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ナイトメアロストチャイルド  作者: おのこ
君に大丈夫だって言えるように
18/53

金曜・夜《ドゥームズデイ》

 怪獣


 夜の道を走り抜けた先でアユムはそれを見た時そう感じた。


 街路に散り散りになった無数の少年少女達、その中央に鎮座する()()

 例えるならば咲き誇る巨大な影の華、ただし、グロテスクな食虫植物の華。

 全方位に向け、無数の影の蛇がうねり、言葉にできない奇声を発しながら物も()()関係なく喰い荒らしていく

 その花弁の中央に座すはブギーマン、膝を抱え俯き、身じろぎ一つしない。


「アユム!!」


 ケイが叫んでいた。

 今まさに彼が連れていた少年に飛びかからんとする蛇を切り払い、切迫な表情で叫び続ける。


「早く手伝ってくれ!みんな集まってくれ!ああ!」


 手が届かない場所にいた少女の首に蛇が食らいつき、倒れ伏した先の影が少女を喰らう。

 ケイの元に駆け出した少年の足が止まり、そのまま影の中へ沈み込んだ。

 ただ震え動けなくなっていた少女を影が繭のように覆い、人形の玉が萎み消えた。


 そんな光景があらゆる場所で行われている。

 アユムもまた、本能的に後ずさる足を抑え、踏み出しケイの死角から迫る蛇を叩き落としながら戦線を張る。


(いや、戦線にもなってねえ、この道の地面も壁も全部があいつの体だ)


 飛びかかる蛇に只管にバットを振るう、ケイの剣閃がアユムの死角の蛇を刈る、それもまたジリジリと手遅れになりつつある。

 そして気づく、蛇の花弁、それが徐々に拡大している、足元の根とも言える影もまた同様。


 ケイも気づいているのかアユムに必死に目配せをしている。

 どうしよう、どうすればいい、アユムの冴えた発想を期待しているかのような、そんな目。


 しかし、アユムの脳裏に警笛がなり続けている、もはやこれは。


 アユムは自らに突っ込んできた蛇の頭部を金属バットで殴り飛ばしながら本能的に叫んでいた。


「俺達がどうこうできる相手じゃねえ!全員は無理だ!」


 アユムの言葉にケイの顔が泣きじゃくる子供のようにくしゃくしゃになり、それでもなお、義務を果たそうと歯を食いしばる。


「くそ!くそお!みんな!少しでも逃げてくれ!はやく!」


 少年少女たちが言葉に従い必死な顔で彼らの背後に向けて走り出す。だが、その間にも次々と影の中へ消えていく。

 ふざけんな!そう叫びたかったがその余裕すらない、圧倒的物量、そしてなにより守る相手が多すぎる。

 もはや影は、一歩踏み出せばすぐそこだ、阻止限界点を今まさに越えようとしている。


「引くぞ!」


 アユムの言葉と同時に二人は怪獣(ブギーマン)に背を向け走り出した。


――――――――――――――――――――――――――――――


 一番近くのガソリンスタンド、その電灯の下、二人は外を眺める。

 影の蛇が、床一面に広がり、蛇が彼らを喰らおうと近づき、光を避けるように離れていく。


「間近じゃ見たことなかったが本当に光が苦手なんだな」


 ぼんやりとアユムは呟く。

 外はもはや全てを埋め尽くす影と夜空の月以外の何も存在しない。

 このセーフゾーンに駆け込めた子供は4人程、あの場に居た数のどれほどが救えただろうか。

 アユムが来た時点からでも、既に半分以下だという事しか分からない。


「今日の、夜明け、までは、持つかな」


 ケイは憔悴しきり、歯を食いしばり俯いている。


 ()()()


 今日は、まだ、でも()()()

 ブギーマンはもう日々の成長などという次元ではない、怪物を越え、怪獣としか形容のしようがないものに成り果てた。既に二人に対応できる状態を越えてしまった。

 アユムがポツリと呟く。


「なあ、ケイ、今までこんな事ってあったか?」


 今日の成長、それは今までたった二日しか居ないアユムから見ても異常だった。

 たった一日経過しただけでここまで強くなる怪物だったとしたら、一ヶ月も持つはずがない。

 それに対し、ケイは一瞬の逡巡の後、答えを口にした。


「確かに一人で居る時は、アイツがこんな急に成長することはなかった」


 ケイはアユムが口を開く前に否定する、アユムを見つめる目は真剣そのものだ


「違う、アユムのせいじゃない、僕が心細かったんだ」


「アユムが手伝ってくれるって言った時、本当に救われた気がしたんだ、それは嘘じゃない」


 アユムは何も言えなかった。


「きっと僕一人でも、間違いなくいつかこんな日は来た。たった三日でも一緒に戦ってくれてありがとう、アユム」


 その言葉には言葉では覆しようのない余りにも色濃い諦観の色が籠もっていたから。


 影は街中を覆っている、幾らの人々がブギーマンに喰われただろうか。

 深く考えるまでもない、状況と数少ないこの夜での経験が結論を導き出している。

 明日の夜はきっと全てが終わる日だ。


――――――――――――――――――――――――――――――


 ミツキは夜の廃墟を走る。

(輪郭が捉えられない、厄介だな)


 柱の影に唐突に【魔法】の予兆が現れ、ミツキは咄嗟に踵を返す。

 【魔法】の気配が物理現象として形を成し、空気を押しのける瞬間、ミツキはその頭部にあたる部位に向かい全力でナイフを投げつける。


「――――――!!!」


 空気が抜けるような悲鳴がその顔の穴から響くが、確かに足を踏み出したのをミツキは知覚した。


 ミツキの居る場所は紛れもない現実だ、夢ではありえない異常な睡魔と疲労感がその証拠。

 

 影から踏み出した、木の洞のような顔をした巨躯の怪物


 ブギーマンが確かにそこに居た。

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