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祭の活気もおさまり、日常が戻ってきた。
また、ギルドからSランクに上がれと言ってくるようになった。
最近は、派手な討伐してない筈なのに。
ただ、王都に住んで20と数年、馬鹿みたいな魔力を持ってる事が、バレてきてるような気がする。
それでも、何とか誤魔化しつつ、日々を過ごしていた。
懇意にしている商会は、幼馴染が隠居して、息子に代替わりしたので、仕事を減らした。
規模が大きくなって、1人で護衛が出来なくなったからというのもある。
国立研究所は、テオバルトが所長になって、こちらも仕事が減った。
管理職になって実験する時間が無くなったと嘆いていた。
「別に、私を使って部下に実験させたら良いんじゃないの?」
と聞いてみたが、私というイレギュラーを何時でも使えると勘違いしてはいけないと言っていた。
本音は、自分がやらない実験に興味が無いだけみたいだ。おいおい。
国立研究所の所長になるぐらいなので、魔力はかなり高く、まだまだ生きるだろう。役職なんて、そのうち誰かに押し付けて、現場に戻るつもりに違いない。
そうして、私は殆ど変わらないのに、周囲の状況は、変化していくんだなぁ、なんてノンビリ構えていた。
プライベートは、良くも悪くも変わらない。
残念な事に、妊娠もしなかった。やっぱり、多少魔力が多くても、人間相手では無理なのかも知れないな。
もう、諦めた方が良いのかな?でも、せっかく新しい人生を貰えたんだから、自分も幸せになりたい。
出来るだけ、魔物を減らして住み易い環境を作る方も頑張るけど。
そんな停滞した日常は、それでも幸せな日常だった。
この頃の相手は、例の積極的な彼で、すっかり仲の良い彼氏の様になっていた。
もう5〜6年の付き合いになっていただろうか。
終わりは突然やってきた。
彼は討伐中に魔物にやられて、帰って来なかった。
私が側に居れば、と考えなかった訳じゃない。でも、それは無理な話だ。
相手もAランク。心配だからついていくなんてできないし、相手にも実力に伴った矜持がある。
そして、いつだって命懸けの仕事だ。冒険者になって、もう身体がついていかないと引退できるのは、一体どれ程だろう。殆どが、怪我で辞めるか、生命を落とす。
Aランクの者達は、状況判断に長けているから生き残っているけど、そうなれば更に危険な場所へ送り込まれる。
結局、この世界には魔力が満ちていて、それが魔法にも、魔物にも繋がっている。
便利な魔法が使える代わりに、魔物とのいたちごっこも続く。
せめて被害を抑えようと、強い魔物を倒して、冒険者も倒れていく。
今までだって、何人も見送ってきた。だけど顔見知りというだけでも悲しいのに、親しい者なら尚更辛い。
ああ、こういう事だったんだ。寿命なんて関係なく、今一緒にいる時を大事にしよう、というこの世界の考え方は。
所詮、寿命なんて目安であって、そこまで生きられるという保証がある訳じゃ無い。
彼だって、人間の平均よりはずっと長生きできる筈だったのに、こんなに早く逝ってしまった。
せめて、私といる間少しでも幸せを感じてくれた事があったら。
好意をあからさまに見せてくれた彼だから、そうだったら良いなと思った。
ハッキリと来世のある世界だから、次は幸せになって欲しい。
そして、私ももうグズグズするのは止めよう。
ちゃんと幸せになる努力をしよう。
示された好意に、曖昧な愛情を返して、何となく関係を続けるのは、その努力をしてるとは言えないよね。
たまたま相手が、いつも生命の危険と隣りあわせの冒険者だったから、受け入れられただけ。将来の約束が難しいから。
だから、娼館に行ったり、体だけの付き合いを否定するつもりはない。
だけど、自分を振り返ってみて、お前には出来なかったじゃないか、と自身に問う。
体だけの付き合いと割り切って、テキトーに相手を替えることも、相手からの愛情に絆されない事もできず、失って寂しくて落ち込んだり、もっと真剣に向き合えば良かったと後悔するぐらいなら。
そもそも、ちゃんと人間関係を築いて、好きになったりなられたりした人と真剣に付き合わないと、深い愛情なんて芽生える訳ないし、自分の人生にその相手がいるだけで良いという覚悟が、できる筈もない。
それに、そんな覚悟もないのに子供は欲しいというのは、子供にも相手にも失礼な話だったかも知れないな。
異世界という事と、自分が規格外な事が、必要以上に消極的にさせていたのかな。
もう私は、この世界で生まれたこの世界の人間なんだから、幸せな人生を送る為に頑張ろう。そう、強く思った。
と言っても、新しい恋を探す元気はまだ無かったけど…。
それでも、日にち薬とはよく言ったもので、次第に日常に戻っていった。実際、魔物は発生し続け、感傷に浸る暇はない。
指名依頼が減ったせいで、魔物討伐が主な仕事。
ある討伐で、国境近くの森の中が現場だった時の事。
地図を頼りに、転移魔法を使う。
余談だけど、転移魔法の行き先指定は『何となくこの辺』で良い。下手に正確に座標指定しちゃうと、そこに人や物が存在した時、大変な事になる。ぶつかるぐらいなら、打ち身で済むが、最悪混ざるらしい。ナニソレ、コワイ。
だから、見えてる場所ならピンポイントでも良いけど、遠くならザックリ指定。
すると、何も無い空間に出るのだ。
前に原理を教えてもらったけど、何か個体、液体、気体で魔力の存在量が違うから、物体を避ける術式がウンタラカンタラ…らしい。
何となく分かるからいっか。ウン。
生まれつき持ってるスキル【全属性全魔法使用可】で1度見聞きした魔法は使えるから、原理はいいや。
まあ、いいやで済ます性質が、研究者になれない理由でもあるな。
さて、本題に戻ろう。
地図によると、目的地の近くに小さい湖があるな。
まずは、身体強化と結界(物理)、結界(魔法)をかけてから、湖の側に転移…。
!!!
