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ナイトメアロストチャイルド  作者: おのこ
君に大丈夫だって言えるように
24/53

真《ミスアンダースタンディング》

 一人目の母親は良い母親だった。


 ケイはそう記憶しているし、少なくともケイには母親として接してくれていた。

 

 自分の父親に関してケイの持つ感情は複雑だ。

 だが、客観的で間違いのない情報を述べるとするならば、エリート中のエリート。


 最早名前を知っているか問うことすら馬鹿馬鹿しい大学を卒業し、海外留学をし、外資系の大企業に就職し、ヘッドハンティングを受け、後に独立、【魔法】による社会不安による大不況すら乗り越え成長し続けた敏腕、幼い日に家のテーブルに置かれたビジネス雑誌に父へのインタビューが載っていた事すらある――自らの父に対して言うのも恥ずかしいが凛々しくハンサムでもある――それらの情報が父から聞かずともインターネットで調べればボロボロ出てくる、そういう人だった。


 性格も真面目で寡黙、合理的、理知的、相談すれば理由を付けて答えを返してくる。

 全くもって非の打ち所のない父親、全くもって理想的な男性。


 だが、女性からすればその完璧さは機械的、つまらないものと映るとケイは教えられた。

 それはケイの母親だった女性から見てもそうらしい。


 ある日、学校から帰ると母が居なかった。

 その日来る予定だったいつもの大学生の家庭教師も居なかった。

 珍しくこんな早い時間に父が居ると思った。

 テーブルを挟み、知らないスーツ姿の男が居た。


 差し込む西日が黄金色にリビングを照らす中、二人はケイには難しい話をしていた。

「はい、離婚調停に問題はありません、こちらに非はありません」

「そうか、息子の親権は」

「問題ありません、慰謝料と秤にかければ―――」


 父がリビングに入って来たケイをほんの一瞬だけ見た後、今話していた男に目を戻し言った。


「ケイ、すこし弁護士の方とお話がある。自分の部屋で休んで居なさい」


 ケイは頷くと何も言わずに、父の言いつけに従う事にした。

 だが、その背に声がかけられる。


「ああ、ケイ、ミナミさんだが、今日からケイの母親ではなくなった」


「家庭教師の彼も、もう来る事はない」


 ケイは背でそれを聞いた。

 父はこちらを見もしなかっただろう。


「そうなんだ」


 それしか、感想がなかった。

 あんなに好きだったのに、産まれてからずっと一緒に居たのに、父に言われるとそれが事実だと受け止める事しかできなかった。


 父の言う通り、ミナミさんがケイの母として目の前に現れた事はこれ以降一度も無い。

 何故、離婚に至ったか父は説明しなかったが、いくらでも予測はつく。

 ミナミさんもまた特に欠点のある女性ではなかったが、父に比べれば普通の人だった。

 そしてミナミさんがケイを除けば、父より長い時間接している男性など一人しか知らない。

 全てケイの憶測だが、時折父の電話口に聞こえる言葉からそう大きく外れては居ないだろうと今でも思っている。


 ケイの家庭教師は元々、私立の中学に入る為のものだったが、暫くは父も家に早く帰ってくるようになり、勉強を見てくれるようになった。

 その教え方は現役の大学生よりも的確で曖昧な所が無く、遥かに分かりやすかった。

 父は家事も行った。短い時間で効率的に、可能ならばケイにも指導し分担をした。


 今思えばこの頃が一番父との心の距離が近かったとケイは思う。

 父子家庭となりケイは始めて父の事を良く知る事ができた。

 不思議なことに、それは幸福な時間だったと今では思う。


 ただ、ケイの養育という時間的コストを父が別の事に使うことができたならば、莫大な利益を生み出すことができるという事実があったということと、父子家庭という世間体のデメリット、それを父が理解していたこと。

 そして、解決可能な改善点があるならば、それを是とせず、改善する、そういう人であったからこそ、そう長くは続かないとケイにも分かっていた。



 中学の受験が終わったある日、父が母親だと連れてきた人は、細身で切れ目の美人で、父よりもケイの方が歳が近いような女性だった。


「リカさんという、ケイも家族として仲良くしてくれ」


「ケイ君よろしくね、私、家族として頑張るから」


 ニコニコして人の良さそうな笑顔を浮かべ手を差し出してきた。


「よろしく、リカさん」


 家族になるという事に頑張るという言葉はどうなのか、そう思いながら最初の握手をしたのをケイは覚えている。

 

 二人目の母親は、一言で言えば父の信奉者だった。

 勤勉かつ努力家、秀才であれど天才ではない、故に才覚の塊としか言いようのない父に惹かれた人間、そんな女性だった。


 父が結婚をケイに告げてからすぐ、リカさんは第一子を身ごもった。

 父が積極的であったか、というよりもこれはリカさんの要望からだろうとケイは思った。


 父はとにかく効率的な男だった。

 結婚しようがいわゆる婚姻関係故の義務以外ではそう対応は変わらない。

 だからこそ繋がりを欲し子を求めていたのだろう、ある意味ではこの時点で父とリカさんはズレていた。


 結婚しておおよそ一年、(マコト)が産まれた。

 名前は、(リカさん)がつけた。

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