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本日2話投稿しています。1からお読み下さい。
矛盾点を指摘していただいたので、少し改稿しています。大筋は変わっていません。
3年後、王都の学校に行くにあたって、用意すべき物は生活用品ぐらいだった。
学費、寮費(食費込み)は国負担だ。
これは、優秀な人材を確保する為だろう。
もちろん、勧められた進路を拒否する事は可能だ。だが、本人や家族にとってはほぼ無償のうえ、卒業後の進路も高給な職が選び放題とくれば、断る者の方が少ない。
近所の友達の反応は、「王都の学校に行けるなんて良いな〜」とか「魔法いっぱい使えるんでしょ?」とか、「長生きできて良いな」とかで、5、6才ならそんなもんだろう。
小学校(基礎学校)に通いだして、先生にエルフや妖精、龍の寿命について聞いてみたら、エルフは五〜七百年、妖精は約千年、龍に至っては、千年から三千年との事だった。
不老長寿と聞いて、悲愴な気持ちになるのは、日本人だけなんだろうか?
不死じゃないだけマシとか、そういう問題でもない。
…まだ先の話だ、今から悩むのは止そう。
地元での9年間は、楽しかった。友達と沢山遊んだし、「我が街の期待の星」だと言って、大人達はこぞって魔法を教えてくれた。忘れない様に使える魔法のリストを作った。
王都へ旅立つ時、両親は寂しそうだったが、笑顔で送り出してくれた。まだ幼いのだから、当たり前だ。だが、人間の枠に収まらない程の魔力を、いずれ持て余す事は明白で、専門家に任せるのが将来の為だと思っていた様だった。
王都の魔法学校は、楽しかったとも、辛かったとも言い難い。
まず、同級生には妬まれた、或いは遠まきにされた。
そりゃそうだ。皆、「地元の期待の星」だったのに、いざ着いたら文字通り桁違いに魔力量の多いのがいるんだから。魔法学校で習ったところ、魔力量の最大値は、修行や、職業によって上がることもあるらしいのだが、その差は埋まりそうにない。
まあ、私も理不尽さは感じる。
一応、嫌われていた訳ではない様で、卒業する頃には、仲の良い友達もできた。
先生達には、可愛がってもらえた。特に、新魔法を開発する先生達には、沢山魔法を教えてもらう代わりに、起動実験に駆り出された。研究室で魔力供給もよくやった。良いバイトだった。動く乾電池扱いである。
そして、専門の学校に行って5年。私は作るより使う方専門だという事を悟った。
新魔法や魔道具の開発も、生命科学も、魔力はそこそこでも、知性が高い人がやるべき。
特に同級生に当代随一、並ぶ者のない頭脳を持つ奴がいた。名をテオバルト・ベルナーといい、先生達との実験に一緒に参加しては、嫌味を言ってくる奴だった。そいつと、先生の会話を聞いても、どんな研究をしているかは理解できるものの、それを発展させるとか、私には無理だ。
この経験から、魔法学校卒業後は研究者は無いな、と思い知った。
やっぱり、この魔力は、魔物を倒す為に使おう。幸い、魔法学校は専門家の集まりだけあって、現存する攻撃魔法と治癒魔法は、かき集めてきた。
ただ魔法を使うだけなら問題ないが、戦闘経験も、魔物の知識も足りないので、魔法学校を卒業後、冒険者の養成学校に入った。
冒険者養成学校は、冒険者ギルド(やっぱりあった!)が運営している。
魔法学校の卒業生は、冒険者になる者も多く、魔法学校→養成学校卒業で、冒険者Dランクからスタートできる。実習中に成果を上げればCランクを貰える。(素人から冒険者を始めるとFランク)
冒険者ギルドは独立組織で、世界中にあるらしいが、各国と協力関係にあり、魔法学校の卒業生が冒険者になった場合、5年以上最初の国に留まるよう義務付けられる。
学費を国に負担してもらったんだから、これぐらいは、当たり前だろう。
もちろん、一時的に外国に行く事は可能だが、守らないと、仕事を請けたり、報酬を貰ったりができなくなる。
養成学校の期間は1年。
学費は無料。ただし、寮費、食費は自己負担。魔法学校が無料だったのだから、1年ぐらいはと言って親が用意しようとしてくれたが、魔力乾電池になったバイト代があったので、それで賄った。
養成学校卒業後、15才の成人と共に冒険者になった。
もちろんCランク。魔法は、どんな魔法も使え、無詠唱も複数同時起動もこなす。身体能力は、元は普通だが、魔力で強化されて、力も速さも並の冒険者より上なんだから、当たり前だよね。その身体能力に慣れるための1年だった。
冒険者になった私は、故郷に戻った。
地方ではあるが、一応街なので、冒険者ギルドもある。
王都の方が仕事は多いらしいが、魔物を倒し地元の安全を優先したいと思うのが、人情ってもんだろう。
同郷、同年代で冒険者になった者は少なかったので、地元の幼馴染達は、私が冒険者になった事は知っていても、「なんか凄いらしいね〜」という程度の反応だった。
まあ、Cランクといえば中堅クラスだし、どんな風に、どんな魔物を狩っているかは見てないのだからね。下手に怖がられるのも嫌なので、それで良い。
多分本当は、Sランクの魔獣でも倒せる。
魔獣は、魔物より上位クラスで、Sランクの冒険者でも数人がかりで倒す存在だ。
でも、馬鹿みたいに魔力のある私なら、足止めの結界と魔法遮断の結界を二重に張って、中で極大魔法でも使えばやれる。
