二人《パートナー》
光輪会の夕食時は子供達が大勢集まるだけあり非常に騒がしい、制御する側のリュウコですらお世辞にも行儀が良い方ではなく、園長も沢山食べれば良しという考えであるがため、走り回ったり好き嫌いを言わない限りはかなり自由な空間だ。
「アユム、ありがとう、早速ミナさんから連絡が来たよ」
そんな中、ミツキは心底感心した感謝の言葉をアユムに述べていた。
それは言外に、一応連絡先交換を頼んだけど、本当にできると思ってなかった。というあまりにもアユムを舐めた考え故ではあったが。
アユムはふてくされながら返答する。
「どういたしまして、んでどうすんだよ、これから」
ミツキはそれに対して、当然の事のように返答する。
「しばらくは僕一人、アユムは待機」
つまり、狩りはミツキ一人で続ける、という事だ。
「ミツキ一人で大丈夫かよ」
「大丈夫に決まってるだろ、それに今のアユムの状態、むしろ大丈夫かよ?はこっちのセリフだよ」
確かに、攻撃を受けているのは今の所アユムだけだ、心配されるのはアユムの方、その言い分は分かる。
だが、だからこそアユムには引っかかった。
「もし一人の時に落ちたらどうすんだよ」
アユムが懸念しているのは、昨晩のアユムが唐突に夢に落とされた事だ。
それがミツキに起きないとは限らない、特に外にいる時ならばなおさらだ。
「僕もその可能性はゼロじゃない、けど、多分僕は違う」
「どういう意味だよ」
「まだ確証はないからね、大丈夫って事だけ覚えておいて」
流石に今回の秘密主義にはイラッと来ながら、アユムは不承不承頷いた。
「何にしても、街の情報を集めれるのは僕だけだ、多少のリスクで僕まで止まってたら本当に手遅れになる可能性はある、だから……」
ミツキはため息をつきながら、アユムに忠告した。
「今、一番危ないのはアユムの方だからそっちこそ用心しておいてくれよ、覚えてられないかもしれないけど」
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意識を取り戻すと同時に、周囲を見渡しながら腰のトランシーバを取りアユムは連絡をする。
「こちらアユム、ケイへ、俺の位置は分かるか?」
ノイズの後、即座に返答が来る。
『こちらケイ、近いみたいだ、3分以内につく』
「了解」
アユムは返答と共に、跳ね上がり腰のネイルガンを抜き影が揺れるカーテンへ向け釘を連射した。
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二人部屋の窓を雨が濡らす午後十時半、既にベッドにスタンバイしていたアユムは再び悪夢に落とされ、それをミツキはじっと眺めていた。
「寝る瞬間、微弱な【魔法】の気配、発生源はアユム自身?いや、違うな、視覚以外の何かで認識された状態で誰かに【魔法】を行使されていている?」
ミツキはミナが齎した情報を元に考えた自分の仮説を確かめる為に、それを見ていた。
アユム自身の認識が結果に影響を及ぼす可能性があったため黙っていたが、少なくとも、悪夢を見るようになった人達の中で強制的に寝落ちさせられているなどという事象は確認できていない、悪夢を見るようになって夜ふかしをして眠らないようにしても、起き続ける事はできる、あくまで普通に寝て、その先で悪夢を見るのだ。
つまりアユムだけ、特別。
「もしそうならもっと大事になってるだろうからそうだとは思ってたけど、繋がった悪夢の世界を見る事と、悪夢に落とされる事は別モノみたいだ」
ぶつぶつとミツキはひとりごちる。
「誰かが意図的にアユムを夢に落として、いや勘違いするな【魔法】はそんな便利なものじゃない」
発想の根本が間違っている、とミツキは自らの考えを否定する。
「誰かがアユムならば絶対にあの夢に行くと信じているんだ、【悪夢】と何か別の【魔法】が働いている、そうとしか思えない」
そして、その【魔法】で悪夢の世界は一変した。
「いや、もしかすると、アユムが悪夢に落ちるよりもずっと前からあったのか?」
ありえない規模の強力な【魔法】、それを生み出す【魔法】と【魔法】の相乗効果。
最も有名なものはサバト、それとはまた別のものをミツキはこの夏に見ている。
「シマハラとリーベの二人の【魔法】の融合、それと同じような事がずっと?少なくとも一ヶ月近く起き続けている?」
ミツキは身震いした、アユムが悪夢へ落とされたこと自体は恐らく少なくとも2つの【魔法】が絡み合い日々成長し続けていく過程での余波でしかないと、直感的に察していた。
急速に広まり始めたブギーマンの噂の根源
正体を掴ませない二人の【魔法使い】
アユムが【悪夢】に執拗に捉えられている理由
そして、成長し続ける【悪夢】の終着点
何もかもが分からない。
「急がないと不味い事になる」
ミツキはレインコートを被り、狩りの準備を始めた。
夢に送り出した相棒の相棒、それが何者であろうとアユムの無事を願いながら。