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 旦那と別れた後の私は、それは酷かった。


 まず、王都に逃げた。

 Aランク昇級は、元々ギルドから求められていたので、すぐに認められた。


 自分の荷物だけを持って、他の財産は全部元旦那に押しつけてきた。

 戻るつもりは無かったので、王都に部屋を借りたが、物置と化し、住んでいるとは言い難かった。


 絶え間無く依頼を受けた。

 特に魔物の討伐依頼を重点的に受けた。

 魔力があって上手くいかないなら、精々使ってやろうじゃないか。そう思って。

 魔物に散々、八つ当たりしてやった。



 地元のあの街には、両親が住んでいるので、年に1、2回は、様子を見に行った。

 ついでとばかりに、街の近郊の上級の魔物を殲滅し、中級の魔物を間引いた。

 こうしておけば、街の冒険者で対応できるだろうし、死人が出る程の被害は起こらないはず。


 だけど、街に戻れば噂ぐらいは耳にする。元旦那は、別れて数年後彼女と再婚し、更に数年後子供ができたらしい。

 幸せになって欲しいと思っているのに、やっぱり悲しい。

 そんな時は、王都に戻ってからの八つ当たり生活が、激しさを増すのだった。



 そんな生活も十年もやれば落ち着いてくるもので(と言うか我ながら十年って引きずりすぎだ)、魔物討伐だけじゃなく、色々な依頼を受けるようになっていた。

 特に知人からの指名依頼がよく来るようになった。


 1つは、故郷の街の商会が王都に出店する迄に成長し、そこの会長夫人が幼馴染だった縁から、輸送の護衛。


 もう1つは、魔法学校時代の同級生、テオバルトが、国立研究所でお偉いさんになり、大規模魔法の起動実験協力。

 本当は、魔力供給(私の言うところの魔力乾電池)もやって欲しいらしいが、大規模魔法に大量の魔力を使っているのだから、十分だろう。


 学生時代は、起動だけだったが、この頃は、改良にも協力した。

 魔法を使う経験が増えた事で、魔力が引っ掛かったり、滞留したりする箇所が分かるようになった。

 それを直して、すんなり魔力が通れば、魔力の省エネだ。消費魔力が少ない方が、使える人も増える。


 私が起動実験によく呼ばれるのは、改良に協力できるからという理由も勿論あるが、やはり、一人で大量の魔力が用意できる事が大きい。


 そもそも大規模魔法は、数人から数十人で同時に、或いは魔石に大量の魔力を貯蔵しておいてやっと使える。

 それだけの用意をして、魔導式が間違えていて発動しなかった、では済まないので私に回って来るのだが、私でも危ない事はあった。


 あれは、多人数を一度に空間転移させる魔法の開発の時だった。

 大規模とはいえ、必要な魔力の理論値は出ているので、私の魔力で足りるはずだった。

 魔力は一度に大量に消費し、残りが少なくなると失神する。更に0になると意識不明のままになるか、最悪死亡する。

 その事は、魔法学校でも最初に習うので当然知っていたが、まさか自分に起こるとは。


 魔法を起動し、どんどん魔力を流していくと、もうすぐ発動というところで、何処かに穴でも開いている様な感覚がし、魔力が吸い取られていった。

 普段、身体強化に無意識に使っている分まで、魔力が吸われていく事に気付いて、慌てて魔力供給を切り、意識が朦朧とする中、なんとか予備の魔石を持ってきてもらって魔力回復し、事なきを得た。


