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桜子さんのそんなに怖くないお話

ニノマエ知ってる?知らなきゃ、マリンと遊べるよ。

作者: 秋の桜子

 マリンだよ!無料だよ!遊ぼうよ。ニノマエ知らなきゃ、遊べるよ!


 『ニノマエヨンデ♡』ゲームはじめちゃう?はじめちゃう?


 イイなら先ずは準備だよ。OKなら右にスクロール。




 プラットフォームで待っていた。何処かの踏み切り事故とかで来る電車、来る電車、スルーしやがるし……、イライラしながら白線の内側で立っていた。


 なろうでも読もっかな。携帯を取り出し画面を開いた。


 ……なんだ?新しい広告かよ!『ニノマエヨンデ♡』わけかんねー。ニノマエって何!『二宮(にのみや)』なら知ってるけど。目立つためならタイトル、変なのつけるよな。



 サイトの広告バナー、エロかわいいマリンちゃん。フワフワと、揺れる水色の髪のツインテールは、ニコニコ笑ったり、際どい丈の制服スカート揺らして回ったり、ぱっつんなブラウスの胸の前で、手を組んだり、ちらりほらりと画像が動く。


 これってエロゲーじゃん、無料だし、試しに遊んでみよっかな。時間あるし。


 右にスクロール。背景グレーの無機質。


 こんにちわー、マリンだよ。ゲーム始まる前にちょこっと、準備がいるの♡それでもいい?

 イイなら右にスクロール。


 右にスクロール。背景ピンクに変化。


 先ずは場所の設定ね、次の内、今当てはまる場所をタップして♡


 駅、屋上、バス停。


 駅。タップ。


 おお!それなりにリアルな3Dだなー。背景、今いるプラットフォームに似た仮想空間。


 じゃ!次はゲームの説明だよ。メッセージをやり取りして遊ぶの。上手かったら、マリンはちょっぴり大胆になっちゃうぞ♡


 イイなら右にスクロール。ダメなら左にスクロール。


 右にスクロール。何だ?メッセージやり取りのゲームって。


 ルールは簡単。


 りんご美味しい、て、マリンが書いたら、

 リンゴジュースは、好き?マリンちゃん。


 てな感じで最初の文字を揃えるだけ。文をつくるのは制限時間あるよ。十秒だよ!遅れたらそこでゲームオーバー。


 ハートが消えたらお、わ、り。ダメなキミに、ご褒美はありませえん。それは最後のお楽しみ♡


 最後に『ニノマエヨンデ』が、出てくるから、それをタップ出来たら特別なプレゼントがあるの、ちゃんと読んでね?♡


 ゲームを始めるのなら右にスクロール。

 ゲームをやめるのなら左にスクロール。


 特別なプレゼント?なんだそれ?あやしい出会い系かと思ったけど、言葉遊びのゲームかよ。大人バージョンだな。マリンちゃんとやらが脱いでくタイプ……。危なくなさそうだから。


 右にスクロール。無料アプリのゲームが始まった。





「突然驚いちゃったよ。まさか連絡貰えるなんて、えへ」


 へえ、昔付き合ってたという設定かな……。おお、上に十個並んでる『ハート』が消えてくぞ!俺は慌てて考えた。え、えと……文字を入力。


「と、とつぜん連絡してごめんね」


 思いっきり陳腐だな。


「びっくりしたけど、嬉しかった♡ねね、キミは驚かなかったの?私はその、身長も伸びてキミが、すっかり素敵になってたから……」


 び?び『び』だよ!ビビビビビ………。ハッ!命のハートが!


「びっくりしたよ、俺も……可愛くなったなって」


 かぁぁ!国語を真面目に勉強しとくんだった。語録が無い。四角い画面の中のマリンちゃんは、辺りをキョロキョロしている。


「こんなところで、ダメだよ……」


 頬を赤らめて、おお……、やっぱエロゲーだな。上着脱いで、ボタン外してるし……服脱ぐ準備だな……。♡が消えるぅ!慌てて入力。


「ここでも俺は平気だよ」


 くはぁ……、草生えるわ。


「目を閉じたら恥ずかしくないかな……」


 マリンちゃん、返信早いっ!食い入る様に見ていると、ブラウスをするりと脱ぐと思うや、何と!チェックのスカートのホックを外して手で押さえてるぞ!


