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ナイトメアロストチャイルド  作者: おのこ
君に大丈夫だって言えるように
29/53

ルール5《ザ・ムーン・イズ・オールウェイズ・ゼア》

 「ほーんと、お邪魔ねえッッ!」


 暗闇の中、園長が影の巨漢の頭部を鷲掴みにし、振り回しながら目配せをすると、ケンゴが部屋の窓を開けた。

 

 「どっせい!」


 開放と同時に頭部を握りつぶしながら窓の外へ胴体を投げ捨てる。

 それを見ながら、ケンゴがトランシーバに声をかける。


「はいはい、んじゃ投光器お願いねー」


 外に放り出されたブギーマンは、光輪会の外に配置された車両からの強烈な光に照らされ再生もままならず悶え苦しむ。


「正直これくらいなら【魔法】使い一人の方がずっと危ないけど、実質不死身ってのがやっかいだねえ、おっ、電気戻った」


 パチリと部屋の電灯が付き、ドアを蹴破るようにリュウコが部屋に戻ってくる。


「ブレーカー上げてきたぜ、っていうかコイツらなんなんだよ」


 そう言って引きずってきた実体化した影を地面に放り投げる。

 その影は全身をグチャグチャに潰され、かろうじて元が人形だと分かる程度だ。

 それが灯りの下、ぐねぐねと動き続けている。


「これが、アユム君がずっと悪夢の中で戦ってきた相手の、多分弱いバージョンだねえ」


 妖精郷(ティルナノーグ)は力をつけるには大分時間かかるみたいだからねえ、とケンゴはケラケラ嗤う。


「正直、あーしらならなんとか出来るけど、他のご家庭だと無理じゃないかしら?」


 園長は、ため息をつき、それをケンゴが肩をすくめ訂正する。


「いやぁ園長から、油断一杯な発言頂いたところ恐縮だけど、これが毎晩、どこにでもってなると園長とリュウコちゃんでも厳しいんじゃないかなあ」


 はぁ、とリュウコもため息をつく。


「んじゃ、どうすりゃいいんだよアタシ等はよ」


 その目に、ケンゴはニマニマと笑みを浮かべながら返答した。


「どうもこうも、最初言った通り、アユム君達の頑張りを信じて今晩を頑張るだけだよ」


 そう言って、視線をアユムの隣のもう一つのベッドに向ける。

 そこに眠る、ミツキ、そしてそれに対して、失われた右腕を向けるリーベ。


「多分、上手く行ってると信じて頑張ろうよ、弟分達の応援、リュウコちゃん得意でしょ?」


 リュウコはうるせえと言いながらケンゴの腹に拳を突き出した。


――――――――――――――――――――――――――――――


 跳ぶ、跳ぶ、跳ぶ

 月下の影の海に、浮島のように点在する家屋の上をケイとアユムは跳び続ける。

 アユムは【魔法】による跳躍で、ケイはマコトの【魔法】によって強化されたデタラメな身体能力で。


 月を破壊するという荒唐無稽な結論、それを果たす方法はこの街にはない。

 だがそれは現実の話だ、そう、ここは夢だ、夢ならばもしかするかもしれないと二人はある場所に向かっている。


 アユムはそれを睨み付ける、摩天楼、その中でも最も高く、摩天楼の王とも言える建築物。

 そしてその場所への因縁はアユムにとっても、ケイにとっても悍ましさと共に心に刻まれている。


 この夏に行われた決戦の場所であり、最も邪悪な儀式が行われたとこの街の誰もが知っている場所。


 ノーザンライツタワー


 空に浮かぶ満月は、思えばいつもその上にあった。

 

「ケイ、段取りは理解ってんな」


「ああ、アユム、やろう」


 二人の目に迷いはない、不確かな情報、ただの思いつき、それでも可能性があるならば、ヒーロー達は諦めない。


――――――――――――――――――――――――――――――


 一面の黒の中で少年は目覚めた。


「………まぁ、そう上手くは行かないか」


 少年の目は包帯で隠され、右手に持つ白い杖はその視覚が失われていることを示していた。

 だが、少年はそれをすぐさまに放り投げ、腰を探る。


「【魔法】は使える、それで、武装は、多分僕が普段一番良く持っているものが反映されている、夢らしいじゃないか」


 その手には拳銃、ナイフ、そしてトランシーバ。

 少年は、眠気覚ましに思考を口にしながら状況を確認する。


「僕の名前は、ミツキ、アユムの相棒で、ブギーマンに負けて昏睡状態になった。よし覚えているね」


 ミツキが用意していた策、リーベの【魔法】によるアユムの記憶の持ち込み。

 もう一つはブギーマンに捕食され昏睡状態になった者の【魔法】での現実への強制覚醒。

 前者はミツキにとっては上手く行ってくれないと困るものだったが、後者は上手く行けばいいという程度のものだった。

 結果として、ミツキは中途半端に悪夢の中に囚われたまま覚醒した。


 少年(ミツキ)の【魔法】は周囲を見渡し、見えたものに顔を顰めている。


 周囲の空間はただの黒としか表現できない空間、ミツキはまずブギーマンに喰われた者の導かれる場所、他の犠牲者と同じ場所に導かれる可能性を考えていた。

 上手く行けば、そこの人達を導いて夜明けを目指すという作戦を当初は計画していた、のだが。

 

 だが、ここには誰も居ない、気配のようなものすら【魔法】は知覚できない。


「どういう事だ…?力を集める為に昏睡者を増やしたなら意識は一箇所に集中させる筈……」


 しばらくミツキはうんうんと唸った後、ん?と声を上げた。


「あーいや、待て、そもそも、僕は……」


 ミツキは、その疑念を確信に変える為に、思いつきを試す。


 そして、それは()()()()()()()()()()

 ミツキは腹を抱えて笑った。


「なんだ、なんだこれ、バグってるじゃん、はははははは!なら……」


 ミツキは嬉々として準備を始める。


「悪いもの食ったら、死ぬほど後悔するって怪物にだって知ってもらわなきゃねぇ」


 その笑みは復讐への愉悦に邪悪に歪んでいた。

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