コラム:月間ミュータント20XX年9月号 【魔法】について
※付箋
この記事は天使の堕落が開発される前に書かれたものだが、現在に至る【魔法】の基礎的な知識に関し非常にわかりやすく纏められている為、必要に応じて読み返す事。
追記:アユムに読めと言ったらめんどいの一言だった。馬鹿め。
・はじめに
【魔法】※注1と呼ばれる法則が発見されて1年が経つ。
オカルトを専門に扱う当誌にとってこの1年間は大いに売上を伸ばす好機でありながら、それらの話題に関し【魔法】発見当時の記事を除き一切の取り扱いをしてこなかった事に関し疑問を呈する読者からの質問が相次いでいるが、まずそれについて釈明をしたいと思う。
※注1
当コラムでは過去雑誌で扱ってきた魔法、魔術、呪術の数々と【大魔法大全】によってまとめられた法則を分け、これらの法則を【魔法】と表記することとする。
我々のモットーとしてオカルトとは、真偽の分別のつくつかないを別としてある種のロマンであり、夢を追う事そのものであった。
だが、この度発見された【魔法】はそうではない、確かなルールがあり現実に確かに起こりうる事象だ、それを追う事もまた確かにロマンでこそあったが、1年が経ちそれによって起きた数々の事件や悲劇は当誌で扱う対象としてはロマンや夢と割り切るにはあまりにも現実に寄り過ぎたものだった。
そして【魔法】を取り扱うべきは、当誌の如きオカルトの専門誌ではなく綿密な研究の末に真実を探求する科学誌の領分であるという自覚もあり、深くこの【魔法】に対し語る事はタブーと判断し二の足を踏んでいたのだ。
しかしそれを求めこの雑誌を手にとって頂いていた方々もいることは事実であるため、この度は編集部の見解とこれまでに取り纏めた事実と推測を交え数回に渡りコラムを掲載することとした。
読者の方々には、【魔法】の危険性、そしてそれによって生じた悲劇を重々理解した上でこのコラムを読んでいただきたい。
それが、オカルトというものを追う皆様の夢と幸福に適うものだと我々は切に願う故であると明言した上で前文を締めさせて頂く。
・【魔法】とは
ハンドルネームを大魔道士と名乗る匿名の研究者が、ソ連の超能力研究を一つの体系として完成させた【大魔道全書】によって世界に広がった法則だ。
彼が取り纏めた物理法則と並列してこの世界に横たわる新たな法則【魔法】の基礎を要約すると以下の3点となる
1つ、強い意思によって世界の物理法則に干渉できる。
2つ、理論上ありとあらゆる事象が起こせる万能の力である。
3つ、それは既存の物理法則に制約されることはない。
そして、付け加えるとするならば、それを扱えるのは我々の知る物理法則を理解しえない子供や、そもそも世界の認識の違う誇大妄想狂のみだ。
これは世界中の研究者に実証されており、事実としての【魔法】の実在もまた、論文の発表と共に重度の誇大妄想狂達による【魔法】犯罪が爆発的に増えた事からも確かだろう。
長年オカルトを追ってきた我々としても、これほどまでに物理法則を超えた超常と呼べる事件が増えたことは今までかつてない。
法則としての【魔法】は論文発表前から存在しており、それを扱う適性があった者達はいくらでもいたはずだ。だが、それまではそれこそオカルトか、はるか昔の伝承の中にしか居なかった。
何故か、【大魔法全書】は本当に世界を変えてしまう魔法書だったのか。
答えは否だ。
これに関し、ある論文から抜粋させて頂く
(資料が膨大となるため、巻末に出展を纏めさせて頂くので是非ご一読頂きたい)
【魔法】は誰しもが持つ世界を変えうる力であり、今まで世界中の人間が認識していた物理法則すら、この世界はこういうのものだという認識の力によるものだった。それ故に【大魔法全書】により、その当然がそうではないと示され、今まで存在していた誇大妄想狂達の脳内の世界を否定する【魔法】が弱まり【魔法】というものが存在する余地が世界中の人間の認識の中に生まれた。その結果今まで否定され続けていた【魔法使い】の存在が世に跳梁することとなった。
皮肉なことにオカルトをオカルトとして扱うその姿勢こそがこの世界のタガであったのだ。改めて表明させて頂くが、我々はこれらの【魔法】の生み出す悲劇を歓迎しない、オカルトは楽しい追い求める夢であるべきだからだ。
・悪魔崇拝者達について
今インターネット上で【魔法】について調べるとそれを追い求める人々についてあるスラングが横行している事について、ご存知の読者の方々も居るだろう。
倫理や法律を無視し【魔法】を手に入れようとするコミュニティの総称、悪魔崇拝者達の事を。
彼らは、【魔法】を手に入れる為に、自らの常識的な認識を破壊するために独自のドラッグを作り、人々に危害を与え、集団による歪んだ認識の統一により一つの大きな【魔法】を生み出し災害と呼んで差し支えない被害を起こしうる新たな反社会的勢力だ。
これは【魔法】発見以前の悪魔崇拝者とは一線を画す存在であり、全く別物と呼んでいいだろう。
しかし、この名称についてはかなり的を得た命名ではあった。
前述の通り、我々の信ずる物理法則の数々も人々の共通認識によるものであったとするのであれば、その共通認識を産み出した、最初の存在、概念の母と呼ばれる存在が居たはずだ。誰もが母の教えに従うように世界がそうであると認識するに至った概念を認識した最初の存在。
それが人間であったか、動物であったか、宇宙そのものであったか、それは不明だが一切の宗教的な背景を無視し、我々が持つ認識がそうであると定義した存在がいるのであればそれは神と言って差し支えないだろう。
神が作った世界への法則へ叛逆を試みる集団、それを形容するのであれば悪魔崇拝者と呼ぶのはこれ以上ないスラングだ。
※付箋
僕の調べた限り、雑誌や新聞、ニュースでもネットの掲示板を除けば一番最初に悪魔崇拝者について言及した記事だ、首都崩壊と共に雑誌は休刊となってしまったが、もし彼が生きているのであれば【魔法】についての見解を伺いたいものだ。
(中略)
・最後に
最後になるが読者の方々には重ね重ね【魔法】への慎重な対応をお願いしたい。我々としてもオカルトに傾倒してきた者として強い好奇心の惹かれるものではあるが、これを楽しいコンテンツとして扱う事はこれからもないだろう、【魔法】は夢ではなくむき出しの凶器そのものである、その認識があなた達の幸福につながると強く願う。
※付箋
僕もそれには同意する。
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閉められたカーテンの隙間から真夜中の月明かりが二人部屋を厳かに照らす。
一人の少年が椅子に背を預け、ギリシと音を響かせた。
ミツキの包帯で巻かれた空洞の目は何も映さない、だがその【魔法】は奪われた視覚に代わりあらゆる情報を読み取る。
棚に積まれた雑誌から焦点を外らし壁に掛かった時計を眺める、午前一時、普段ならば既に狩りに出ている時間だ。
そう、狩り、毎夜、街のゴロツキ、暴力団、そして悪魔崇拝者を見つけ出し徹底的に痛めつけ、彼らの楽しみを滅茶苦茶にしてやる、彼らのライフワーク。
「それが、これだ」
ミツキは焦点を隣のベッドに向ける。
そこには、目を閉じ横たわる左足が義足の一人の少年
考える、誰が、どうやって、いつから。
「クソったれ」
ミツキは毒づいた。
ベッドに眠る、相棒は応えない。