「目、閉じたらいいじゃん!」


 ちょっとイライラとして即座に返信。なんだこれ、さっさと進めばいいのに。電車来たらどうするんだ。


「イイ?」


「いいよ!」


 何かアナウンスが流れてるけど、それどころじゃない。


「マリンの事好き?」


 パサリ……スカートが落ちたし、上ブラウスが、一枚きりだから、神のチラリズムがあるぞ!じぃぃと目を凝らして見ていたら、リンリンアラーム。ハートが点滅。あっぶねー。返信。


「マリンちゃんの事好きだよ」


 胸の前で手を組んで、縋るように見てくる、仮想空間の女のコ。ツインテールにムチッとした太もも、ボタンを半分開けているブラウス……。そこから見える、ギュウウな谷!間!


「だいすきって言って!」


 ふおお!ブラウス脱ぎかけたし!慌てて入力をした。頭の上では電車が通過するとのアナウンス。


「危ないので白線の内側までお下がりください」


 何か言ってっし!通過だろ!今は関係ない!前のめりになり携帯を見ている俺。僅かに身体がふらつき、ヨチヨチ数歩、前に出た感じの中、気合を入れて文字を打ち込む。


「大好き!マリンちゃん!」




『ニノマエヨンデ♡』


 出た!最後にタップするやつ!俺は勿論、高速タップをした。画面が明るくなりかわいい音楽が流れて……マリンちゃんのドアップ!パーツ、パーツがクローズアップされる!


 頭!うなじ!谷間に!腰、つま先?おい!膝に指先とな

 焦らすなぁ……下着ってどうやるんだろ?とスケベ心満載で、ハートが色とりどりで飛び交う画面を見ながら、その先のエロい展開を待っていれば。


 ちやらりらりーん!ブラックアウト。突然、画面が黒になる。


 なんだよ!おい!無料は所詮無料か?この先は登録とか……、登録高いのかな。いやいい、何でもする。だからマリンちゃんの……。


 俺はとりあえず待ってみる。うつむいてばかりいたので、一度頭を上げたら、ふらりと来る。そういえば寝不足気味だったっけ……。ぶるりと身を震わせて顔を下に……。じっと画面を見る。



 黒い画面に、赤い錆びた色の文字がじんわりと出てきた。


『スクロール。↓』


 聴こえる走行音。耳にどんどん近づいていている、鉄の車輪の電車。


 ガタタンガタタン、ガダタンガダタン、ガダタン、ガダタン……ガタンガダタン、ガダタン……。


 目が熱い、血がそこに集まっている感じ。身体の力も何もかも、全神経をそこに集中をし、首から上がカチカチだ。それは必死になり、画面を見ているからだ。


 囚われて離れられない。どうしたらこの黒と錆色から、目が逃げれる?


『ニノマエヨンデ♡』


 読もう……、指示通りにスクロールを、じわりと下ろす。何が書いてあるかは知らなかった。目に入る文字を上から順に読んで下りる。


気がついた。これは。コレって………。


『ニノマエヨンデ♡』って……、ニノマエって。










 ────────────────────────

 

♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡




 ()(つぜん驚いちゃった)


 と(つぜんごめんね)




 ()(っくりした)


 び(っくりした)



 ()(んなこと)


 こ(こでも)




 ()(閉じたら)


 め(、閉じたら)




 ()(イ)


 い (い)



 ()(リンの事)


 マ(リンちゃん)



 ()(だいすき) だ(大好き)。




 ────────────────────────


 終。


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― 新着の感想 ―
[一言] ニノマエと聞くと『SPEC』の一 十一を思い出します。 いやはや、怖かったです。 私も気をつけねば(汗) サブリミナル効果で飛び込む前にやめておきます!
[一言] すごいです。 惹きつけられるように読ませれました。 そして、ホラー。ヒィィィ。 秀逸です!
[一言] 毎回毎回、怖くないって、怖いじゃないですか。 最後にこれを持ってくる構成。 お見事です。
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