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言い回しを少し変えました。ストーリーに変更はありません。
外国について調べ始めた頃、ある青年に告白された。
前の彼が亡くなってほぼ1年。Aランク冒険者で、結構な実績があり、人望もある、イケメン…。
ちょっと待て。いくらなんでも条件が揃いすぎじゃない?前回も前々回も…。
私は、その青年に、今はまだそんな気になれないと丁寧に謝った。
そして、王都ギルドのギルマスに、今年のギルマス会議はいつかを聞きにいった。
ギルマスの顔が引きつっていたから、余程恐い顔をしてたらしい。
ギルマス会議は、年一回王都に、国内各地のギルマスを集めて行われる。
ちょうど、半月後だったその日、会議の終わる頃を見計らって、会議室の出口に立つ。
目的の人物の胸ぐらを掴んで、私は言った。
「ア〜ル〜?帰りは送ってあげるから、ちょ〜っと時間貰えるかなぁ?聞きたい事があるんだけどぉ?」
アルは少し顔を青くして、コクコク頷いた。
本当は、私の家の方が気兼ねなく話せるんだけど、密室に2人きりはダメなので、レストランの個室にした。
まず何故ダメかというと、アルが結婚したらしいと風の噂で聞いたから。
女の家に2人きりでは、何もなくても奥さんは良い気はしないだろう。
重婚可だと、この頃には知ってたけど、だからって誰にでも愛想振りまいたり、あちこちに手を出して良い訳じゃない。特にまだ新婚さんだし。
選んだレストランの個室は、一応部屋にはなってるものの、入口にはスダレが掛かっているだけで、オープンな感じ。
いかがわしい事が起こらない場所なら、と思ってここにした。
他人を入れられる話題じゃないので、少しの間二人きりになるけど、許して欲しい。
さて、食事をしながら、まずは軽い話題を。
「元気そうだね、アル。」
「ああ。そっちも。」
「少し前に結婚したらしいじゃない。おめでとう。若い押し掛け女房に絆されたんだって?奥さん可愛いの?」
「なっ…んで、知ってるんだ?」
「地方とはいえ、ギルマスの動向ぐらい王都にも入ってくるよ。」
「そ、そうか。リアは、今どうしてるんだ?」
「ん〜?私?そこらへんが、今日聞きたい話でもあるんだけどなぁ。」
私は、アルの顔をじ〜〜〜っと見た。
「あー、知ってます。すみませんでした。」
アルは、耐えられなくなったようだったが、そこはまだ良いんだけど。
「そこよりもっと、気になってる事があるんだけど、王都を離れる時、Aランクの連中に何か言って行ったでしょう?」
「10年も経ってやっと気付いたのか?」
「アルの次の彼が、紹介されたような言い方だったから、その1人だけだと思ってたんだよ。だけど、その後も何か腑に落ちなくて。」
「ああ。確かに、しばらくしたらリアに声をかけてみれば良いとそいつに言ったが、同時に俺と同等かそれ以上の奴にしか、リアを渡したくないとも言ったな。」
………何だソレは。自分から離れていったくせに。まあ、昔の話だから、もう良い。
「1人はそれで分かるけど、後に2人も実力者が1人ずつ声をかけてくるのは、何で?アルはいないんだから、その言葉を守る道理はないでしょ?」
「その話を聞きつけた奴が、順番待ちをしだしたんだ。で、実力、人格を周囲に認められた奴が、お前の前に現れた訳。」
「何それ。私、賞品扱い?」
「順番待ちしてるのは、元々リーリア・ファイデに憧れてる奴だから、他を蹴散らしてでも、その賞品が欲しいだろうなぁ。」
?蹴散らしてでも?
「もしかして、その彼が怪我した後、自然消滅したのは…。」
「順番待ちしてる奴より弱いって事になったんだろうな。ただ、最終的に決めるのはリアなんだから、あいつが引かなきゃ、続いたんじゃないか?」
「ああ、うん。怪我も酷くなくて良かったと思ったし、別れるつもりなんか無かったよ。でもまだ付き合いも浅くて、私も一歩引いた付き合いだったから、向こうも強引になれなかったんだろうね。」
「で、次の奴とは、結構仲良くしてたんだろ?」
私は、ジト目でアルを見返した。
「去年までね。アルは何でも知ってるみたいだね。」
「そんな怖い目するなって。王都からうちの街を経由していく冒険者もいるし、ギルマス会議で王都に来ることもある。噂はそれなりに入ってくるもんだよ。」
「私の噂なんて、大して流れてないでしょ?」
キャリア長いから、顔見知りなら多いけど、親しい人は少ないし。あ、バケモノ並みに魔力があって怖いとか、あんまり喋らないから不気味とか?
