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 アルには先を越されたけど、私も幸せを求めて頑張ろう。


 そう思った矢先、ある訃報が入った。

 幼馴染の商会夫人の所へ連絡が来たらしい。それから急いで私へ連絡してくれた。


 亡くなったのは元旦那。

 別れてからは一切の連絡を取ってなかったから、彼女が知らせてくれなければ、知らないままだっただろう。

 私は、散々迷った挙句、葬儀に参列する事にした。


 たまに実家に帰っていたとはいえ、両親と街のギルド職員ぐらいしか会っていなかったので、参列者達は誰も私に気付かないようだった。

 そりゃねぇ。70代で20代の外見は、前世で言うところの美魔女もビックリだ。さすがに結びつかないだろう。


 知らせてくれた幼馴染の彼女に、ジェスチャーで「内緒」と伝えると、小さく頷いてくれた。


 親族の席には、再婚した奥さんとその連れ子の男性、もう一人の青年は、再婚した後にできた子供だろう。更にその奥さんと子供。

 あの時の子供がこんな立派な大人になって、子供までいるとは。

 改めて、過ぎた年月の長さに驚く。


 あの人も、子供と孫に囲まれて、きっと良い人生だったに違いない。悲しむ親族達を見て、そう思えた。


 あの時の決断と今日ここに来た事は良かったと思う。


 王都で恋人を作ったりして、吹っ切れたと思っていたのに、どこかにあの時逃げ出した罪悪感が残ってたのかもしれない。

 なんだか不思議な解放感を感じた。


 でも同時に寂しさも感じる。

 若いと言うより幼いと言っても良いあの頃、確かに幸せはあった。その幸せも彼の死と共に消えてしまうようで心許ない。


 幸せを求めて頑張るって決めたんじゃないの!と私は自分を叱咤した。




 それからは、世界各地の情報収集を本格的に始めた。


 エルフの国、妖精の国、魔族の国は一応場所が分かっている。魔力の低い獣人の国と、場所が不明の龍族の国は、除外しておく。

 と言っても、純血の者が多い国は、多少排他的になるらしいので、まず近隣の国へ様子を見に行くのも良いかもしれない。


 地図は、ギルドの伝手で取り寄せた。流石は世界規模の組織。


 それを使って、隣国ぐらいならいきなり空間転移もできなくはないけど、周囲の状況が分からないのは危ないので、短距離転移の繰り返しかな。


 そういえば、転移やその他の魔法諸々について、聞きたい事があった。私は、国立魔法研究所のテオバルトを訪ねた。


 昔から、新規魔法だ、大規模魔法だと実験の度に私を呼び出していたが、所長に納まってからは実験に直接参加できないからか、呼び出される事もなく、かなり久しぶりだ。


 通された所長室には、相変わらず無表情の昔馴染みが立っていた。


「久しぶり。時間取ってくれて、ありがとう。」

「ああ。雑務ばかりで退屈していたから、構わん。」


 職員(秘書?)さんが、お茶を用意してくれる間に挨拶を交わす。


「お前の方から来るとは珍しい。何の用だ?」

「ちょっと魔法関連で聞きたい事があってね。君が一番詳しいから。」


 目の前の所長は、同い年だから、74才?

 年齢と地位からすれば、尊大な話し方もまあ似合ってるけど、これが学生時代からなんだから、すっかり慣れてしまった。

 見た目は、前回会った時から変わりは無い。壮年?中年?実年齢の半分ぐらいに見える。


「まずは、空間転移だね。私の魔力で、最大距離はどのくらいだと思う?私1人と身につけた荷物で。」


 彼は計算機(の魔道具)で、何やら計算し始めた。私の魔力量は知ってるから、説明不要で楽だ。


「計算上、この星の反対側までだな。身体が勝手に使ってる基礎消費魔力を除いた、ほぼ全てを使えば。」

「は?」

「但し、他人の結界内からは、半分程度になるだろう。それを加味せずに到着地点を設定すると、目的地をロストして、とんでもない地点に出現する可能性もある。」

「うわぁ。」

「あくまで、その結界がお前の魔力量と同等までの奴が張ったものならだ。多少弱くても結界に特化した奴、明らかに強い奴の結界なら、出られない。結界が広ければ、多少の移動は出来るだろうが。しかし、お前はまともな返答も出来んのか?」


