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ナイトメアロストチャイルド  作者: おのこ
君に大丈夫だって言えるように
19/53

妖精郷《ティルナノーグ》

 妖精郷(ティルナノーグ)


 欧州の小村落で最初に確認された【魔法】のアーキタイプだ。


 その【魔法】が何を起こしたものを指すかは、非常に分かりやすい。

 空想の存在が具現化し、現実を闊歩する。


 この【魔法】の発見当初はそれほど危険視される精神疾患(メガロマニアックス)ではなかった。

 理由としては、魔法現象を起こした真の誇大妄想狂(ウィザード)はその村の無垢な少女であり、更に可愛らしい妖精の見た目、【魔法使い】の驚異が広まっていない頃であった時代背景もあった。


 だが、それが安全な【魔法】な筈がなかった。

 言わば少女の精神から産まれ、少女の他人に対しての悪感情を速やかに解消する手駒。

 あの人がこわい、あの子が嫌い、そうだイタズラをしてやろう。

 そうして行われる妖精達のイタズラは常軌を逸し、まるで虫を扱うかのように玩具(ニンゲン)を弄んだ。

 

『私の友達の妖精さんが、勝手にやったのだから私は悪くないわ』


 当時、少女はそう語ったという。


 人々は少女(ウィザード)の扱いに割れ、争い、そのうちに皆虫のように死に、最後は悪化する村人たちとの関係の中、少女が唯一心を許していた兄が彼女の首を締め、その命を奪ったという。


 だが、全てが手遅れだった。


 完全に崩れた物理法則は既に戻る縁を無くし、その村は少女の居なくなった今もなお妖精が産まれ巣食う危険域として隔離されている。


 そうして、妖精郷(ティルナノーグ)は世界初の【魔法】による人類の生存不可領域(フロム・ヘル)を産み出した。


――――――――――――――――――――――――――――――


(クソったれ、早すぎる上に、一番最悪なパターンを引いた)


 昏睡者の数が増える事で彼らの中の【悪夢】が現実のものとして具現化する、この現象自体はミツキは望まなくとも予期していたものだ、だが、それにして早すぎた。

 妖精郷(ティルナノーグ)の恐ろしさは、一重にミツキのような()()()()()を持っていなくても、認識ができる【魔法】だという点に尽きる。


 【魔法】とは本来、現実の物理法則を一時的に押しやり、無理やり発現させられるものだ。

 一瞬の発現と共に殆どの【魔法】は現実に押しつぶされ消える、それが普通。

 だが、妖精郷(ティルナノーグ)は、自己の中の空想でしかなかったそれが、他者に観測、認識され実在性を肯定される事で、顕現し続ける限り存在の強度を増していく性質を持つ。


 だからこそ、ミツキはこの事態が起こる前に【魔法使い】を見つけ仕留める予定だった。

 

(だが、もう遅い、集団幻覚(サバト)は完成している、【魔法使い】を殺しても、ブギーマンはもう広まりすぎた)


 ミツキはぼやけた頭で考える、今何故、ミツキの前に現れたか。

 もう既に街中に溢れている?それは否だ、それほどの規模になるとやはり顕現が早すぎる。

 ならば――――


 ミツキはブギーマンの伸ばされた腕を掻い潜り、背負うように腕を掴むと、勢いのまま投げ飛ばす。

 【魔法】で自らとブギーマンを知覚する、想定通りのものが見える。


「ブギーマンの噂を聞き、条件を満たしながら悪夢を恐れ寝てない人間、そういうことか」


 自らの知覚が形作る【魔法】のラインに別の【魔法】が相乗りしている、この怪物を作り出した根源はミツキそのものだ、それは目覚めている人間であっても条件さえ揃えば顕現の踏み台とできるほど育った集団幻覚(サバト)であるということ、そして、そうなれば目的は一つ。


「これを機にターゲットを一気に食い散らかして腹いっぱいで仕上げに掛かろうって事か、クソッたれ、迷惑な自殺だ」


 立ち上がったブギーマンが、再びミツキに迫る。

 今度はナイフを手に持ち、ブギーマンの突進に合わせ背後に跳び向けられた指先を切断するように振るう。

 

 (端から削って、頭を潰す)

 

 届くはずの腕、掴める筈の指先、それを失ったブギーマンの隙に対し、ミツキは拳銃を抜き、頭部に三発発砲、頭部が粉々に砕け散り、後ろ向きにブギーマンが倒れ伏す。

 ミツキの持っていた情報では、これで動きが止まる筈だった。


 だが、その情報は一手古い。


「ぐ、あ、」


 ミツキは不意に襲いかかってきた痛みに、膝をついた。

 自らの全身を知覚すると、切断した筈の指が小さな蛇となり、ミツキの体のあちこちに喰らいついている、特に致命的なのは左足首の健。


「しまった、成長してたか、まいったな……」


 普段ならまだしも、今のミツキにはこの状態で動く気力が無い。

 悔い、まだ調べられていない事がいくらでもある、悪夢の主、アユムを夢に引きずり込んだ【魔法使い】ここで倒れては何の成果も……


「待てよ……」


 ヒントは最初からあった、何故アユムか、何故ミツキやリーベではないのか、何故、悪夢の主を助けようとしているのか。


「は、ははははは、馬鹿か僕は」


 倒れ伏しているブギーマンの頭部が再生してゆく、もう少しで起き上がるだろう。

 ミツキは携帯端末を取り出し、手早く入力していく、相手への礼儀を気にする余裕も、全てを書ききる時間も無いが、なんとか最低限の情報と策を纏め、メールを送る。


 ミツキの【魔法】はブギーマンと思われる影がもう既に目の前に居る事を知覚している。

 大口を開け、ミツキを丸呑みにしようと、準備万端だ。


 それに対し、ミツキは中指を立てた。


「くたばれ怪物(フリーク)、最後に勝つのは僕等だ」



 その夜、光輪会に連絡が入った。

 ある廃墟の一室でミツキが昏睡状態で見つかった。

 その場には争った形跡があったが、ミツキの体に外傷はなかった。

 体は極度に衰弱こそしているものの、本来意識を失うほどのものではない。 


 アユムは、眠り続けていた。


 リュウコは、その姿をじっと見つめていた。


 園長は、ミツキの容態の確認に深夜の病院に向かった。


 ケンゴには、確かにメールが届いていた。

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