 いつもは無表情で嫌味ったらしいテオバルトが、真っ青になってたのを覚えてる。

 さすがの奴も、自分の実験で死亡事故は嫌だったらしい。


 後にも先にも、生命の危機を感じたのはあの時だけだ。

 あれ以来、非常用の魔石を携帯して実験に臨んでいるが、もし、複数人での実験だったら、魔力供給を切るタイミングを掴めず、死んでいただろう。

 改めて、実験の危険性を認識した一件だった。


 勿論、魔導式の不備を改良し、魔法が完成するまで実験には付き合った。



 そうやって、自分としては、割と落ち着いた生活を送っていたが、少し前までの八つ当たり生活の実績で、ギルドからSランク昇級を推挙された。

 私は、それを固辞(絶対嫌だと断固拒否)した。


 私は魔力量は多いが、冒険者ランクはゆっくり上がってきた為、Aランクの中ではそんなに目立っていなかった。

 他にスピード出世したAランク冒険者が何人もいたし、大抵一人で行動していた為、正確な実績はギルドしか知らなかったから。


 Sランクというのは、驚異的な力を持った、英雄的イメージなのだ。

 そんなもんになってしまったら、目立ってしまう。今はまだ、「色々魔法が使える冒険者」ぐらいなのに、「バケモノみたいな魔力を持った人間」と見られるだろう。


 絶対、Sランクにはならない。



 同じ頃、身体に変調が現れた。

 と言っても、何処かが悪い訳ではない。

 まあ、率直に言ってしまえば、発情期が来た。時々、性欲が、高まって辛いほど。


 そう言えば、結婚生活の中で、私が全然変わらなかったと言ったが、一つ訂正しておく。

 胸とお尻が成長した。太ったのだと思っていたが、その後の八つ当たり生活で痩せても、胸とお尻の成長は続いた。


 うん。結論から言おう。私の身体は性的に成熟してなかったんだね。

 で、成熟したら、性欲が増したと。何で今更。



 私は、途方に暮れた。

 月経周期によって波があるが、排卵期前ぐらいに、最も性欲が高まる。

 自分で慰めてみたりもしたが、それまでした事も無かったから下手なのか、一時的に(おさ)まるだけで、スッキリしない。

 この世界にも娼館という性的サービスはあったが、ほぼ男性向けだったし、男娼なんていうのは上流階級の有閑マダム向けの、紹介の無い方お断りサービスらしい。

 そんなツテは無い…いや、割と大きい商会の夫人なら、知ってそうだけど、幼馴染にこんな相談できないよ。しかも、もうお互いいい年なのに。


 耐えるのも限界なのか、排卵期前は、とうとう集中力が保てなくなった。

 なまじ魔力があるだけに、集中できずに魔法を使うのは危険だ。

 その期間は、仕事を休む様になった。


 だが、断れない仕事が来るのもAランク。

 指名依頼でも、実験なんかは少し日をズラしてもらえば良いが、護衛業務はそうはいかない。


 何とか体調を戻して、通常通り仕事がしたい。

 別に、収入が必要な訳では無いけど。


 王都に住んでから稼いだお金の使い途は、家賃と食費と僅かな仕送りだけで、殆ど残っている。

 以前、報酬から生活費を引いた残り全部を仕送りしたら、両親から滅茶苦茶怒られた。そろそろ年老いてきた両親に、せめて贅沢してもらいたいと思ったのだが、「自分で稼いだお金は自分の為に使いなさい」と。でも、他の用途も思いつかなくて、結局残っていくのだ。

 だから、しばらく働かなくても生活には困らない。


 でも、知人の依頼ぐらいは、こなしたい。


 原因も解決法も分かっているのだ。

 性欲なんて、誰かといたせばスッキリする。

 しかも、処女でもないし独身バツイチだけどで、障害は無い。

 ただ、最初に娼館を考えたぐらいだから、時間をかけて恋人を探す気も無い。

 手っ取り早く相手をしてくれて、恋人とか結婚とか言いださない男がいないかな…。

 前世でいうところのセフレか。

 あぁ。経験人数は、前世では付き合った数人、今世は元旦那だけだというのに、セフレを探す様になるとは。

 前世からの倫理観が「ふしだらだ」と糾弾してくるが、そろそろ仕事だけじゃなく日常生活も送れなくなりそうで、余裕が無い。

 冒険者の顔見知りに声をかけてみるかな…。



 そんな事を真剣に考え出した、ある排卵期前。集中力が切れてきて明日からは仕事にならないなと思い、2、3日休む事にした。

 今の所、指名依頼も無いし、今日はガッツリ飲んで、明日から家に引きこもっちゃおうと決めて、一人で居酒屋に入った。急に思い立ったから一人だけど、私にだって声をかければ、一緒に飲みに行ってくれる知人ぐらいいる。決してボッチな訳ではない…と思いたい。


 一人で飲んでいると、どうしてもペースが速くなる。ちょっと酔いが回ってきたかなと思っていると、顔見知りが声をかけてきた。


 彼は、アルフォード君といって、ギルドでもよく声をかけてくれる好青年だ。

 若くしてAランクに昇級し、その後も安定した実績をあげ、割と大きなパーティーのリーダー。更に見た目も金髪に(はしばみ)色の瞳の中々のイケメンで、人気も高いし、パーティー以外の冒険者にも慕われている。


 そんな彼が一人でいるのも珍しいな。彼も明日は休みで、飲みに来たらしい。

 せっかくだからと、一緒に飲む事にし、他愛もない世間話に盛り上がる。

 ふと、この青年なら、顔も広いし、誰か紹介して貰おうかと思いついた。

 酒の勢いで頼んでみた。


「誰か夜の相手してくれる人いないかな?結婚してない、恋人もいない、変な性癖のない、後腐れのない人が良いんだけど。」

「それ、俺じゃ駄目ですか?」


 んん?あ、お誘いだと思われた?