 うぅ。嫌味ったらしい奴め。


「だって、まさか星の裏側までなんて思ってなかったし。それって、どこでも行けるって事じゃない?」

「追加の身体強化や、結界も使えず、着いた先でも何も出来ん。危険極まりないがな。」

「転移先が安全じゃないとダメって事か。」


 いずれ、外国で部屋を借りるとかで拠点を作れば、その点は大丈夫かな。


「で、そもそも何で最大距離なんて言い出した?」

「それは…。この国に私と魔力量の釣り合う男が居ないから、魔力の多い種族も視野に入れようかなぁと思って。」


 私は迷ったが、正直に理由を話す事にした。この理詰めで出来てる男に、隠し事をしながら話すなんて、難し過ぎる。

 子供や、寿命など、好きになったら関係ないなんて思えるのは、最初の内だけだ。

 条件の合う人と好きな人が一致すれば、それが一番の幸せの筈。


「なるほど。じゃあ、拠点を外国に移すのか?」

「あれ?『男漁りに態々外国まで行くのか』とか馬鹿にされると思ったのに」

「何故だ?伴侶に魔力の釣り合いを求めるのは子孫を残す為に必須だろう。私も一族の中で魔力が多くて、頭の出来と性格のマシな女を選んだぞ。それでも私より随分劣るが。」


 ああ。彼の一族は、ゴリゴリの魔力第一主義だった。魔力の多い者に発言力があるし、魔力の多い次世代を産んだ者が偉いっていう。


 条件で妻を選んだみたいな言い方だけど、夫婦仲は円満らしい。奥さんは魔法学校時代の後輩で、その頃から彼女の方がゾッコンだったからな〜。

 まあ、顔は美形の部類だし、魔力多くて、知能も高いから、分からなくはないけど。

 私は、こんな理屈っぽくて、嫌味ったらしい男は嫌だけどね。迫られたこともないし。

 向こうも、私とじゃあ子供が出来ないだろうから、対象外なんだろう。


「そういう考えなら、話しやすくて助かるよ。拠点を移すのは、まだまだ先だね。今は下調べの段階だし、実際に何回か外国に出掛けてみて、馴染めそうな所を探さないとね。」

「本格的に拠点を移す時は言って行け。私はあと2〜3年で研究職に戻る予定だ。その時にお前が居るのと居ないのとでは、計画から違ってくるからな。」


 実験助手としては、頼られてる?いや、性能の高い実験器具かも。


「了解。まあ、ギルド通して依頼してくれれば、外国からでも来るけどね。転移してすぐ実験は無理だから、日数に余裕あれば。」

「そうか。呼べば来るなら、問題無いな。」


 やっぱ、実験器具か。良いけども。


「聞きたい事は、まだあるんだよ。さっきの話に戻るようだけど、魔力量の釣り合わない人同士だと、絶対子供はできないの?何か魔法とか、方法無いの?そういう研究も此処でやってるんでしょ?」

「………無いこともない。」


 珍しく、即答しない上、無表情が崩れて眉間に皺が。


「あー。研究は未完成ってところ?それか、リスクが高い?」

「両方だ。そもそも、混血の多いこの国は、純血の多い国より出生率が低い。この分野の研究はかなり以前から行われているんだ。」

「それでも、一般的になってないって事は、よっぽど難しいんだ。」

「そうだ。しかも、母体の魔力が多い方が難しい。」


 それって、まさに私の場合だよね。

 そうして説明してくれたのは、卵子の方が魔力が強いと、精子は卵子の障壁を越えられない。精子が強いと拒絶反応が起こる。もし、受精しても母体の魔力が強過ぎると着床できない。というような内容だった。


