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ナイトメアロストチャイルド  作者: おのこ
君に大丈夫だって言えるように
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援軍《アンブッシュ》

 昼休みの学校の中庭を四角く切り取られた曇天の空が蓋をし、まるで檻のようだとアユムは感じていた。

 三日連続となるこの場所にいるのは二人、ベンチに座る、アユムとリーベ。


 ミナは一時間目の授業が終わった直後、体調不良を訴え早退した。


(きっと帰って調べてんだろうな、親友、みたいだったもんな)


 朝、目が合ったあの後、アユムに何かを問いただす事はなかった。

 アユムは数少ない情報交換の中でミナの行動力とその責任感を知っていた。

 だからこそ問わなかったのではなく、問えなかったのだろう、決定的な何かをアユムの口から聞く事を恐れて。


「逃げ出した、か、言えた口じゃねえな」


 彼女が居なければ昼休みに態々ここに来る必要はない、それなのにアユムはここに居る。

 ブギーマンの噂はもうこの学校中に広がっている。

 もし、アユムが今後失敗すれば、彼らの中の誰かがいなくなるかもしれない、そう思うと、少しでも他人から離れていたかった、ただそれだけの理由だった。


 ふと、隣を見ると、リーベがアユムの事を見つめていた。

 吸い込まれるような空の瞳と、羽のような白い髪、まるで人形のような無表情――だが今のアユムなら分かる


 アユムはため息をつき、リーベの頭に手をやり、くしゃくしゃに撫でた。


「心配すんな、俺は大丈夫だよ大丈夫、ちっと覚悟が足りてなかっただけだ、もう問題ねえ」


 リーベはぐりぐりと髪を乱されたことも気にせず、少しだけ身じろぎをする。

 彼女に変化はないように見える、だがその微妙な変化はアユムの言ったことに分かったと返事をしたのだろう。


(こういうとこ素直っていうか、まぁ、信頼してくれてんだろな) 


 リーベは人を疑わない、それは周囲の人間を不安にさせることもあれば、今のように助けられることもある。

 彼女が大丈夫だと思ってくれたなら、アユムは大丈夫になれる、そう、思えた。


「実際死んだわけじゃねえ、寝て起きないだけだ、だから手遅れじゃないはずだ」


 そう、唐突に突きつけられた現実に動転こそしたものの、犠牲者達は瀕死や、死に至ったわけではない、ただ夢の世界に囚われるだけ。


(って事はまだあの悪夢の中に食われたやつらも居る筈だ、それなら)


 悪夢を終わらせば、助かるかもしれない。

 そう考えれば、アユムのやることは一つだ、だがその前に、


「リーベ、月曜日ミナさんが来たらついていてくれねえか、きっと心細いだろうからよ」


 リーベはボサボサの頭のまま、すこしだけ目を閉じ、確かにアユムを見つめ返した。


 昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り、自ら崩したリーベの髪を直しながら足早に教室に向かう。

 少しだけ産まれた心の余裕にふと、何かを忘れているような気持ちになりながら。


――――――――――――――――――――――――――――――


「よぉアユム、一つ聞きてえ事があるんだけどよ?」


 リーベと二人で帰宅早々、玄関でリュウコのドスの効いた声に迎えられた。

 ビリビリと鳥肌が立つような感覚、アユムは知っている。

 これはマジでキレている。

 だがアユムとしても正直に話すしかない。


「りゅ、リュウコ姐さん、ミツキの事は本当に分かんねえんだ、今朝見たときは居なくて、俺も気が動転してて……」


 ミツキは昨夜にアユムが寝る所を見届けて以来、姿を見せていない。

 アユムとミツキの二人が行っている狩り、園長が言う所の夜遊び。

 それが許されているのは一つの暗黙の了解があるからだ。

 最低限、日常生活に支障を来たさない事。


 だからこそ、今の状況は非常にまずい。

 アユムやミツキの悪魔崇拝者達(サタニスト)に対する心情を汲み理解をし、止めずに居てくれているのであって、止める力が無いわけではないのだから。


(ミツキのやつ、マジで何やってんだ!それどころじゃないってのに大ピンチじゃねえか!)


 後ずさったアユムに対し、リュウコは片眉を上げガンを飛ばす。


「テメーが知らねえって言うならミツキに関しては知らねえんだろうな、まあそれなら……」


 ゴキリと首を鳴らした音がした。


「別の事話してもらおうじゃねえか」


 その言葉と同時に、背後の扉が開き、アユムは反射的に振り返ると、今最も恐れていた相手がそこに居た。

 禿頭にサングラス、全身に邪悪な入れ墨を入れた成人男性より二周り大きな巨体をTシャツに押し込んだとしか言えない筋肉の塊。


「あら、アユムも帰ってるじゃない、丁度いいわね」


 元プロレスラー、キング・オブ・デス メタルサタン、タケオ園長(ゴリラ)だ。


 アユムの背筋が伸びる、ここからの行動に今後の全てが掛かっていると言っても過言ではない。


「おかえりなさいませ園長!な、何が丁度いいんでしょうか!?」


 しかし、思わず敬語になり、冷や汗をかきながら腰を90度に曲げたアユムの頭上から聞こえた声は予想だにしてないものだった。


「いやー、アユム君、家だとこんなに行儀良くなったんだねえ」


 やんわりとした猫撫で声にアユムはハッとして頭を上げた。

 園長の巨体からひょっこりを顔を出す、七三分けの眼鏡をかけたスーツ姿のニヤケ面の男性。


「やあやあ、久しぶり、今回の事件の重要参考人として事情聴取に来たよ」


 刑事であり、光輪会OBであり、アユムとミツキの協力者、ケンゴの姿がそこにあった。

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