 いや、君みたいな人気のイケメンを落とそうとかじゃなくて、誰か紹介を…と焦って言い募るが、「はい」「分かってます」「大丈夫」と軽く流され、あれよあれよと言う間に、店を出て私の家に行く事になってしまった。


「え?今から??」と混乱する私の後をニコニコしながら付いてくるアルフォード君。

 混乱しつつも、どこか期待する自分もいた。こうやって付いてくるということは、その気はあるんだろうし、幾つか確認したら、もう良いかな。とりあえず、一回相手してもらえば、(おさ)まるだろうから。


 家に着いて、少し酔いのさめた私は、彼に椅子を薦めて、お茶を入れた。


 部屋を見渡していたアルフォード君に言われた。


「リーリアさんの家って、生活感無いですねぇ。」

「え〜。これでも、だいぶ家具とか増えたんだよ。始めの頃はベッドしかなくてね。最近、友達がたまに来るようになったから、お茶やら、簡単な料理なら出せるようにしたんだよ。」

「お友達ですか?」

「ん?そう。同郷の幼馴染。よく護衛してる商会の夫人。」


 やっぱり、友達いないと思われてるのかな?怪訝な顔をされたけど。

 さて、本題に入ろう。


「えっと、確認したい事が、幾つかあるんだけど、良いかな?」

「何でもどうぞ。」

「今、彼女は?」

「いません」

「故郷に隠し妻とか」

「いや、いませんって。」


 イケメン凄腕Aランク冒険者なのに?

 いや、確かに昔は遊んでるようだったのに、最近はそんな噂聞かないけど…。


「えっと、失礼だけど、病気とか無いか鑑定かけても良い?もちろん、何かあれば治癒魔法かけるし、私のも見せるから。」

「ええ、まあ、それで安心してもらえるなら。」

「じゃあ、早速。」


 と言って、私は詳細(・・)鑑定をかけた。これは、普通にステータスを見るだけじゃなく、家族構成も見られる。

 単なる恋人は分からないけど、正式な婚約者や伴侶がいれば、分かるのだ。

 バツイチの経験から、割り込む側にだけは絶対なりたくない。

 うん。奥さんはいなさそう。状態も健康。


 次に、自分に普通(・・)の鑑定をかけ、紙に複写し、年齢と魔力の項目はペンで塗り潰してから渡した。おっと、【異世界転生者】は、そのままだけど、まあ良いか。


「はい、私の。お互い健康。魔法の必要は無いね。年齢はヒミツ。まあ見た目通りではないのは知ってると思うけど。」


 20才ぐらいに見えるけど、冒険者のキャリアが何十年だからね。

 冒険者には、それなりに高い魔力を持った人も多いから、そんなに珍しい事でもないけど、中身が結構な年だって知って萎えられるのもツラいし。


「魔力は、バカ高いとだけ言っとくね。だから、避妊しなくても、まずできない。でも、一つだけお願いがあるんだけど、聞いてくれる?」

「言ってみてもらえますか?」

「もし、万が一妊娠したら、産んでもいいかな?責任取ってくれなんて言わないし、逆に自分の子供を育てたいって言うなら、結婚しても良いから。」

「え?」


 何か目の前の青年の目が怖いんですけど、やっぱり駄目かな。

 でも、元旦那の魔力は普通だったけど、Aランク冒険者だったら、万が一ぐらいは期待できるし、一応、承諾取っておきたい。


「どうかな?駄目なら、今日は避妊の魔法を」

「いえ、大丈夫です。それで良いですよ。では、始めましょうか。」


 ???何か遮られたけど、良いと言うなら良いのかな。

「うん、じゃあ、魔石補充しとくから、先にシャワーどうぞ。タオルは、置いてあるのを使って。」


 この世界には、電気やガスは無いけど、魔力がある。照明もコンロも魔道具で、魔石に魔力を注いで使う。

 道具一個一個に魔石が付いてるのもあるけど、うちは大きめの魔石で、家中の道具を賄っている。要は蓄電池の魔力版だね。

 ただ、水だけは何も無い所から作るのは、それなりに魔力がいるので、街には水道が整備されている。給湯器はもちろん魔力で動く。


 私は、アルフォード君をお風呂場へ案内し、台所近くの魔石に魔力を供給した。

 その後は、手持ち無沙汰でソワソワしていたら、彼が出てきたので寝室に押し込んで、私もシャワーを浴びた。


 酔いもさめて、だんだん恥ずかしくなってきたが、今更止める訳にもいかない。それに、ここ数ヶ月の仕事もままならない程のモヤモヤが、また身の内に渦巻いてきて、もう、耐えられそうになかった。


 寝室に入ると、ベッドに腰掛けていた彼が近付いてきて、抱きしめられた。


お読みいただきありがとうございます。

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