 妊娠の仕組みは地球と変わらないみたいだけど、片方の魔力が強いとはじかれるとはねえ。


「で、話し始めたからには、リスク高くても、その方法を教えてくれるんだよね?」

「ああ。お前、基礎消費魔力を意識的に切れるか?」


 相変わらず嫌そうに話すなぁ。


 基礎消費魔力は、無意識に使ってる魔力の事で、勝手に身体強化とか修復とかを行っている。基礎代謝されるカロリーとか不随意筋のようなもの。

 でも、カロリーや筋肉と違って、使わないとすぐ死ぬようなものじゃない。長い目で見れば、体調が悪くなったり、病気や怪我をしやすくなるけど。


 じゃあ、すぐ死なないからといって、使わないようにできるかと言うと、普通は(・・・)できない。

 でも、1週間後の体調不良より、今生き延びる為に魔力が必要な時はどうすれば良い?

 そう考えた人が過去にいた訳で、今の質問の意味は、それを知ってて、できるかという事だろう。


 私は、「できる」と答えた。


「できないと、魔法で強制的に切る事になるんだが、お前、その手の魔法が効かないからな。さて、方法はそんなに難しいものじゃない。まず、排卵日前日に転移でも何でもやって、魔力を相手より低くなる迄消費する。そして、基礎消費魔力を切って、身体の防御をなるべく下げる。このタイミングで、性交渉。その後、なるべくその状態を7日間維持する。」


 難しくはないけど、『リスクが高い』の意味が分かってきた。


「相手より低くなる迄って事は…。」

「そうだ。人間の平均魔力はお前の0.5%程だろう。そこ迄消費したら、失神してそのまま死ぬな。普通の人間相手では、この方法でも無理だ。」

「状態の維持っていうのは?」

「基礎消費を切り続けるのは勿論、回復する魔力も消費しろ。特に、最初の丸一日と5〜7日目は絶対だ。」


 私が考え込んでいると、まとめてくれた。


「結論としては、魔力1万以上の信用できる相手、7日間安全に過ごせる環境、回復する魔力を消費し続ける手段が必要になる。」


 私は、大きなため息を吐いて答えた。


「手間がかかり過ぎだよ。防御を下げてるから、信用できる相手ってのは分かるけど、この国に魔力1万以上の男って片手で足りるよ。魔力の消費だって、自分に身体強化も結界もかけずに転移なんて、危なっかしくてできないし、他の攻撃じゃない消費の大きい魔法って何だろう。」

「私を相手に、この研究所でなら条件は揃うぞ。貯蔵用の魔石に魔力を注げば、実験で消費されるしな。」


 …目の前のコイツは頭が良過ぎて、逆に馬鹿なのか?何を言い出すんだか。


「何言ってんの。私は、好きな人の子供を産んで、幸せになりたいの。だいたい、長い付き合いで君に迫られるどころか、私の手や肩にすら触った事も無いくせに、今更その気にもならないでしょ?」

「そうだな。今更だな…。」


 んん?何その表情(かお)?初めて見たんですけど。

 言葉のニュアンスも気になるけど…と考えていたら、ツカツカと近付いで来た。


「だが、私にとってはやっとだ。」

「え?」


 一瞬何が起こってるのか、分からなかった。

 冒険者として、現場に出てる時に不測の事態ってのは、時々起こる。でも、驚いて動けなくなる事なんて無かった。

 やっぱり、不測なんて言っても、何が起こるか分からないという心構えがあるんだろう。


 人間、本当に驚いた時には、フリーズするもんなんだな。


 私は、テオバルトに抱きしめられながら、キスされていた。




やっとここまで来ました。

テオバルトのターン開始。

お読みいただきありがとうございます。

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