でも、魔獣なんて滅多に出ないし、そんな事をやった日には、自分がバケモノ扱いされるだろう。恐ろしい。
せっかく地元に戻ったのだから、幼馴染達とはよく、ご飯を食べたり飲みに行ったりした。
皆、大人になっていて、それぞれの仕事の話を聞くのも、面白い。
そこで、一人の男性を紹介された。私が王都に行った後、この街にやってきたらしい。
こげ茶色の髪と瞳。元日本人にとって懐かしい色合い。この世界は明るい色合いの人が多いので、目の前の男性に何だか親しみを覚えた。…のが幸せと苦しみの始まりだったのだけど。
ちなみに私は、明るい茶髪と明るい茶色の瞳で、光が当たるとどちらも金色に見えるらしい。金髪は珍しくないけど、瞳が金は珍しいかな。
まあ、この世界のエルフや妖精や魔族には、緑とか水色とか赤とかの髪の人がいて、混血の人間にもそんな色が出る事があるから、一見茶色の私は、地味だよね。
そんな私に、彼は「綺麗だ」と言ってくれた。
友達と一緒に集まる関係から、二人で会う仲になった頃、私は「しまった」と思ったが、もう遅かった。
彼に向かう気持ちは、もう、無かった事には出来ない程だったから。
この世界は、色々な種族とその混血の人達がいるため、夫婦に寿命の差があるのは当たり前で、だからこそ、一緒に居られる時間を大切にすれば良いんだという思想がある。
病気や怪我で、それが逆転する事だってあるのだから、と。
彼が私にプロポーズしてくれた時、私は魔力が多過ぎて、多分、同じ時間を生きられないし、子供も出来ないと説明した。
彼は、「子供が欲しいから結婚するんじゃなくて、リーリアと結婚したい。」と言ってくれた。そして、この世界の常識に従って、お互いを大切にすれば良いと。
私は前世の知識から、心配したが、彼の言葉を「そうかも」と思う、いや思いたい自分もいて、プロポーズを受け入れた。
結婚して初めの十年間は、本当に幸せだった。
私が18才、彼が19才の時に結婚し、私はBランクに昇級、彼が家具職人として独立した頃だった。
彼は若かったからか、夜の生活も凄かった。
Bランクになった私は、大物を狩る為に、2、3日出掛けては、数日休んで、また数日出掛けるというサイクルで仕事をしていた。
帰ってきた日は特に凄くて、抱きつぶされた事も何度もあった。
純粋な体力は、私の方が上のはずなのに、夜のソレは違うのかと驚愕した。
やがて、彼の性欲が落ち着いてきた頃、周囲の家庭は、子供達の声が響き賑やかになっていた。
私は、大人だけの我が家が少し寂しかったけど、原因が自分にあると分かっているのに、そんな事を言えるはずもない。
だけど、心の中では彼に引け目を感じていたんだろう。
冒険者としては何の問題も無く、ただ、ギルドからは再三Aランクに上がれとせっつかれていた。
Aランクに上がるには、Bランクでの実績と各国ギルド本部(だいたい王都や首都のギルド)のギルマスの認可が必要で、Aランクになると、国からの依頼とか指名依頼とか断れないのが増える。勿論報酬も増えるが。
夫婦で働き経済的に余裕があり、地元の街を拠点に活動したい私としては、デメリットしかないので、Bランクに居座っていた。
そんな風に、少し寂しいながらも穏やかに、次の十年間は過ぎた。
結婚して二十年が過ぎた頃から、変化は始まったような気がする。或いは、私が変わらなさ過ぎたから、とも言える。
恐れていた事が始まった、と思った。
この世界の成人である15才までは、他の人と殆ど成長が変わらなかったから、油断していた。
20代の頃は、問題無かったが、30代になっても私は髪型しか変わらなかった。旦那と並ぶと1才差のはずが、10才以上違って見えた。
その頃には、旦那も実感したと思う。「同じ時間を生きられない」事を。
何だか関係がぎこちなくなっていた頃、旦那の知人が亡くなった。
山で土砂崩れに巻き込まれ、見つかった時には、既に息が無かった。
どんなに重傷でも生きていれば、治してあげられたのに。
奥さんと生まれたばかりの子供が残された。奥さんは私が王都に行っている間に生まれた人で、旦那とは元々近所付き合いがあったので、何くれとなく面倒を見始めた。
私がいつも家にいるような妻で、うちに子供がいたら、親しくなっていく二人を止められたと思う。
でも、躊躇ってしまった。彼の幸せはあっちにあるんじゃないかなって。
結局、自分の自信の無さに負けたんだと思う。冒険者としては自信につながる魔力も、人間としては異常としか考えられなくて。
だから、彼に別れてくれと頼んだ。
初めは、何を言われてるか分からないって反応だった。
後から考えれば、たまたま周りにいなかっただけで、重婚が合法な世界なのだ。彼の行動は何の問題もないし、人口の少ない世界では子供は宝なのだから、むしろ褒められるべきなのかもしれない。
それに多分、まだそんな関係にもなってなかったんだろうと思う。でも、自信の無い私は逃げる事しかできなかった。
納得できないと言う彼に、子供ができない事に負い目を感じてる事、それを感じながら一緒に暮らしても、誰かと親しくするのを見るたびに辛いと自分の気持ちを訴えたら、最後には悲しそうな顔をしながらも、納得してくれた。
日々親しくなっていく彼らを見続けるのは限界だったから、別れる事を了承してくれて、本当に良かった。
「そんな女の所に行かずに私と居て。」と言えれば、それで良かったのかも知れない。ごめんなさい。今まで、ありがとう…。
お読みいただきありがとうございます。