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ナイトメアロストチャイルド  作者: おのこ
君に大丈夫だって言えるように
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解答《アイキャンドゥイット・フォー・ミー》

 二人の間には言葉もなく、月夜の闇を火柱を上げる民家の炎だけが照らしている。

 アユムはただ待った。


 目の前に居るのはこの悪夢を作った青年、だが、この悪夢の原因は彼ではない。

 彼が背負った自らの生を否定する程の経験、社会、その中にはアユムが救いを願うマコトの存在もあるだろう。

 虫のいい話だと自覚しながら、アユムはただケイを責め立て追い詰める事をした。


(俺は酷えヤツだ、でもよ)


 他者に直接作用する【魔法】はその事象の発現に至るまでに大きな壁がある。

 それは普通であれば【魔法】を及ぼされる側の無意識の自己認識(エス)が、【魔法】を及ぼす側の認識と想像力を遥かに上回るからだ。


 確かにアユムはそういった常識を覆し、他者に直接作用する【魔法】を扱うリーベやシマハラのような規格外の存在も居ることを知っている。

 逆に言えば無条件にそのような現象を起こす【魔法】など、アユムの認識ではたった二人しか居ない規格外の存在、真の誇大妄想狂(ウィザード)並の存在でしか成り立たないものなのだ。


 だからこそ並の魔法使い(メガロマニアックス)が扱う【魔法】であれば、【魔法】を行使される側に心理的にそれを受け入れる下地が必要だ、この【悪夢】であればブギーマンの噂の認知と当人が持つ罪悪感がその下地に当たる。


 マコトの扱うそれもまた他者(ケイ)に直接的に作用する【魔法】だ。

 純粋に自分の兄が凄いと信じ、ヒーローとして認識する無邪気な【魔法】。


 アユムは最初にケイに出会った時、まるで物語の主人公みたいなヤツだと思った。

 ならば、


(ケイ、テメーは死を望みながら、それでもマコトの【魔法】を無意識に受け入れてたんじゃねえのか?)


 無意識の自己認識(エス)を越え、ある他者の【魔法】(願い)を叶えようとしている。

 それは、紛れもなく、双方向の()()()そのものだ。


 それに気付けず、失う事は、ケイにとって良い筈がない。


「アユム君」


 ケイは、胸ぐらを掴んでいたアユムの手を掴み、小さな声でぼそぼそと話し始める。


「怖いし重いんだ、マコトの信頼も、この悪夢の原因が僕だってことも、それを終わらせてくれって言われても勘弁してくれって思う」


 そう言うとケイはアユムを突き飛ばした。

 アユムは予想外の行動に尻餅をつく、視線の先のケイの手は腰に佩いた日本刀に添えられていた。


「でも」


 閃いた銀の刃がアユムの頭上を薙ぐ、それと同時に言葉にならない悲鳴が響いた。

 アユムが頭上を見ると、いつの間にか背後に迫っていたブギーマンが腰から両断され()()()()()()()()()()姿があった。

 刃を鞘に収めると、ケイは続けた。


「本当にマコトが生きているなら、会いたい、それに比べれば、重圧も恐怖もいくらでも耐えてみせる」


 その目には、決意の炎が灯っている。

 ケイは、右手を尻餅をつくアユムに差し出した。


「アユムくん、僕は誰のためでもなく、僕の為に、この悪夢を終わらせたい」


 アユムはニッと笑い、その手を力強く掴んだ。


「頼むぜヒーロー」


 二人の影が、闇を照らすの炎の中で力強く揺らめいた。


――――――――――――――――――――――――――――――


 再び上陸を始めたブギーマンに対し防衛戦を張りながら、アユムは現状と作戦の概要を語った。

 

「つまり、街中の昏睡者達の中に僕の自殺願望の【魔法】がデッドコピーされて、悪夢の中で集団幻覚(サバト)が起こってる、それは僕が居なくても勝手に動き続けるから、僕が死んでも意味無いってことか……発端が僕のせいだと思うと本当に死にたくなってくる……」


「自信無くすな!気合い入れろ!俺にはよく分かんねえが、ミツキの言うにはおそらく、悪夢の中に結束点がある筈だって話だ!そいつをぶっ壊すか、なんかすれば、繋げられた悪夢がバラバラになって力を失い、今の昏睡者達も戻る!多分!」


「たぶんとか、おそらくが多いね……」


「うるせえな、時間も無えし記憶が持ち込め無かったせいでぶっつけなんだよ」


 二人は言い争いをしながら作戦会議をするだけの余裕があった。

 未だ燃え盛る住宅の灯りによる影への牽制。

 【魔法】を取り戻したアユムの立ち回り。

 そしてなにより、マコトの【魔法】を完全に受け入れ現実の記憶を取り戻したケイの力が大きかった。


「イィィヤアア!」


 ケイが刃を振るう度に、ブギーマンが豆腐のように断ち切れ、灰となっていく。


 【魔法】による強化があるとは言え剣道部だという彼の剣捌きは普段のそれに比べ様になっている。

 そして、なによりもブギーマンを殺せるようになったことが状況をひっくり返していた。

 だが、最大の問題が残っている。


「結束点が分かんねえと、いくらここで戦ってても夜明けを迎えるだけで意味がねえ」


 夜明けを迎える。それは可能だろう、だが解決の長期化は、現実に顕現したブギーマンが人々に認識され、崩壊した法則の固定を招く可能性が高い。

 そしてそれは、悪夢の中のブギーマンを更に強化するだろう、あらゆる意味で今夜が阻止限界点だった。


「結束点か、それって目で見て分かるものなのかい?」


 ケイは、アユムの背後に立つブギーマンの首を撥ねながらアユムに問う。


「全ての夢の()()()()となり得るものって話だ、んなら見えるものだろ、多分」


 アユムは鉄パイプを振るい、正面に居たブギーマンの首を折り、よろめいた所を蹴倒す。

 ケイはその言葉に呟く


「全ての悪夢の共通認識となりえるもの、夜、ブギーマン、影…違うな」


「ブギーマンだったら最悪だな、倒しきれねえ、ミサイルでも持ってくるかあ?」


 アユムの軽口に、ケイは顔を上げた。

 その目に映るは夜の闇とそこに浮かぶたった一つの明かり。


「ミサイル、そうか、空だ!結束点は空にある!」


「空あ!?」


 アユムは素っ頓狂な声を上げて、ケイと同様に空を見上げた。


 二人の目に映ったものは同じだった。


 星もない夜空、地上の灯りを厭う影達、そして悪夢の中を逃げ惑う人々を照らし続けていた、ただ一つの光源。


「月だ、アユム君、月を壊そう」


 無邪気とも言える喜びを表すケイに、アユムは強烈な目眩を感じた。

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