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ナイトメアロストチャイルド  作者: おのこ
君に大丈夫だって言えるように
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霧中《オールナイト》

「ホントに一瞬で落ちたな……」


 夜十時、アユムの部屋で直前まで話していたアユムが唐突に夢に落ちたのを目の前で確認したリュウコはそう呟いた。


「いやー、これは本当に狙い撃ちにされてるねえ、しかしなんでアユムくんなんだろうかねえッ!」


 軽い調子で語るケンゴの胸ぐらをリュウコが掴み捻じりあげる。


「テメー、光輪会出て性根が腐ったのか?んでそんな軽い調子で言えんだ?あ"?」


 夕暮れ時にアユムに見せたそれよりももっと鋭い、猛獣のような眼光、本気の怒りを声に込めてリュウコは言った筈だった。

 だが、ケンゴは柳のようにそれを意に返さず返答する。


「それはねえ、焦っても今の僕らにはどうしようもないからだよ」


 リュウコはさらに激昂し叫んだ。


「その態度が気に食わねえってんだよ!夏の時もそうだ!テメーがコイツ等を良いように使って自分の手駒みてえにしてんのは知ってんだぞ!」


 ケンゴはその言葉に、微笑みを返した。

 慈愛と少しの諦観の籠もったそれ。


「リュウコちゃんは変わんないねえ」


「んだとっ、テメッ……!」


 次の瞬間リュウコ視界が回り、空のベッドに転がっていた。

 目にも留まらぬ速さで、投げられたのだ。


「結局の所さ、僕がどうこうしなくたってアユム君もミツキ君も、やることは変わらないよ」


 呆然と見上げるリュウコの前でケンゴは取り出した煙草に火をつけて続けた。


「彼らは勝手に走り出して、勝手に結末に辿り着こうとする、ならさあ、せめて良い結末に辿り着くように考えて手伝って上げるのが大人のやってやれることじゃない?」


 それくらい、わかってるんでしょ?と言いたげなまるで昔、光輪会で共に暮らして居た頃のようなケンゴの表情にリュウコは何も言えなかった。

 実際ケンゴは二人のために既に動き出している、守ろうとしているもの守る為に何も出来ない苛立ち、なんでこいつらばかり、そんな感情をガキのようにケンゴにぶつけたのを諭されたと自覚したからだ。


 しかしながら、一つだけリュウコには言う必要がった。


「ケンゴ()い、ここ、禁煙だぜ」


 それを聞いたケンゴは今度こそバツの悪い顔をして煙草を携帯灰皿に押し付けた。


――――――――――――――――――――――――――――――


「もうアユムも夢の中か」


 狩りの為に確保したセーフハウス代わりの廃墟の一室。

 ミツキは窓から覗く夜空の下弦の月を見上げながら、缶コーヒーの転がる床の上で情報を整理していた。


 ケンゴから齎された補導歴の情報を元に今日集めた情報を纏める。

 ダイイチはそこまで厳しい校風ではないが、私立の中高一貫で進学校、当然天使の堕落(エンゼルフォール)の取引を含めた犯罪行為におおらかな対応をする程甘くはない、教員室に収められた生徒指導の資料を確認する限り、そこまでの問題児の情報は残されていなかった。


(上手く行ってない、正直効率が悪い、このままだと僕が持たない)


 それとも相手が上手くやっているのか、とも思うが、それ以前にミツキの【魔法】を持ってしても、一つの高校の生徒全員の調査はあまりにも無謀だったと結論付けざる得なかった。


(馬鹿か僕は、いや、馬鹿になってるな、落ち着け、ケンゴさんとも話したけど、時間が無い)


 悪夢が真にサバト(集団幻覚)としての力を手に入れた時、何が起こるか、いくつかの予想はあるが街全域を覆うこの悪夢が起こす事象は悲惨な事になる。そしてその期限は確実に迫っていると二人の予想は一致していた。

 そして時間がないのはミツキも同様、悪夢への対抗策が確実にミツキを蝕む。


「たかが三徹、まだまだこれからだ」


 寝れば悪夢に飲まれる、ならば、対策は一つ、寝なければいい。

 ミツキも中学生だ、学校に行けば授業に出る必要がある、そうなれば確実に寝るだろう、だから学校をサボり、只管動き回る、陳腐で馬鹿馬鹿しい理由だがこうするしかなかった。


「リュウコさんキレてるだろうな、アユムが上手くやってくれればいいけど……まぁ考えるのは後にしよう」


 独り言と無駄な思考が増えている、集中すればするほど別の思考に接続される、別の思考が空想に変わり、瞼が落ちる事も増えてきた。

 だからこそ、急がねばならない、悪夢に囚われたミツキはアユムとは違いきっとただの犠牲者に成り下がる。

 そうなるにしても、現実でできることをし終わってからだと、歯を食いしばった。


――――――――――――――――――――――――――――――


 今晩も星もない満月が煌々と輝く夜だとアユムは思った。

 場所は珍しく屋内でなく住宅街のど真ん中の屋外、周囲にいくつかある街灯は当然のように消え、車線の無い道路が続く。

 何故かアユムはこの場所に酷く嫌悪感を感じ、トランシーバーを手に取り発信する。


「こちらアユム、ケイどこだ?」


 だが、返答はない、几帳面で真面目なケイにしては珍しいことだ。


「んだ、今回の場所も含めて変だな、とりあえずガソスタにでも行って早く合流を……ッ!」


 アユムはとっさに走り出した。

 道路の左右を囲うコンクリートの塀、住居、それらの向こうからまるで悲鳴のような人のものではない絶叫が鳴り響いていた。


「クソッ!今度はパニックホラーかよ!節操無えな!」


 今晩は何人救えるか、それ以前に、自分は生き延びる事ができるのか。

 今のアユムにはまだ分からなかった。

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