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ナイトメアロストチャイルド  作者: おのこ
君に大丈夫だって言えるように
14/53

思索《オールレディライト》

(そんなこと、最初から判っている)


 ミツキは周囲の人影を慎重に避けながら、見知らぬ高校の校舎を進んでいく。

 昼前の外の天気は曇り、高校自体の調査は進める時間がなかったが昼飯時には恐らく大勢の生徒が校舎を闊歩する。

 

 その前にミツキは隠れる場所を確保する必要がある、いくら【魔法】が探知能力に優れているとはいえ、物理的に回避不可能な接触まで対処はできない。

 だが、情報を集めるなら、昼休みこそがチャンスだという事も事実、学生が最も口が軽くなる時間帯だからだ。


 ミツキは、屋上へと出た。

 施錠済みの屋上ならば、普段は生徒の立ち入りが無い筈、そして、鍵開けはミツキの得意分野だ。

 屋上側からも鍵を掛なおし、塔屋を登り、そこにある貯水槽へ背を預け、座り込む。


 ミツキは現状のタスクを考える。

 既に、ここ数ヶ月のこの学校の生徒における補導歴等の情報の調査はケンゴに依頼した。

 缶コーヒーは既に摂取済み。

 この学校での情報収集は昼休みが始まってからだ。

 待つしか無いならと、ぼんやりする頭でミツキは今までの情報を整理することにした。


(あの悪夢の主がアユムの夢の中の相棒であることは当初の予想通りだ、と思う)


 当然だ、悪夢の中で他者に積極的に干渉し事態を動かす存在であり、悪夢の中で他者を探知できる存在、それが悪夢の主でない筈がない。

 問題は、その【魔法】の根源たる誇大妄想(メガロマニアックス)が不明瞭だったことだ。

 英雄症候群(ヒーローシンドローム)だとするなら、アユムの話を聞く限り夢の主は弱すぎる。

 ブギーマンを殺せず、一対一で負け、悪夢が醒めれば誰の記憶からも正体が消える。

 あの夜、アユムの助けを借りてようやく他者を効率的に助けることができるようになったは、どうも格好がつかない、無意識であろうと一人で無双することを望むだろう。


 だが、昨晩のチンピラ共から手に入れた情報と【魔法使い】(二人目)の干渉を考慮すれば話は変わってくる。

 彼は、友人に連れられ、一度天使の堕落(エンゼルフォール)を服用し二度と来ていない。


 天使の堕落(エンゼルフォール)の効能は、

 精神の錯乱、現実感の喪失、高揚感、幻覚作用

 潜在的な不安、不満の肥大化

 強い忌避感、現実逃避の果ての【魔法】(メガロマニアックス)


 頭を働かせる為、ミツキはそれを口に出した。


「彼の誇大妄想(メガロマニアックス)は、自虐、自罰、若しくは自殺、そういった偏執病(パラノイア)天使の堕落(エンゼルフォール)の副作用で開花した。それこそ二度目が要らない程に」

 

『ブギーマンが来る』『ブギーマンが来る』『何もできなかった僕を食べに来る』


 恐らく彼は根っからの善人だろう、だからこそ自身の不満の解消に自責と自虐を求め、現実逃避の先に自らを罰する誰かを作り出すことを無意識に選択した。

 だとすればその弱さにも、悪夢へ持ち込まれる力への拒絶性も理解できる。

 本来は彼は自らの【魔法】による夢の中で、為す術もなくブギーマンに殺される筈だった。

 

 だが、誰かが彼の死を否定した、恐らくそれが第二の【魔法】。


「彼の誇大妄想(メガロマニアックス)による自殺をそれ以上の誇大妄想(メガロマニアックス)で妨害している」


 第二の【魔法使い】は悪夢の中にアユムを送り込み彼を助けさせている。

 おそらくではあるがそれ以前にも介入が繰り返されており、悪夢の中で為すすべ無く蹂躙される筈の彼に、生還という望まぬ結果を齎している。

 思わぬ介入で生き延びてしまった彼は、それに対抗しブギーマンを日々強くしていく。

 そしてその過程で、犠牲者を引きずり込み―――


 ミツキはそこで首を振る。


「いや違うな、彼の【魔法】は自虐の悪夢を作る事、おそらくそれはもう外していない」


 噂を聞いた見知らぬ他人を悪夢に引きずり込む、自虐の為に無関係の人間を巻き込む事は【魔法】の本質ではない、その上、それでは【魔法】が強力過ぎるという当初の疑念がある。


 ミツキはそこで思い至った。


「そうか、【魔法】の力を強める為に他者を巻き込まざる得なくなったんだ」


 因果関係の逆転


サバト(ドラッグパーティ)と同じだ、ブギーマンという空想と無意識に自責と自虐を求める思想を共有する他者、自己の認識と現実感の薄い夢の中であれば繋がり得る」


 人々の夢想の中でバラバラに出力される同種の意識、その無数の意識の力を彼の【魔法】がブギーマンを鍵に束ね、ルールを加える、あくまで個別の世界の創造は各個人の意識であるならば、この規模の【魔法】が十分説明がつき、その力は莫大なものになるだろう。


 彼は思い通りに行かない自殺に巨大な力を求め、無意識にそれに手を伸ばし続けている。


「ただの情報整理のつもりだったけど、この予想はかなりいい線行ってるかもしれない」


 つい漏れ出た独り言の終わりと共に、昼休みの始まりを告げるチャイムが鳴る。


「まず、悪夢の主を見つける、そこからだ」


 ミツキは足元の音を【魔法】で探り始める、学校というあまりにも巨大な情報()坩堝(るつぼ)からたった一人の【魔法使い】(メガロマニアックス)を求めて。

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