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5 ある元Aランク冒険者の独白

アル視点

 俺の名前は、アルフォード。

 ある街の冒険者ギルドでギルマスをしている。


 以前は王都で冒険者をしていた。

 Aランクで、パーティーのリーダーを務めていた。そこそこ、実力はあったと思う。

 獣人と魔族の先祖がいたからか、身体能力が高く、魔力も多く持って生まれた。


 15才で冒険者になり、20才過ぎにはAランクに昇級した俺は、仲間を募り、大規模な魔物討伐や、大きな商会の輸送団を護衛したりと実績を積んでいった。


 周囲からも一目置かれるようになり、男も女も寄って来るようになった。

 実力のある奴は、仲間に加え、女は食い放題。完全に天狗になっていた。


 Aランクになって数年後、上級の魔物の大量発生が起こった。A・Bランク冒険者が招集され、現地に派遣された。


 その時の出会いが、俺の人生を変えたと言っても過言じゃない。


 派遣された中に、俺のパーティーと彼女『リーリア・ファイデ』が居た。


 彼女の印象は、クールビューティー。

 髪と瞳は薄い茶色で目立たないが、顔は整っていた。

 冒険者らしくない華奢な身体に、女らしい胸と腰の膨らみが、目を引く。

 だが、顔見知りと挨拶を交わす以外、静かに佇み、とても、気軽に声をかけられる雰囲気じゃなかった。


 彼女の事は、噂では知っていた。

 ソロのAランク冒険者で、魔法使い(・・・・)だと。

 その噂になんとなく違和感を感じていたが、実際に見てみて、その理由が分かった。


 武器を持っていない。服装は冒険者の一般的な物だったが、防具も付けていない。

 アイテムボックスの魔法持ちで、戦闘になったら取り出すのかと思ったら、そのまま現場に出てきた。


 よほど射程の長い魔法が使えるのかと思えば、それも違った。いや、恐ろしく遠くまでも届くが、近くにも魔法を放つ。

 前衛と大して変わらない距離で戦っているのを見て、すぐ魔物に殺られるんじゃないかと心配になったが、Aランクでそんな事があるんだろうか?


 そんな心配は正に杞憂というやつで、まず、素早い。そして、魔物が触れた部分に傷ひとつ付いてなかった。後から聞いたら、身体強化を何重にも掛けているので、防御力はかなり硬いらしい。


 しかも、何ヶ所同時に攻撃してるのか分からない。同時発動に連発。魔力切れしないのか?


 そんな彼女を見ていて気付いた。デカい魔法を使うとき、彼女の髪と瞳が金色に輝いていた。更に身体の周囲に視認できる程の魔力が渦巻いて、彼女自身が光に包まれているようだった。


 その神々しいまでの姿を見て、心を奪われた。ただ、それは俺だけじゃ無かったようだったが。


 戦闘終了後、負傷者に回復魔法を掛けて廻る彼女の魔力量に、空恐ろしいものを感じたが、それよりも、興味の方が上回った。


 王都に戻って、それとなく彼女の噂を聞いてみると、崇拝者が意外と多い。やはり、討伐で一緒になった奴らだった。

 ソロで、他の冒険者とは一緒に行動しなくても、ギルドからの招集には生真面目に応じているからのようだ。


 俺はそいつらを牽制しつつ、彼女に挨拶を繰り返し、笑顔で世間話をするぐらいには、憶えてもらえた。


 もちろん女遊びも止めた。印象を少しでも良くしたかったし、そもそも彼女に興味を持ってからは、他の女に全く気持ちが動かなかった。


 ある日、俺にとっては運命の日、休み前の夜に一人で飲みに行った。


 仲間は、女を沢山引き連れて飲みに行った。一緒に行けば、興味の無い女が媚びてきて、相手をするのも煩わしい。

 だが、休みの前に真っ直ぐ家に帰るのも物足りない。

 そう思い、馴染みの店で飲んでいたら、惚れた女の匂いと発情した雌の匂いが同時にした。


 俺は獣人の血が入ってるせいで、鼻はきく方だ。彼女が店に入ってきたのは、すぐ分かった。

 だが、この発情の匂いは…。誰かと待ち合わせか?