「リアは、本当に自覚無いんだな。ギルド招集に参加する度、崇拝者を増やしてるってのに。」
アルが苦笑しながら言うけど、何の事やら。
「は?崇拝者?また、大層な。そんなのいるの?」
「でかい魔法を使う時、自分がどんな風になってるか、誰かに言われた事無いのか?瞳と髪は金色になってるし、身体全体も薄っすら光ってるぞ。」
「えぇっ!何その恥ずかしい格好。地味な茶色の瞳と髪が金色に見える時があるって言われてたけど、光の加減でだと思ってた。あ、そう言えば、学生時代に『魔法発動の時、派手派手しくてウザい』って言われた事あった。アレそういう意味だったのか。てっきり、大きい魔法を使えるからっていい気になるなっていう嫌味だと思ってたよ。」
「本当に知らなかったのか…。でな、その姿が、本人に言うのも何だが、『女神』みたいに見えるんだ。戦闘中の極限状態だから尚更な。まあ、俺もそのクチだったんだが。」
…半世紀冒険者やってきて、初めて知る事実。イメージが一人歩きするとは、正にこういう事だろう。
魔力が多いだけのコミュ障を「女神」とは…。
「えっと、意外と自分に人気があった事と、アルの所為で変な順番待ちがある事は分かった。」
「いや、俺の所為じゃないって。で、聞きたい事はもう良いか?」
「私の事はね。でも、さっきチラッと出た奥さんの話、まだ聞いてないんだけど?」
途端にアルが複雑そうな顔をした。
元カノには言いたくないって?お別れして10年も経ったんだから、もう良いんじゃない?
「どこまで知ってて、何が聞きたいんだよ。」
「若い押し掛け女房と結婚したってぐらいかな。馴れ初めとかどんな人かとか聞きたいなぁ。」
「随分前に別れたとはいえ、そんなニコニコした顔で聞かれるのは複雑だな。」
「それは先を越された私の方。はい、まずは馴れ初めね。どこで知り合ったの?」
先を促すと、アルは観念して話し始めた。
「3年ぐらい前に、うちのギルドに新人で入ってきたんだ。で、何が気に入ったんだか、1年経った頃から世話焼かれるようになってな。」
「ほうほう。」
「いつの間にやら、ギルド中の公認になったところで、プロポーズされてな。」
「なんと、逆プロポーズ!」
「熱意に負けて、一緒になる事にしたんだ。」
「積極的ねぇ。素敵。仕方なくみたいな口振りだけど、可愛くってしょうがないって顔してるよ?」
王都にいた頃のアルは、爽やかイケメンだったけど、今は落ち着きが増して渋さが出てきたっていうか、前よりイイ男になった。
こんな男がフリーだと聞けば、奥さんが必死にアタックしたのも分かるなぁ。
アルはちょっと顔を赤くしていたけど、反論は無いようだ。
「ねぇ、アル。今回の王都での予定は、元々どうだったの?」
「ん?まあ、会議がすんなり終わらない事もあるから、今夜は王都に泊まって明日帰るつもりだったが?」
「そう。私、明日お休みだから、送ってあげるね。」
途端にちょっと赤かったアルの顔が青くなった。
「まさか、嫁さん見に来るとか言わないよな?」
「家まで押し掛けたりしないから。百聞は一見に如かずってね。あれ?この世界にこの言葉無い?まあ、顔見たらすぐ帰るし。」
「ややこしくなる予感しかしない。」
「ちょっとぐらい良いじゃない。転移で一瞬で着くよ。あ!王都で人気のケーキとかお土産にどう?普通に移動するんじゃ、絶対に持って帰れないでしょ?」
「ぐっ。」
「その反応は、奥さん甘い物好き?アルの街まで、バスで1日弱だっけ。崩さず痛ませずケーキを運ぶには、ちょっと辛いよね〜。」
この世界にも自動車がある。バスもトラックも。魔石を燃料に走る車だ。各街から王都への定期バスがあるから、アルもそれで来たんだろう。
ギルマスなら、個人で車を所有する事もできるけど、道中魔物に対応できる護衛が必要になる。身軽に移動するなら護衛が同乗するバスになる筈。
それなりに揺れるバスでは、柔らかいケーキは崩れるだろうし、奥さんを王都に連れてくるのも、中々難しい。
何より、新婚の奥さんに王都のお土産ぐらい用意したいだろう。
