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ナイトメアロストチャイルド  作者: おのこ
君に大丈夫だって言えるように
3/53

噂話《オールドファッション》

 ()()()()()


 ()()()()スコットランドが発祥と言われ、世界各地に名を変え姿を変え同様の伝承が残る、民間伝承の怪物もしくは幽霊の類だ。


 曰く、悪い事をした子供の前に現れる。

 曰く、寝ているベッドの下から現れ子供を攫う。

 曰く、夜になると窓を引っ掻く。

 曰く、夜ふかしをする子供を食べる。

 曰く、男だ。

 曰く、女だ。

 曰く、曰く、曰く曰く。


 様々な逸話があるが、言われや発祥などそれこそ何の意味もない、子供が暗がりに見出す恐怖の妄想、若しくは、大人が子供をしつける為に産み出した都合の良い怪物。


『コラ、悪いことをすると、ブギーマンが来て食べられてしまうよ』


 その名もまた、見るもの、語るものによって違うだろう。

 本来名も無き原始的な恐怖の中にのみ現れる怪物、それの最も普遍的な呼び名。

 言わば古い古い都市伝説のひとつ。


 などという一般論の話ならば、アユムもへぇとしか言うことは無い、だが。


「最近噂になってて、夢に出るんだって、その、ブギーマンが」


「はぁ?出る?夢に?」


 思わずアユムは素になって、聞き返す。

 ははは、そりゃ良かったね、と答えない程度には引き込まれる、意外と博識かつ語り上手なミナの説明のオチに困惑していたのだ。


 ミナはそんなアユムの反応を見て苦笑いしながら続ける。


「うん、結構いろんな子が同じ夢を見てるみたくて、現実みたいな夢の中で顔の無い大男に夜明けまで追いかけ回されて、捕まると目覚めなくなっちゃうんだって」


 アユムは首を傾げた。


「いやよ、捕まると目覚めなくなるって、なんで分かんだよ、仮にその夢を見てるとしてそんな話するなら逃げ切ってるんだろ?」


 ミナもその質問はわかっていたのか、ため息まじりで答える。


「夢を見たなら分かるんだって、そういったルールとか、ブギーマンって名前とかも、私もこの話を聞いたときは流行り怪談か何かかと思ったんだけど……」


 ミナは言葉を止め、息を吐き、言う。


「この夢の話を私にしてくれた隣のクラスの子が、実際に今週から学校に来てなくて、色々と確認を取ったけど、昏睡状態なんだって、土曜日から」


 その言葉に、アユムは考え込む。

 夢に現れる怪物、何故か分かるルール、名前、そして理不尽な結末。


「そりゃあ」


 予感の一つを口にするよりも早く、ミナがそれを断言する。


「【魔法】じゃないかなぁって思って、相談したの、アユムくんなら何か知ってるかもって、でも」


 アユムは肩をすくめる。

「俺も【魔法使い】(メガロマニアックス)が関わっているってのは同感だけどよ、悪いけど見ての通り初耳だぜ」


「だよね、アユムくんわかり易すぎるし、本当に何も知らないか……」


「悪りいな知らなくて……」


「わ、悪いだなんてそんな!私も誰かに相談したかったし!聞いてくれてありがとう!リーベちゃんも長話聞いてくれてありがとね!」


 アユムは、その言葉でリーベの存在を思い出し振り返ると、しゃがみ込んで花壇を眺めていた。


「まぁリーベには長すぎる話だったのは確かだな……ブギーマン、俺もちっと調べてみるぜ」

 アユムに名前を呼ばれ、リーベがくりっと空のような青い目をアユムに向け首を傾げた。


「うん、そうしてくれると助かるかも、私も何かあればすぐ伝えるから!」

 ぶんぶんと手を振ってミナは元気にそう言った。


 それと同時に昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り、三人は慌てて教室に向かって駆け出した。

 揃って教室に戻ってきたアユムに対し、再び好奇の目が集まったのは言うまでもない。


――――――――――――――――――――――――――――――


「って話でよ」


「って、なんだよそれ、初耳なんだけど」


 光輪会の大浴場で、アユムはミツキに昼間の話をした。

 かなりかいつまんだ説明だったが、要点は話したとアユムは自負している。


「そりゃあな、友達繋がりの口コミで広がってる噂話みてえだし、ミツキ、学校に友達居ねえじゃん、仕方ねえだろ」


「喧嘩売ってる?」


 事実として、ミツキとアユムは持っている肉体のハンデの違いもあり、別の学級であり、同じ学校内でありながら、交友関係に大きな壁がある。

 その上ミツキが他人に心を開く事は殆ど無い、それ故の()()()()ではあったが、あんまり過ぎる言い方だった。


「悪い悪い、でもなんだろうな、警察の次くらいに【魔法使い】(メガロマニアックス)を追ってると思ってたんだが、まさかクラスメイトが先に知ってるとはなぁ」


「僕ら、ケンゴさん情報とか足で調べてるからね、口コミとかそこら辺は穴があるのは確かだよ」

 ミツキは浴槽の縁にもたれ掛かるように考え込み、続けた。


「アユムのかいつまんだ話を聞く限りでも、ミナさんは自発的に情報を集めて整理までしてるみたいだし、どうせ狩りのこと知られているならそっち方面の情報源として期待しても良いかも知れない、アユム、連絡先とか交換してもらってくれない?」


「れ"、連絡、先?」


「無理か……」


 ミツキはアユムの反応と今までの経験から、早々に見切りをつけ立ち上がった。


「先に上るよ」


 ミツキは大浴場のすりガラスの引き戸に手を掛けながら、背後から「やってやろうじゃねえか!」と叫ぶ声を聞き流す事にした。

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