 俺は、焦る気持ちを抑えながら、彼女を観察していると、特に待ち合わせの様子も無く、1人分の料理と酒を注文して、飲み食いし始めた。


 どうやら、待ち合わせではないようだが、安堵したのも束の間、周囲の男達もチラチラと彼女を窺いだした。

 スタイルの良い女が1人ってだけでも目を引くのに、この匂いだ。アルコールで体温が上がってるんだろう。雌の匂いがどんどん強くなる。

 ソワソワしだした奴らは、俺と同じく獣人の血が入ってるな。


 俺は、他の奴が余計な事をする前に動いた。


「リーリアさん、こんばんは。お一人ですか?」

「あれ?アルフォード君?こんばんは。君も一人?珍しいね。」

「ええ。良かったら、一緒に飲みませんか?」

「一緒に?うん。良いよ〜。」


 あれ、もう結構酔ってるのか?目はトロンとして、口調もいつもよりくだけてる。

 こういうガードの下がった時に、親密度を上げておきたい。

 上手く飲ませて、お持ち帰りってのも有りかもしれないが、事後に嫌われたりしたら、少しずつ親しくなってきた、今までの苦労が水の泡だ。


 そう思って、お互いの故郷が何処だとか、依頼先であった面白い話だとか、当たり障りのない会話をしていたのだが、突然彼女が考え込んでしまった。

 何事かと内心焦っていると、


「誰か夜の相手をしてくれる知人を紹介して欲しい。」


 と、言い出した。

 普段クールな彼女が、赤面して小声で喋る姿は、反則級に可愛いが、その姿を堪能する余裕は無い。

 後腐れ無く遊ぶ相手が欲しい、なんて言葉がリーリアさんの口から出るのが、信じられなくて、思わずその顔を凝視した。恥ずかしそうな顔は冗談ではなさそうで、考えるまでも無く、名乗りを上げていた。


 彼女は、「君を誘った訳じゃない。」「誤解だ。」と焦っていたが、誤解なんかしてない。

 少しでも好意を持って俺を誘ってくれたなら、嬉しかったのだが、実際は、顔が広いからとかそんなところだろう。


 誰がこんな好機を他人に譲るか。


 俺は、リーリアさんの気が変わらない内にと、「誤解してませんよ。」「誰でも良いなら、俺で。」「そうと決まれば、行きましょう。」とまくし立て、彼女の家に行く流れに強引に持っていった。


 俺が強引に連れて帰ろうとすれば、嫌がられたかもしれないが、自分から言い出したせいか、戸惑いながらも彼女の家に連れて行ってくれる気になったようだ。


 彼女の部屋に、友達が訪れると言う話を聞き、

「お友達ですか?」

 と自分でも驚く程の声の低さで、問い返していた。


 同郷の幼馴染の女性と聞き、安堵した。他の男の影は無さそうだ。


 それから、付き合ってる女がいないかヤケに念入りに聞かれた。他にも、鑑定魔法を掛けても良いか聞かれたが、理由に違和感を感じた。多分、別の何か見たい項目があるんだろう。


「自分のも見せる」と言うので、了承した。

 彼女のステータスに興味があったからだ。


 案の定、色々知る事が出来たが、1番興味を引かれたのは、【異世界転生者】だ。

 世界全体には、それなりにいるらしいが、俺は初めて会った。

【全言語理解】は、異世界転生者が皆持っているスキルだと聞いた事がある。外国に行っても困らないんだろうな。羨ましい。


 珍しいのは、【全属性全魔法使用可】だ。こんなスキル初めて聞いたが、多分、どんな魔法でも使えるんだろう。


 そして、消された部分。


 年齢は、実は知っている。『リーリア・ファイデ』について調べていた時に聞いた。

 何故隠すのか分からないが、もしかして、年上な事を気にしてるのか?

 外見から年齢は全く分からないが、寿命が長い者は、若者の期間が長いのは当然で、若さや老いは、外見で判断するのが普通だ。

 彼女の外見は、俺より若いぐらいなので、どういう意味で知られたくないのか、よく分からない。


 そして、魔力。

 消されてる部分の桁数がヤバい。

 これは確かに、普通の人間とでは子供が出来ないだろう。


 俺は前衛職で、魔法は身体強化と低位の回復魔法ぐらいしか使えないが、魔力は高い方だ。

 それでも、消された数字が大きければ可能性は低い。遊びなら、面倒がなくて良いと思う所だが、リーリアさんの言った言葉に度肝を抜かれた。


「避妊せずに妊娠したら、結婚しても良い。」だって…?