女性は、甘いもの好きが多い。喜んでくれると思うけどな。
アルはしばらく悩んだ末、渋々了承した。
翌日、私は冒険者の格好でギルド近くの宿の前にいた。おめかしする事も考えたけど、奥さんをビックリさせるのも悪いので、止めた。
この格好なら、仕事のついでに寄った顔見知りで通るだろう。
ケーキや、今流行りのアクセサリーなどをアルに勧めて準備完了。
街から少し出たところで、アルの街(のすぐ外)まで転移。本当は、ギルドに直接行っても良いんだけど、慣れてない人に見られると、すごくビックリされるから。
さて、連れだってこの街のギルドに入ると、職員達がビックリしてる。
今日の夕方まで戻らない筈のギルマスが昼前に現れたんだから、当然だろうね。
その中で、若い受付嬢の視線が、私とアルを行き来してる。
あぁ。きっと彼女だな。
私は、笑顔で話しかけた。
「初めまして。私は、リーリア・ファイデ。Aランクの冒険者です。ちょっとこっちの方に用があって、ついでにギルマスを送ってきました。」
すると、彼女は満面の笑みになって、返事をくれた。
「あなたが、あのリーリアさんですか?お噂はかねがね…。あ、あの握手してもらえますか?」
勢いよく手を差し出し、何やらハアハアいってる様な?
私は、戸惑いながらアルを振り返ると、複雑そうな顔をして、こぼした。
「だから、ややこしい事になるって言ったんだ。」
アルと奥さんと私は、ギルマスの部屋でお茶を飲んでいた。手土産のケーキは、すごく喜んでもらえた。やっぱり、中々手に入らないからね。
朝夕は冒険者で賑わうギルドも、昼間はのんびりしたもので、ゆっくりしていってくれと頼まれた。
話を聞いてみると、アルの奥さん(クラリッサちゃんというらしい)は、重度の冒険者オタクであった。
私とアルが昔付き合っていた事は知っているが、「それよりAランク冒険者!」なのだそうだ。
歴代のSランク冒険者や、Aランク冒険者の中でもめぼしい者のプロフィールを蒐集しているらしい。
目をキラッキラさせて、Sランク冒険者の誰かに会った事があるかとか、今までに討伐した魔物の話とかを聞いてくるので、微笑ましくなって、色々おしゃべりした。何か仲良くなってしまったような?
予想してた展開と全く違うんですけど…。
夕方忙しくなる前に、帰ろうかなと思ったところで、アルが他の職員に呼ばれていった。
2人になると、クラリッサちゃんが急に深刻な顔をしたので、明るく振る舞ってても、やっぱり嫌だったかと身構えると、
「あの、割り込んじゃってごめんなさい。」
と謝られた。
いやいや、もう、10年も前の話だから。割り込みとかないよ〜。と説明しても、納得してない様子。
どうも、アタックし始めた頃、「忘れられない人がいる」みたいな事を言われて断られたらしい。
確かに、他にちゃんと付き合ってた人はいなかったようだから、それは私なのかもしれない。
それでも、諦めなかったクラリッサちゃんを尊敬した。
「アルとは、この10年殆ど会ってもなかったよ。今回は、去年まで付き合ってた彼の事を聞きたかっただけ。長い友人とは思ってるけど、男女の感情は無いから、私の事は気にしないで。」
「本当ですか?」
「うん。あとは二人の問題だから。忘れたから結婚したのか、忘れられなくても結婚したのかは分からない。でも、結婚は一つの結論だと思う。一緒に生きていこうっていうね。」
「そう、ですよね。結婚するぐらいの気持ちはあるって事ですよね。」
彼女は、気を取り直したようで、キリッと顔を引き締めた。
「そう。その意気。私は、昔、自分に自信が無くて諦めちゃったけど、今では自信の有る無し関係なく諦めちゃダメだったと思ってる。諦めなければ、自分を変えるなり相手に変わってもらうなり頑張れたと思う。アルを口説き落としたクラリッサちゃんなら、その気持ちきっと持ってる。それをずっと忘れないで。お幸せに。」
私は、心からの応援の言葉を贈って、帰ることにした。
お読みいただきありがとうございます。




