を知れば消えるかもしれないし、むしろパワーアップするかもしれない、確率としては99%前者だが未来は分からない。


 一方、ケイの【悪夢】に関しては、悪夢の根拠であったマコトの死と恨まれているだろうという罪悪感が消え、誇大妄想狂(メガロマニアックス)になる根拠が無い。


「まあマコトは分かるけどよ、ケイが?よくわかんねえなそれは」


 その言葉に、ミツキはため息をつく。


「よくわかんねえ、か、いやアユムがそう言うなら僕も実は分からないって事になるんだけど、ケンゴさんがね」


 アユムは首をかしげる。


「ケンゴさんが?怪しがってるってか?いやいや、そりゃあ、まぁその道のプロだしな、俺達には分かんねえ嗅覚があるから否定もしにくいな」


 二人で腕を組んでうんうんと唸る。

 悩み会話が止まる、こういう時に口を開くのはいつもミツキだ。


「なんにしても、怪しい事には変わりない、今は今の情報を鮮明に記録して未来に備える時だよ、いざという時にも()()()()()()()じゃ、ダサ過ぎでしょ」


 アユムは頭を掻く。


「まぁなぁ、仕方ねえ休日潰す気でやっかぁ」


 二人であーでもないこうでもないと、情報の共有を始め、ミツキが只管タイピングを続ける。

 夕食時に、ミツキがマコトの門出に参列しなかった事をリュウコに絞められたのは必要経費だろう。

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