 全身の血が沸騰したような気がした。

 目の前の女を貪り尽くしたい欲求と、腕の中に閉じ込めて全てから守りたい愛しさがせめぎ合う。


 俺は、必死に理性をかき集めて、それを了承し、先を促した。


 後から思い出しても、「よくその場で襲いかからなかったな、俺。」と感心するが、その後の事は赤面するしかない。


 覚えたての思春期の頃でも、あんなにやった事はなかった。

 次にこんな機会があるか分からない、と思うとどうしても手放せなくて、時間の許すギリギリまで求めてしまった。


 さすがに、やらかしたかとリーリアさんの様子を窺ったが、驚きや呆れた感じはしても、怒りや嫌悪は感じられなかったので、安心した。むしろ、動けなくなった彼女の為に作った料理に感謝された。


 だがその後数ヶ月、誘われる事は無く、やっぱり嫌われたかと、かなり凹んでいたら、また、声が掛かった。残念ながら、妊娠したという話ではなかったが、誘ってもらえた事で、すっかり浮上した。


 依頼主への完了報告を早々に切り上げ、ギルド職員や冒険者の女達にリサーチした王都1番人気のスイーツというやつを用意して、リーリアさんを訪ねた。


 早く来すぎた俺に、嫌な顔もせず、手土産に無邪気な笑顔を見せてくれた。

 間近で見る笑顔は、普段のクールな彼女からは、想像できない可愛さで。

 何とか彼女を自分だけのものにできないか、色々と手を考えた。


 その上、彼女は手料理を用意してくれていた。

 彼女の前世で憶えた料理で「日本食」とか「和食」と言うらしい。

 異世界転生者には、日本人が多いらしく、「和食」の材料が売っていて良かったと、料理をしながら話してくれた。


 前回の事を反省した俺は、初回程はがっつかないで済んだと思う。


 でも、最中に「リア」と呼ぶ事を許してもらい、翌日、動けなくはないものの、歩きにくそうな彼女と手を繋いだり、腕を組んだりして外出した。


 俺と彼女はAランクのキャリアも長いし、顔もそこそこ知られている。彼女の家は、ギルドの近くにあり、「リア」「アル」と呼び合いながら腕を組んで歩けば、俺達が付き合っているという噂は、スグに広まるだろう。


 彼女にも、


「その気になったら、俺に声かけて下さいね。他の奴誘わないで下さいよ。」


 と、念押ししておいた。


 これで、周囲の奴らを牽制できるだろうと考えた俺は甘かった。


 今まで難攻不落だったせいで、半ば諦めと共に憧れの存在となっていた彼女。

 俺と付き合った(と思われている)せいで、自分にもチャンスがあるかもと考える奴が出てきた。

 Aランクの中でも、実力を認められている内は良いが、何時まで保つか…。



 そんな俺の懸念など、リアは全く気付かぬまま、誘われる頻度があがり、俺からも誘っても良いと言われ、仕事も順調、と充実した日々は、8年も続いた。


 長い年月の間に、前の結婚の事やら、魔力の事は少しずつ聞き出した。


 どうやら、リアは子供が欲しいらしいな。

 実は、ここを含めて殆どの国で、重婚が認められている。魔力や種族的に子供が出来にくいカップルは、可能性の高そうな伴侶を新たに見つけるという話もよく聞く。

 だが、彼女は無意識でそれを避けているようだ。育った街の影響か、前世の知識のせいかは分からないが。


 まあ、俺としては、前夫が2人目の妻を娶るのを良しとして、彼女が王都に来なかったり、俺との関係をさっさと放り出して、他の可能性の高い奴を探される事を考えると、ゾッとするので、それで良かったのかも知れないが。


 そんな幸せな生活は、俺の怪我であっけなく終わった。

 冒険者を続けられなくても、冒険者養成学校で講師の口を探すとか、王都に残る手段はあったと思う。


 だが俺は、リアと離れる事にした。駆け出しの頃世話になった、故郷のギルマスに頼まれたのもある。


 でも1番の理由は、このままの関係ではいられないと思ったからだ。

 この8年の間に子供は出来なかった。

 彼女の容姿は、全く変わっていない。俺も魔力が多い方なので、多少長生きするだろうが、多分彼女とは桁が違う。


 それでも、もし子供がいたら、何としてでも彼女と離れなかっただろうが。

 …ははっ。今になって彼女の気持ちが分かった気がするよ。


 冒険者ギルドは、世界中で繋がっている。

 離れても、リアの噂ぐらいは聞けるだろう。

 彼女が子供に恵まれるか、そんな事関係ないと思える様な相手と出逢って、幸せになれる事を祈っている。


 …なんて、格好良い事を言ったが、本当は、冒険者を続ける彼女に嫉妬する、格好悪い俺を見せたくなかっただけなんだけどな。



お読みいただきありがとうございます。

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