わずか数メートル先に黒い巨大な生物!
私は慌てて、湖の対岸に再度転移し、更にそこから見える森の奥へ転移した。
この時ほど自分が膨大な魔力持ちで良かったと思った事は無い。普通は連続転移なんてできないのだから。
初めは、魔物かと思ったが、そうではない。
あれは、龍だ。多分。
本物を見た事は無いが、あの大きさは魔物では有り得ない。今までに確認された最大の魔物の何倍もあるのだ。
まあ、新種の魔物の可能性も無くはないけど。
万が一魔物だったら、どんな魔物か確認しないといけない。
少し様子を見てみたが、追ってくる気配はない。
そして、今度は正面側からうかがってみたがやはり龍だ!
はあ、黒い鱗に日が差して綺麗。
初めて見た。
でも、向こうから接触する気も、攻撃する気もなさそうなので、私はそこから離れた。
本当は、少しでも話してみたかったけど、邪魔をして機嫌を損ねたら危ない。
一生の内にもう一度ぐらい会えるかな?
あっ。人化してたら分かんない。
龍がレア種族である理由は、その数が少ないのももちろんあるが、人化の魔法があるかららしい。
何処にあるのか公表されていない龍の国では、龍本来の姿らしいが、他の国へ行く際は人の姿になる。サイズが違いすぎるから。
他の種族でも、エルフや獣人は、平均サイズが人間とほぼ変わらないからそのままだけど、妖精や魔族は、人化したりサイズだけ人間ぐらいに変えたりしてる。
この世界は、人間の数が一番多くて、街も人間に合わせた所が多いから、合わせる能力のある種族が合わせてくれてる。
魔力の少ない人間が、魔法で変身してそれを維持するなんて無理だからね。(私みたいな例外はいるけど)
龍の国や、龍族については、自分のルーツにも少し入ってるらしい、という父親の話に興味をひかれて、色々調べた事がある。
人化した龍族は、超絶美形だとか。別にメンクイじゃないけど、一度お目にかかってみたいものだ。
だけど、国から一歩も出た事の無い私には、何処かにある龍の国を探すなんて、夢のまた夢だな。
その後、魔物討伐をこなして王都に戻った私は、龍に会った事を馴染みのギルド職員に自慢しまくった。
後に彼女曰く、
「普段、必要最低限しかしゃべらないリーリアさんが、あんなにしゃべっているのを初めて見ましたよ〜。」
と言われた。
うん。確かにはしゃいでたね。恥ずかしい。
でも、私って普段、そんなに無口?
龍に出会うという、嬉しいハプニングもあったが、基本的には魔物討伐を繰り返す日々を過ごした。
心を入れ替えて、もっと他人と深く関わって、心から好きになれる人を探そうと思ったのに、ソロで魔物討伐してたらそんな人と出会える訳ないよね。
冒険者は圧倒的に男が多いので、周囲に男はゴロゴロしてるけど、特に好感を持ってる人はいない。
よく見かける、挨拶ぐらいはする顔見知りというところ。
今更、どこかのパーティーに入るとか、複数パーティーを募集する依頼に混ざるとか、難しい。
人との交流はできるだろうけど、ずっとソロだった私の戦闘スタイルに合わないしな…。
いっそ、外国に拠点を移してみる?
恋人を探すにしても、子供を諦めた訳じゃないから、元々可能性の高い人が多い地域に行けば良いんじゃない?
ただ、人間(と人間寄りの混血)の多いこの国で生まれ育った私は、他の種族と接した事が殆ど無い。
文化も、種族や外見も全然違う人達の中でやっていけるかな?
いや、幸か不幸か時間はある。ゆっくり下調べして、自分が住めそうな所を探せば良い。
まずは、この国でできる下調べから。
私は、ギルドや図書館で、外国の情勢や文化を調べ始めた。
お読みいただきありがとうございます。




